参
琳麗たちは絽茜の街に来ていた。そこで、街の人々に「謎の賞金稼ぎ二人組」の話を聞いた時は、ぎょっとした。
まだ絽茜では甘露茶売り切れの噂を聞いていなかったから。前の街では少し遅くに、出立したのに。
「……私たちも静蘭たちも秀麗を追い越しちゃったみたいですね」
「そうですな。どうしますかな? 一気に金華へと参りますか?」
「そうですね……」
新たな馬を借りてきた霄太師の言葉に、琳麗は考えるように手を口許にあてた。
秀麗の様子は前の街で垣間見ることは出来た。賭けではあるが、あの様子では無事に金華までに届けてくれるだろう。
しかし、あの男──危険だ。仕方ないとはいえ、なんだってあのような男と金華へと向かっているんだ……。
まあ、選ぶのがそれしかなかったのかもしれないが、大変な綱渡りだ。運が強いから大丈夫だろうけど。
そして、とある噂も気になっていた新州牧と茶家の次男との婚姻話。だからこそ、そばにいるのだろうか?なんて危険な賭けだろうか。
影月くんたちの様子は分からないが、霄太師によればこちらも安全に金華へと向かっているようだ。
静蘭と燕青さんはどうか。と考えて琳麗はふと頭に引っ掛かるものがあった。
なぜ、静蘭と燕青さんは“殺人賊”の一味ということになっているのか。適当に理由を付けたにしては、捕まった時逃げないのはおかしい。
茶州州牧であった燕青を捕えるのに殺人賊はおかしすぎる。しかし、二人は抵抗せずに捕まった。
その時、琳麗は楸瑛の言葉を思い出した。秀麗たちが茶州へ旅立ってすぐの頃の話だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初夏の風が回廊にも吹き、琳麗は右羽林軍に入ったもののすぐに茶州州牧専属武官として茶州へと行った静蘭のお詫びとして、白大将軍と一回だけ手合わせをした。
その羽林軍からの戻り途中で、楸瑛と会話をしたのだった。
「おや、琳麗殿? ずいぶんお疲れのようですがどうかしたのかい?」
「藍将軍」
「名前で呼んで下さるのではなかったのですか?」
「今は仕事中ですので」
くすっと琳麗は微笑するが、やはり疲れていたのだった。
「それは残念だね。ところでどうしたんだい? みたところ羽林軍の方から来たようだけど、宋太傅のお供かい?」
しかし、宋太傅の姿はなく楸瑛は首を傾げるような仕種をした。
琳麗は微苦笑すると、さっきまで白大将軍との事を語ると、楸瑛はなんとも言えない微妙な顔をした。
「……それは、大変だったね…」
「はい……」
「静蘭といえば……」
「? 静蘭がどうかしましたか?」
ちらりと見てくる楸瑛に琳麗は顔を見上げ、小首を傾げた。
楸瑛は辺りを見渡すと「ここじゃ、ちょっと…」と言って琳麗を引っ張るとあまり人が来ない場所へと移動した。
使われていない室を見つけて中に入り、楸瑛は琳麗を見た。
「あの、どうかなさいましたか?」
「実は気にかかっていることがあってね」
「……はい?」
「琳麗殿は、かの第二公子の流刑地をご存知ですか?」
その質問に琳麗は小首を傾げようとした。真実、流刑地は知らなかったのだが、もしかして──。
「──茶州、ですか?」
正解というように楸瑛は頷いた。内心、知らなかったのかとも考えた。
楸瑛は遠い茶州の地を思い浮かべた。九年前、清苑公子を捜した事を思い出す。もっともその時点で彼は既に貴陽にいたのだが。
「邵可様たちが静蘭を拾ったのは十四年前の冬の始めだと聞いています。清苑公子の足どりが途絶えたのはその半年前。半年間──彼が何をしていたか聞いているかい?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの時、楸瑛からの問いに琳麗は首を横に振った。――誰も訊こうとはしなかったのもあるし、見つけた時の静蘭は満身創痍だった。
なにより表情がなく、無口で見ていられなかった。
少しでも笑って欲しいと願っていたのだろう、父様たちは琳麗と秀麗がひよこのように後をついて回って、あの頃の静蘭は困惑していたらしい。
燕青さんという友人がいることも知らなかった。しかし、もしかして燕青さんとは茶州で出会ったのかもしれない。
静蘭だけが知る空白の半年間を燕青はきっと知っていて、そして──何をしていたのだろうか?
なにか不安が過ぎる。
琳麗は霄太師を見ると、彼はやれやれと微苦笑した。
「……心配なようですな」
「なるべくは関わらないと思っていたのですが、そうはいかないようです。私の心は」
「──まあ、いいでしょう。ただし、あまり力は使わないで下され」
「はい。少しだけですわ」
礼を述べると琳麗は目を閉じた。貴陽を出て始めて力を使うのに戸惑いもしたが。
心を落ち着かせ、風を遣い、静蘭と燕青の気配を辿った。
どこかの街道で二人の気配を感じ取った。他にも誰かいる気配がする。しかし、静蘭の様子がおかしい。憎しみが殺気が風に乗り琳麗へと伝わった。
(──静蘭っ?)
一体、何が……?と琳麗はその場に崩れた。そして、もう一度“力”を使おうとして霄太師に阻まれた。
「これ以上使うではない。奴らに居場所を知られる」
それと同時に視界に黒いモノが入ってくる。
(……これはっ…妖っ…?)
今のいままで視えていなかったモノが、琳麗に集まって来た。霄太師の目の奥が光った。彼にとって、琳麗を護る事は古えからの誓い事である。
彼は琳麗を抱き寄せるとそれらは綺麗に消えてしまった。琳麗に伝わった憎悪を餌に集まってきたようだ。
琳麗の気配を知られぬよう結界を施してはいたが、これ以上はいけない。
なにより負の力を感じてしまった故に、いままで視えていなかったのがようやく彼女の視界に入ってしまった。本当は、近寄せたくはないが──。
「……遠くから様子を見よう」
そう言うと琳麗を馬に乗せ、彼らがいたであろう場所へと向かった。馬で向かう途中、琳麗は静蘭に何が起きたのかと心配していたのだった。
第二幕/終
あとがき
また、中途半端な終わり方をしてしまいました。
なんつーか、展開早そうです。ぶっちゃけ夢主は茶州編は傍観者な立場であって秀麗たちを見守るしかないのです。
多分、次が最終幕になるだろうかと……(ぇ)
龍蓮を出そうかとも思いましたが、そうなると霄太師とはぐれるのでボツです。縹 英姫様に会いにいくのですから行動は霄太師と一緒にでございます。
こんな駄文ですが感想お待ちしております。
ご拝読ありがとうございました!
2007/07/30
すいません。加筆しました。
なんだか、余計にわからなくなったような気がします…。
朔洵とはどこで知り合わせようかと考えていたら、今後入れる隙間がないことに気付き、加筆。
ついでに夢主は「妖」は見えていませんでした。
霄太師によって結界が張られていたために不浄?とか妖は視えないようにされてました。
あえて書いてなかったんですが、文字数稼ぎで(まさに蛇足)
だけど、静蘭からの憎悪を感じてしまい力が薄れた隙を狙って、集まってきました。
どーでもいいですね。はい。
2007/08/08