思いもよらない展開
そう言えば、檜佐木副隊長は女遊びが激しくて有名だった。それを思い出しても、正直、檜佐木副隊長様が私如きを相手にするとは思えず、自意識過剰であったことを恥じた。
「みょうじさん」
「はい」
檜佐木副隊長は、私の名前を呼んでちょいちょいと手招きした。不思議に思いながらも距離を詰めれば、檜佐木副隊長の腕が腰に回された。吃驚して右を向けば、にやりと笑みを浮かべる彼が私を見ていた。
「あの、檜佐木副隊長、」
「なまえちゃん、スキだらけ。だから、そこにつけ込まれんだよ。」
「え?どうして」
そこまで言って私は口を噤んだ。檜佐木副隊長は遊び人なのだ。私の過去の男運を知ろうが知らなかろうが、ちょちょいのちょいなのだ。
「なまえちゃん。俺が店に来た時、他の席も空いてたんだけど、ここに座ったの何でだと思う?」
「えっと…他の席は隣が男の人だったから、ですか?」
そう言うと檜佐木副隊長は、可笑しそうに顔を歪めた。
「まあ、そういう印象だよな。みょうじさんと近付くチャンスだと思ったからだよ。」
それを聞いて、私は瞬時に理解した。檜佐木副隊長は私を口説いているのだ。きっと、一夜限りの後腐れない関係を望んでいる。
「つまり、それは、」
「俺と付き合ってください。」
続く言葉に私は言葉を失った。2人の間に沈黙が流れる。檜佐木副隊長は頭をがしがしと掻いて、項垂れた。机に伏せられた顔が、こっちに向いて鋭い目に捕らえられる。どうしようもなく、鼓動が早くなった。
「やっぱ、だめか?」
先程まで鋭かった目が捨てられた子犬のように力なく合わされる。彼は、女の扱いが上手い。一瞬にしてこんなにも心が奪われてしまうものなのか。
「付き合うって言ったって、お互いのこと知りませんし…」
「付き合ってからでも知れるだろ?」
「まあ、そうですけど…。好意があるかないかの問題もあります。」
「え、みょうじちゃんは俺のこと嫌いなわけ?」
「いや!嫌いな訳ではなく…」
「じゃあ、決定な。」
「え?そんな事、急に言われても困ります!大体、檜佐木副隊長は私の事を好きじゃないですよね?」
「え?好きだから、付き合ってほしいんだけど」
さらりと言われたその言葉に一瞬、時が止まったように感じた。頭で理解するよりも早く、檜佐木副隊長の言葉が耳に飛び込んできた。
「だから、問題ないよな。今日からよろしくな、みょうじなまえちゃん。」
満面の笑みを私に向ける檜佐木副隊長に私は返す言葉が見つからなかった。