「…………」
ほんの少し肌寒いような気がして、🌺は布団の中で身じろぎをする
けれど求めていたものがそこにはなく、あるのは心なしかヒンヤリとしているシーツのみ
薄っすらと目を開ければやはりと言うべきか、本来そこにいたであろう人物が見当たらない
「……フロイド?」
むくりと起き上がり、部屋の中を見渡しても部屋の主人は見当たらず、🌺は無意識のうちにため息を零す
道理で寒いわけだ
いつもならぎゅうぎゅうと自分を締め付けて離さないあの人が隣にいないのだから
「……ふく」
しかし温もりが側にないと気付いてしまうと、肌寒さが先程よりもきつくなった気がしてしまう
このまま風邪を引いてしまうのは馬鹿らしい…と、🌺は床に散らばる服に適当に手を伸ばした
そして拾い上げたシャツに袖を通してハタと気付く
「……(これ、フロイドのやつか)」
どうやら🌺が手に取ったのは自分のシャツではなく、フロイドのものだったらしい
🌺は一瞬どうしようかと思考を巡らせて、最終的には【面倒】だからとそのままフロイドのシャツを着る事にした
オンボロ寮の自室に戻るまで、誰にも見つからないように気をつけないと…
なんて、このままシャツを借りパクする気満々な思考回路
まだ少しだけぼんやりしている頭でモタモタとボタンを留めていた時だった
ガチャッ
と、何の前触れもなく部屋の扉が開く
手を止めてそちらへ視線を向ければ、そこには目をパチクリさせるフロイドがいた
「…おはよ」
「……」
「フロイド?」
しばし無言で見つめあった後、何となく沈黙に耐えられなくなった🌺がとってつけたようにおはようと告げるも、フロイドは一向に答えない
じーっと🌺の姿を見ているだけ
それに気付いた🌺が首を傾げていると、唐突に、本当に唐突に、フロイドはニンマリと口角を釣り上げた
「なぁに?ウミブタちゃん。朝から俺のこと誘ってんの?」
「は?………っ!」
パタンと後ろ手に扉を閉めて、フロイドは困惑する🌺にわざとらしく問いかける
その視線が留めかけのボタン…のその先、昨夜の余韻を残す素肌に注がれている事に気付いて、🌺は咄嗟に襟元を掻き抱く
「ち、違うから!誘ってないから!」
「じゃ何で俺のシャツなんて着てんの?」
「これは、隣にいなくて寒かったから何か着たくて…っ」
とてもよくない流れを感じ取った🌺は必死に言い訳を並び立てるが、フロイドのニンマリと愉悦を含んだ笑みは変わらない
「あはっやっぱ誘ってんじゃん」
「いや、だからっ」
だってぇ、起きたら俺がいなくて寂しかったんでしょ?
「?!」
大きな手が肩に触れるや否や、ゾクリと背中が泡立つような甘ったるい声が鼓膜を震わせる
気がつけばベッドに沈んでいる体は今や完全にフロイドの手中にあった
「いいよぉ、可愛いウミブタちゃん今日はずーっと一緒にいてあげる」
ねっとりと耳元で囁く声
素肌を滑るヒンヤリとした空気に、あぁ今日は無断欠席か…と🌺は内心ため息を吐く
せっかく袖を通したシャツも、気づけば床に逆戻りしていた…