弐
秀麗が全商連の金華特区長である柴彰と会い、商談を成立させた後、みんなで甘露茶を飲み、二胡を奏でていた。
秀麗の室には、香鈴、影月、龍蓮がいて、先程まで燕青もいたが甘露茶を二杯持ち出て行った。
「そう言えば、香鈴。さっき何か言いかけていたけど…」
「えっ、あの……その…」
香鈴は龍蓮をちらりと見たが、龍蓮は気にもせず頭に乗せていた梨を剥いて食べていた。
「実は、先程の秀麗様のお言葉なんですが……代わりをしてくれてありがとうと同じ事を琳麗様にも言われたのです」
「え? な、なんで姉様が……」
突然出て来た姉の名に、秀麗は小首を傾げる。香鈴はまたも龍蓮を見るが、何も言ってはこない。
「あの、金華城で会ったのでございます」
「会っ…た? え? 姉様、ここに来ているのっ!?」
「落ち着くのだ、心の友・其の一よ」
「だ、だって、姉様がここにいるっていうのよ? 驚くわよ」
「琳麗はもうここにはいないぞ」
龍蓮は、琥嗹の方を向いて答えた。秀麗はそれも気になったが、琳麗が茶州にいるかが大いに気になったのだ。
「ちょっと、待って、龍蓮! アンタ何を知っているの? って姉様はどうやって来たのよっ!?」
「ああ、琳麗は私と一緒に金華に来たのだ」
「……はいぃぃっ!? え、じゃ、なに、本当に姉様いたの?」
「そーなんですか? 僕、琳麗さんに会いたかったですー」
のんびりと影月が答えると香鈴は呆れたように言った。
「何を言っているんですの? 琳麗様にあなたはお会いになったではございませんか」
「ええ? いつですかー?」
「金華城であなたが暴れていた時ですわっ!」
それを言われてから影月は、たはは〜と苦笑した。会ったのは陽月の方であって、影月ではないのだ。
「じゃあ、今は姉様はどこに……」
「ふむ、きっと琥嗹で会えるかもしれんな」
龍蓮の言葉に秀麗は泣きたくなった。なんとなく姉に会いたくなっていたからだ。いや、会って話がしたかった。いつだって話を聞いてくれる琳麗にあの若様の事を言いたかった。
そして、ふと思い出す。あの旅の事を。
どこかの街で美しい女性に声を掛けたら人妻だったと。その女性の名前は偶然にも"琳麗"だと教えられた。
仕事をしている時に語られていたからよく覚えていないが、名前だけは覚えている。何たって姉と同じ名前だったから。
(……まさか、ね)
そのまさかであるとは秀麗は思いもしなかったのだった。そして、後に琳麗が金華に来ていた事を聞いた静蘭は絶句したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
星が満天に瞬く夜。龍蓮は温かな甘露茶を飲んだ後、降るような秋の夜空の下に引っ張り出された。
金華の城門の前で秀麗と影月はそろって告げてきた。
「とっとと帰んなさいよ」
「もう、お帰りになってください」
「印と佩玉、届けてくれてありがとう。もう旅に戻っていいわ」
「龍蓮さん、もう少し落ち着いた頃に、また遊びにいらしてください」
その言葉に龍蓮は二人を見た。
「しかし、心の友・其の一、其の二よ」
「お願い帰って。私たちこれ以上あなたを巻き込みたくないの」
その言葉に瞑目した後、龍蓮は影月を、秀麗を見た。懇願する二人の眼差しに龍蓮は顔が綻んだ。
感情の赴くまま、彼はぴーロろろ、と喜びの笛を吹き鳴らし金華を後にした。
途中まで行くと笛を止め、金華の城門を振り返った。
「……巻き込まれる為に残っていたのだが」
「──でも、あの子たちはそれが出来ないのよ。龍蓮」
「この世でたった二人──心の友・其の一、其の二だけが"藍 龍蓮"を利用することができるのに……」
「だから、ね。例え、秀麗たちは"藍 龍蓮"がどんな人であれ、利用はしないわ。──だって、"大切な友達"を利用したくなんかないでしょう。それに龍蓮が彼らを愛しているからこそ、彼らもそれを同じ想いで返してくれるわ」
そう言葉にする彼女も龍蓮をそんな風に見ない。そして、受け入れてくれる。けれど、彼女には"心の友"の称号は与えることが出来ないのだ。
「琳麗……」
「なに? 龍蓮」
「歌を、君の歌を今願おう」
琳麗は微笑すると歌を奏でた。それは包み込むように。そっと口から奏でられる歌は、龍蓮の思いを言葉にするように優しく与えてくれた。
一人きりの孤独な世界だった中に現れた少年少女。そして、かの美しき姫君。彼らに出会えて龍蓮の世界は彩られたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから琳麗は霄太師と供に琥嗹へと旅立った。始めの予定の通り、縹 英姫の元へ。
最終幕/終
あとがき
はい。「想いは〜」茶州前編終了です。幕数にするとやはり、秀麗たちと行動しない分、かなり少ないですね。
次は「漆黒の月の宴」ですが、こちらもかなり短いと思います。
が、頑張りたいと思います。ありがとうございました!
※琥嗹の「嗹」の文字は、類似形字を使用致しました。
2007/08/23