恋ひとつ



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いつもご訪問ありがとうございます。
当サイトは8/15に7周年を迎えました。
記念にキンブリー夢SSSを4編書きましたので、よろしければお納めください。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。




打ち上げ花火




 夜空にひゅうう、とロケットが打ち上がる。それはドンッと派手な音を立てて、闇の中に光の花を咲かせる。これぞ夏の風物詩だ。
「花火はいいものですね。鼓膜を揺さぶる大きな破裂音、夜空をキャンバスにした光のアート。まさに一瞬の芸術ですよ」
 次々に打ち上がる花火に目を細め、キンブリーさんはご満悦そうに微笑む。
 ひとつが消えていくと同時に、また新たな模様が花開く。はかなさと驚きが一緒になって、私を揺さぶる。
「良いですね。まるで、美しい貴女を見ているみたいだ」
 彼の手が熱い頬に触れ、思わず視線を逸らす。
 この胸の鼓動を、花火の音が打ち消してくれたらいいのに。
「……ふむ。今なら小規模な爆破を起こしても気づかれないでしょう」
「憲兵さんこの人でーす!!!」




赤い石




 彼女の耳元に思わず釘付けになる。まさか、そんなはずはない、いつもの勘違いだと自らに言い聞かせ、浅い息を吐く。
 赤い宝石を見るとどうしても連想してしまう、あの伝説の石。そんな代物を、彼女が身につけているはずもなく。
 黒いワンピースをふわりとなびかせて、こちらの視線に気づいた彼女は愉快げに笑った。
「見てみて、このガーネットのイヤリング! 一点ものだったのよ! どう、似合う?」
「ええ、とてもよく似合っていますよ。素敵だ」
 決してお世辞ではない。それを身につけた彼女は、普段以上にきらめいて見える。
 なるほど、『この石の力』で、彼女がさらに魅力的に見えるのかもしれない。
「……美しい」
 惚れぼれとした調子でひとりごちれば、ころころと鈴が鳴るような声で彼女は笑った。




理想




 私の隣でアイスクリームを食べる彼女に、何の気なくを装って質問した。それは以前から尋ねようと思っていたことだ。
「貴女が理想とする男性像をお聞きしても?」
「うーん、そうですね。清潔感があってきちんとしてて」
「私ですね」
「頭も運動神経も良くて優秀で!」
「私ですね」
「優しくて穏やかで丁寧でお金もちで!!」
「やはり私ですね」
「話の通じるまともな人!!!」
「私に違いない。……おや、なんですかその目は?」




おそろい




 最近、彼の身を包む、ぱりっと糊の利いた白いスーツを見るたびに思う。
「……白もいいなあ」
 キンブリーさんはにやりと笑って、ショーウィンドウを指差す。
「では、あの白のワンピースなどいかがです? プレゼントしますよ」
「ううん、やっぱりいいわ。柄じゃないから」
 私の装い。黒のブラウスにライトグレーのロングスカート。
 彼の指差す白色は、私には眩しすぎる。試着するまでもない。きっと、似合わない。白を身にまとうことは、この先決してない。
 ――そう思っていたのに。
「誓いますか?」
「誓います」
 純白のドレスに身を包む日が、やって来るなんて。
 白いタキシード姿のキンブリーさんは、はじめて私の晴れ姿を見たとき、穏やかに微笑んでくれた。
「やはり。似合うと思っていましたよ。これでやっと、おそろいですね」

(2021/8/14・15)