真剣な気持ち



和葉ちゃんと今日はどこに寄ろうか話をしていたが、廊下から聞こえた一言に意識を全部持って行かれた。同時に高鳴る胸に私は戸惑いを隠せなかった。


「校門の前に男おるで!誰か待ってるんちゃうん!」


そんなはずないと思いながらも淡い期待を抱き、窓からそこに目を遣れば、今朝と同じように顔を真っ赤にしているくろばくんがいた。


「和葉ちゃん、ごめん!今日はちょっと」

「えー!何なん?あれがくろばかいと?何や面白そうやん!」


断りを入れようとした私の言葉を遮り、はよ行くで!と手を取られ、走り出した和葉ちゃんに私は引っ張られるように走った。

校門近くまで来ると、くろばくんが私に気付いたのか真っ赤なままふにゃりと笑った。


「よかった…会えて、」


安堵した表情でしゃがみ込むくろばくんに私は何て声をかけようか迷っていると、左手が解放された。と、同時に和葉ちゃんがずんずんと歩いている。


「あんたがくろばかいと?」

「え、そうだけど…」

「なまえのこと好きってほんまなん?て言うか、ずっと見てたとか気持ち悪いねんけど!見てるだけでなまえのこと何知ってんの?中途半端な気持ちやったら、なまえは渡されへんで!」


困惑した表情を浮かべるくろばくんに和葉ちゃんは早口で言い切った。


「みょうじさんの友達?」

「せや!何か文句ある?」

「文句はないけど、言いたいことはある。」

「何や言うてみ!」

「ずっと見てたって言って気持ち悪い思いさせて悪かったと思うけど、中途半端な気持ちじゃねーよ。確かに知らない事ばっかりだけど、これから知りたいと思ってる。真剣な気持ちだって事をわかってほしい。」


今朝と同じように、顔は赤いけれど真剣な目をしているくろばくんに、私の鼓動はまた早くなる。男子に対する免疫の無さなのか、くろばくんだからなのかは、まだわからないけど。こんなに真剣に思ってくれている彼の気持ちに応えたいと思った。


「くろばくん、」


名前を呼べば、彼は緊張しているような吃驚したような顔をして私の目を見つめ返してくれた。


「お友達からでよかったら、よろしくお願いします。」


と言うと、目の前の2人は目を点にして固まっていた。数秒後、同時に不満そうな声と喜びの声が上がった。




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