「キャー! 先生かっこいい!」
「私もお祓いしてください!」
町を歩いていると、近くから女の子の黄色い悲鳴が聞こえてきた。
今日はハロウィンだ。
さくらニュータウンはハロウィンのイベントも盛んで、今日は仮装している人も多い。
声に釣られて女の子の人だかりができている場所を見る。
女の子を虜にしているであろう人物はすぐに見つかった。
黒の神父服に、首からロザリオをかけただけのシンプルな仮装。
肩まである栗毛色の髪は後ろで束ね、前髪は軽く後ろへ流すように撫でつけてある。
紫色のフレームの眼鏡の奥の目と目が合って、彼が目を細める。
(これは……騒ぎたくなるのもわかる……)
清廉な衣装を身にまとっているのに、隠しきれない色気がにじみ出ていて、思わず見惚れてしまう。
――まもなくハロウィンパレードが始まります。参加される方は……
ハロウィンパレードが始まる放送が流れると、彼を囲んでいた人だかりはすうっといなくなった。
おそらく皆パレードに参加するのだろう。
「やぁ、来ていたんだね」
彼――理科の先生が近づいてきて、名前に声をかける。
「たまたまですけど。先生は、パレードに出ないんですか」
「ボクはもう帰るよ。パレードの付き添いは別の先生がするからね」
なぜ彼が仮装しているのか合点がいった。
学校の行事も兼ねての仮装だったのだろう。
「なんだ、君は仮装していないのかい?」
彼が残念そうに言いながら近づいてくる。
「あ、あの、あまり近寄らないでください」
「どうして?」
彼がにこやかに問いかける。
(わかってて言ってるくせに……!)
「先生、神父似合いすぎです……」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しいよ」
綺麗に微笑む彼の顔を、やはり直視することはできなかった。
(かっこよすぎる……)
ふう、と心を落ち着けるために息を吐く。
「ねぇ」
「ひゃ……」
彼の顔が存外近くにあって、ばちっと目が合った。
距離が近い。
射貫かれたように目が離せない。
「な、なんでしょうか……」
「せっかく会えたんだから、もっと近くにきてほしいな」
蕩けるような琥珀色の瞳に見つめられて、顔が熱くなる。
「ただいまより、ハロウィンパレードを開催いたします!」
司会の元気な声とともに、賑やかな音楽が流れだし、人々の歓声があたりを埋め尽くす。
彼はクスリと笑って言った。
「はい、ここまでにしておこうか」
ぽんと頭を軽く撫でられる。
「うう……」
「続きは帰ってからにしよう」
「えっ?」
彼がそっと手をつなぐ。
「君の分の衣装も用意してあるから」
「ええ?」
手を引かれて、そのまま歩き出す。
楽しげな喧噪を背に、二人の姿はパレードの雑踏に飲まれてやがて見えなくなった。


end