惚れたら負け



やってしまった。お酒を飲んでいたからとは言え、やってしまった。記憶が無くなるタイプなら良かった。いや、忘れるよりも覚えている方が良いのだろうか。まさか、この歳で路チューするなんて思っても見なかった。それもどう思考を巡らせても私から欲しがっていたようで、相手はあの九番隊副隊長様である。噂にならない訳がない。朝、起きてから頭をずっと抱えていた。

すると、扉がノックされた。考えすぎて近づいて来た霊圧にすら気付かなかった。返事をし扉を開けると立っていたのは、昨日の路チューのお相手、今頭を抱え込むほど悩んでいる原因の副隊長様だった。
私は、無言で開けた扉を閉めた。


「ちょっ、何で閉めた!」

「こんな寝起き姿を見られたくないので!」

「ちょっとくらいいーじゃん。」

「無理です!と言うか檜佐木副隊長が何故こちらにいらっしゃるのですか。」

「一緒に行こうと思って、お迎え。」

「えっ、」

「5分しか待たねぇーぞ。」

「ちょっ、急ぎます!」



私は顔を洗いながらふと、考えた。これではまるで檜佐木副隊長のペースに流されてるのではないか。一緒に行ってしまえば、もっと女の人からの反感を買うのではないか。思考を巡らせながらも檜佐木副隊長が扉の外で『あと4分だぞー』なんて言うから考えるのは諦めて急いで用意した。



「5分で用意できてしまう女とは如何に。」

「いや、女じゃねーんだよ。」

「阿散井副隊長、口より手を動かしてください。」

「オメーが話を振ってきたんだろーが。」


今はお昼休憩を阿散井副隊長とご一緒(不本意)していたところだった。阿散井副隊長がお昼休憩に入ると私の腕を掴んで引きずり出した。それも、にやにやしながらである。はじめは無言を決め込んでいたものの、攻撃に耐えられなくなった私は昨日から今朝までの出来事を端的に話してしまったのだった。


「来るなり、檜佐木先輩が路チューしてたってのは噂になってたけどよ、まさかなまえが相手とは思わねーだろ。」

「えっ、それどう言う意味で。」

「路チューするようなガラじゃねーじゃん。」

「自分でも本当にそう思う。けどその言い方、檜佐木副隊長がいろんな女の人に手出してるみたいじゃん。」

「いや、出してんだろ。」

「アンタは味方なのかなんなのか。腹立つ。そんな事、言われなくてもわかってるよ。檜佐木副隊長に付き合おうって言われたけど、私そういや何番目なんだろうとか考えるもんね。」


膝を抱え込み、頭を突っ伏した。朝だって、一緒に隊舎に向かって歩いてたはずが、女の人に連れられて、結局のところ逸れてしまったのだ。モテるのも軽々しいの知っていた。知っていたけど、やっぱり惚れた方の負けなのだと確信した。