負けず嫌いな彼女とリップ音


「ねー、快斗。かまってよー。」

「なんだよ、なまえちゃんはかまわれないと寂しくて死んじゃうのか?」

「うん、そう。」


仕方ねえなと腕を伸ばす快斗の胸に勢いよく飛び込んだ。私のおでこと快斗の胸がぶつかり、うっと声が聞こえたけど、気にしない。ぎゅうと抱きつけば、いっぱいに広がる快斗の匂い。


「やっぱり、落ち着く。快斗すき。」

「んなこと知ってるっつーの。」


私も知っているのだ。あしらうような返事は、本当は照れ隠しという事。私の事を好きだという事。いつもいつも、めいっぱい甘やかして愛してくれているのだ。

ちゅっ、とリップ音を立ててキスをすれば、快斗は嬉しそうに口角を上げた。

「なまえさ、この間まで『ちゅっ』て音出ないーって言ってたのに出来るようになったんだ?」

「うん!快斗でいっぱい練習したから!」


と言えば、快斗は私の頭をわしゃわしゃと撫でる。髪がぐしゃぐしゃになるけど、嫌な気持ちはない。むしろ、幸せ。


「ずっと一緒にいてね!」

「おう。」


少し照れた彼の顔が近づいてきて、私の唇に触れたかと思うと綺麗な音を立てて離れていった。私のリップ音とは比べ物にならないくらいの音に負けた気分になった。


「なんでそんなに上手いのさー。」

「器用だからな。」


してやったりな顔をする快斗を見て、いつか打ち負かせてやるんだと意気込んだ。

「ま、ずっと、俺で練習すればいいんじゃねーの。」


と耳を赤くして言う彼に降参したある春の日。



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