君にだけは

その言葉を言って欲しくなかったなぁ…って思う話(ジャミル長編)


そろそろ気は済んだか?


何気ない会話の端から突然飛んできた言葉に一瞬息が詰まった
けれどその鋭利な刃を突きつけた本人は、私がはぐらかす事なく答える事を待っている

わかっている
本来なら私はここにいるはずのない存在で、子供染みた我儘を容認してくださった学園長の優しさで席を、部屋を使わせて貰えているだけだ

いつかは出ていかなければいけない
わかってはいたけれど、こうして面と向かって…それも彼から言われてしまうと、どうにもバツが悪くて…


ジャミルは、私がここに居ると邪魔?


なんて、分かりきったことを口走ってしまった
彼は何も悪くないのに


ごめん。聞くまでもないよね。カリムの付添でただでさえ大変なのに、私までいたらそりゃ迷惑だよね


聞かれてもいないのにペラペラと喋る口を誰か塞いで


大丈夫。そろそろ帰ろうかなって思ってた所だから、安心して?今までありがとうジャミル。カリムと2人、卒業まで頑張ってね


言い終わると同時に勝手に動き出す体
怖くて顔は上げられなかった

それにしても本当にみっともない
自分勝手にこの場所に乗り込んで、自分勝手に怒るなんて……


「マリノ?」
「?!」


私はどうやら、思っていたよりもずっとショックを受けていたらしい
気がつけばカリムの部屋の前にいて、しかも声をかけられるまで気づかないなんて…


「どうしたんだ?こんな時間に」
「なんでもない。ちょっと、眠れなくて風にあたってただけ」
「……なんでもなくないだろう」


やんわりと私の腕を掴む温かくて大きな手
きょとんと首を傾げる彼に当たり障りなく返した言葉は、カリムには通用しなかったらしい

そのまま優しく腕を引かれ、部屋の中に通される
そして私を広いベッドの縁に座らせると、寄り添うように彼も腰を下ろした


「……ジャミルと、何かあったか?」


本当に、何もかもお見通しのようだ
昔からいつもそう
私がどんなに隠そうと思っても、カリムには全てバレてしまう


「きっと、特別な意図なんてなかったんだと思う」


ただ私が、私だけが、過剰に思いを募らせていただけなのだ
何気ない一言で勝手に傷ついて、こんな風に迷惑を掛けてしまう程に

でも……


「ジャミルにだけは、言って欲しくなかった」


私が大人しく家に帰る気になるように、我儘に付き合っていただけだと気付かされてしまうような
そんな悲しい言葉を








ジャミルは、私がここに居ると邪魔?


自分が何を言われたのか、理解が追いつかなかった
直前に自分が放った一言を後悔する暇もない程に、鈍い刃先が深く突き刺さる

そんなつもりで言ったわけじゃない

すぐにそう言い返せなかったのは、彼女がまだ何かを話し続けているから…
なんて、そんなのはただの言い訳だ

気づいてしまったのだ
自分がどれ程深く彼女を傷つけてしまったのか


ごめん


なんであんたが謝るんだ?


大丈夫。安心して?


そんな、今にも泣きだしそうな顔をして言われても、安心なんて出来るわけ…

あぁ、でも

マリノにそんな顔をさせたのは、紛れもない俺自身じゃないか



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