▼2020/10/28:無題
きんぶり狂愛本(という名のやべー本)の書き下ろし部分、書き終えました!冒頭だけお見せします↓
さて、そろそろ行きましょうか、と玄関ドアの前でキンブリーは呟く。後頭部でまとめた髪を帽子の中に隠した彼は、今や白の装いではなく黒一色のスーツに身を包んでいる。
女性からビジネスバッグを受け取りながら、彼は語りかける。
「良い子にしているんですよ、私の歌姫。間違ってもここから出て行こうなどという考えは捨てることです」
「もちろん、分かっています。心配なさらないで」
歌姫と呼ばれた女性は、口元を少しだけ動かし、控えめに笑んで見せる。これは仮面の笑みだった。
キンブリーは蒼の瞳を一瞬細め、サングラスをかける。
「帰りは遅くなります。ディナーをいつも通り調達してきますから、ゆっくり読書でもして待っていなさい」
「ええ、そうします。お気をつけて」
ドアが開かれ、朝の光が目を眩ませる。彼女は手でひさしを作って目を細め、光の中に彼が消えていくその背中を見守る。
黒をまとった悪魔が向かうのは、果たして光の道なのだろうか。
バタンと閉められたドアの音に続き、錬成音が外から聞こえる。術で外から錠をかけられたのだ。
残された籠の中の鳥は、無表情で開かないドアを見つめていた。