そのとき、眠っていた影月がゆっくりと目を開けた。劉輝がもつ木簡に気付いて跳ね起きた。


「それ──僕の受験札!?」

「……じゃ、ない。秀麗、見つかったか?」


一連の親分たちとのやりとりの間も、血眼でずっと木簡を調べていた秀麗は、がっくりと肩を落とした。


「……ないわ。もう一人の影月くんがここにはないって言ってたんだけど────」


もう一人の影月──いや陽月。琳麗は、ふと考え込んだ。

 『お前、いつ戻った?』

彼の言葉の意味は解らなかった。そして、自分以外には聞こえなかったのか、彼は自分をみて『蒼華』と呼んだ。
その名前はなぜだか知っていると感じた。否、そう呼ばれていたような気がする。額に手をやり、瞑目すると空気の気配で知っている何かを感じた。
はっとして、琳麗は壊れた扉から飛び出した。入って来た男性二人を見たが彼らではない。


「おや、琳麗さん」

「王旦那!?」

「お久しぶりですね、お元気でしたか?」

「え、ええ、まあ。どうなさったのですか?」


琳麗は不思議に思い首を傾げた。ごま塩頭を上品になでつけた気のよさそうな男性──王旦那は、慶張の父である。なぜ、こんな時間にここにいるのだろうか?


「お届け物がありまして。杜 影月様はいらっしゃいますか?」

「え、はい。いますけど……?」

「そうですか、では」


そう言って中に入っていく姿を見送って、琳麗は妓楼の外へと出た。昊に浮かぶ満月を見てキョロキョロと首を廻らせた。しかし、先ほど感じた何かの気配は消えていた。


──なんだろう。

──私は何を忘れているんだろう……

  『蒼華』

これが何なのか怖くなり、琳麗はぎゅっと自身を抱きしめた。


「……私は…誰……?」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


小さくなる琳麗の姿を見ている二人の老人がいた。彼らは琳麗たちがいる妓楼の最上階──のそのまた上、瑠璃瓦のつらなる大屋根の天辺にいた。


「……白夜も見つけたようじゃな」

「そうだな。しかし──言うにはまだ早いかの…」

「言うつもりはあるのか?」


酒を煽りながら黄葉は尋ねた。霄太師は、白髭をさすりながら呟いた。


「……訊いてきたら、と考えておる」


黄葉は無言で頷いたが、霄太師は言葉を続けた。


「だが、みなまで言うつもりはない。蒼華様──いや、琳麗殿には幸せでいてもらいたいんじゃ。知らないならそれでいいと思っておる」

「……ああ、もう彼女は琳麗嬢ちゃんだ、本当のことを知ってもどうすることも出来ん。……過去は変えられないからな」

「……だか、まだやつは諦めてはいないようじゃぞ」

「その時は守るまでだろ……」


互いに顔を見合わせた二人は、満天の星を見上げたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あの騒動から数日後──雪の降るなか、秀麗と影月は静蘭に付き添われて会試受験者に事前に開かれる予備宿舎へと向かった。
門前で、琳麗は邵可と共に三人を見送ってから王宮へと向かった。
庭院の釣殿にいる劉輝へとそっと近づいた。気配を感じたのか、劉輝はぱっと振り返ると久々の女官服を纏った琳麗の姿を見た。


「……琳麗…」

「どうなされました、劉輝様」


先ほど楸瑛に漏らした言葉を思い出した。が、口にすることはなく俯いた。琳麗は、そんな劉輝に微笑して頭を下げた。


「劉輝様、秀麗のこと、ありがとうございます」

「……前にも言っていなかったか?」

「そう、でしたか? でも、それでも言いたかったのです──劉輝様」


劉輝は琳麗の方へ顔を向けると柔らかく微笑まれた。


「────秀麗は秀麗です。変わりませんよ」


琳麗の言葉に、劉輝は目を瞠ると


「……そうか、そうだな…」


瞳を伏せ、呟いたのだった。雪の降る中にそれは消えていった。





会試直前大騒動!/終




あとがき

うーん、夢小説とは全くいえないくらいの夢主の出なさ(笑)夢小説ってなんて難しいのですかーっ!?と叫びたい。
ああ、リンク貼らせて頂いてるサイト様が神様に思えます。なぜにそんなに上手いのですかー!書き方教えてぇ〜!

さて、影月くん登場話完結です。無理な設定がボロボロと、もう粗探ししてくれ(やけっぱち)
はい、夢主さんは歌姫という設定を思い出し無理矢理話の中で歌わせたり(笑)、実は妓楼で楽師として働いていたり、それを静蘭が知らなかったり(ここが一番無理)
じじいたちも出しました。
さて、今後どうなりますやら(笑)


とりあえず影月登場話完結です。次は「花は紫宮に咲く」でしょうか……。


2007/04/26


-63-

蒼天の華 / 恋する蝶のように