「すごい! 本格的ですね!」
「写真撮ってもいいですか?」
わっと彼の周りに人だかりができる。
ハロウィンの仮装としては定番のヴァンパイアの衣装。
白のシャツに首元にはフリルに結ばれたタイ。
ベストとジャケットをきっちりと着こみ、その上にヴァンパイアらしい襟元の広いマントを羽織っている。
肩まで長さのある艶のある黒髪は後ろで束ね、前髪はオールバックにまとめてある。
口を開けば、牙がちらりとのぞくのに少しドキリとする。
「ククク……闇にそまれ……暗黒の世界へ……!」
バッと彼が大げさな動作で手を広げ、それに合わせてマントがバサリとはためく。
「ありがとうございました!」
パシャリと、それを逃さぬようにカメラに収めた見物人は満足したように去っていった。
「ふむ、ハロウィンとはいいものだな。闇に誘われし同族たちがこんなにいようとは……!」
彼が嬉しそうに辺りを見回して言った。
「まあ、ハロウィンですから……」
「普段は内に秘めし闇を解放する日なのであろう?」
「あはは……」
(ものすごく勘違いしてるけど、まあ、楽しそうだからいいか……)
「名前、あれはなんだ?」
「え?」
彼が指さした先には、子供たちが集まっている。
子供たちが大人に声をかけると、大人はにこやかな表情でお菓子を差し出す。
「ああ、あれは……」
「Trick or Treat!」
説明する前に、別の子供たちに声をかけられた。
「はい、お菓子だよ。みんなで食べてね」
「ありがとうございます!」
名前がお菓子を手渡すと、子供たちは嬉しそうにお礼を言ってまた別のところへと駆けていった。
その様子を彼は不思議そうに眺めていた。
「えっとね、"Trick or Treat"って、"お菓子をくれなきゃイタズラするぞ"っていう意味で、だからハロウィンの日はお菓子を持ち歩いてるの」
「そうなのか。私はお菓子を持っていないぞ」
「ふふ、私が持ってるから大丈夫」
ほら、とカバンの中身を見せる。大き目のカバンの中には今日のために準備したお菓子袋がある。
「なるほど。ハロウィンとは恐ろしいイベントなのだな……」
「そ、そんなことはないと思うけど。ほら、イタズラっていっても」
「地獄の業火を浴びせられたりするのだろう」
「しない! しない!」
盛大に勘違いしている彼の言葉を慌てて否定する。
「ならば呪いか……!」
「だから、そんな物騒なことじゃなくて……」
「ここは危険な場所のようだ。帰るぞ、名前」
「えっ、でも、まだパレードが……」
「万が一それをなくしてしまったらどうする。パレードとやらも捨てがたいが、名前の安全が優先だ」
真剣な顔でそんなことを言われるものだから、名前はなんだか気が抜けてしまった。
もともと、彼が好きそうだからと、普段は出かけないハロウィンイベントに来てみたようなものだから、それはそれでいいのだが。
名前を離さないようにというように、ぎゅっと握られた手がどこかこそばゆい。
(まあ、誤解は後で解けばいいか)
彼に気づかれないように小さく笑って、名前は握られた手を握り返した。
end
「写真撮ってもいいですか?」
わっと彼の周りに人だかりができる。
ハロウィンの仮装としては定番のヴァンパイアの衣装。
白のシャツに首元にはフリルに結ばれたタイ。
ベストとジャケットをきっちりと着こみ、その上にヴァンパイアらしい襟元の広いマントを羽織っている。
肩まで長さのある艶のある黒髪は後ろで束ね、前髪はオールバックにまとめてある。
口を開けば、牙がちらりとのぞくのに少しドキリとする。
「ククク……闇にそまれ……暗黒の世界へ……!」
バッと彼が大げさな動作で手を広げ、それに合わせてマントがバサリとはためく。
「ありがとうございました!」
パシャリと、それを逃さぬようにカメラに収めた見物人は満足したように去っていった。
「ふむ、ハロウィンとはいいものだな。闇に誘われし同族たちがこんなにいようとは……!」
彼が嬉しそうに辺りを見回して言った。
「まあ、ハロウィンですから……」
「普段は内に秘めし闇を解放する日なのであろう?」
「あはは……」
(ものすごく勘違いしてるけど、まあ、楽しそうだからいいか……)
「名前、あれはなんだ?」
「え?」
彼が指さした先には、子供たちが集まっている。
子供たちが大人に声をかけると、大人はにこやかな表情でお菓子を差し出す。
「ああ、あれは……」
「Trick or Treat!」
説明する前に、別の子供たちに声をかけられた。
「はい、お菓子だよ。みんなで食べてね」
「ありがとうございます!」
名前がお菓子を手渡すと、子供たちは嬉しそうにお礼を言ってまた別のところへと駆けていった。
その様子を彼は不思議そうに眺めていた。
「えっとね、"Trick or Treat"って、"お菓子をくれなきゃイタズラするぞ"っていう意味で、だからハロウィンの日はお菓子を持ち歩いてるの」
「そうなのか。私はお菓子を持っていないぞ」
「ふふ、私が持ってるから大丈夫」
ほら、とカバンの中身を見せる。大き目のカバンの中には今日のために準備したお菓子袋がある。
「なるほど。ハロウィンとは恐ろしいイベントなのだな……」
「そ、そんなことはないと思うけど。ほら、イタズラっていっても」
「地獄の業火を浴びせられたりするのだろう」
「しない! しない!」
盛大に勘違いしている彼の言葉を慌てて否定する。
「ならば呪いか……!」
「だから、そんな物騒なことじゃなくて……」
「ここは危険な場所のようだ。帰るぞ、名前」
「えっ、でも、まだパレードが……」
「万が一それをなくしてしまったらどうする。パレードとやらも捨てがたいが、名前の安全が優先だ」
真剣な顔でそんなことを言われるものだから、名前はなんだか気が抜けてしまった。
もともと、彼が好きそうだからと、普段は出かけないハロウィンイベントに来てみたようなものだから、それはそれでいいのだが。
名前を離さないようにというように、ぎゅっと握られた手がどこかこそばゆい。
(まあ、誤解は後で解けばいいか)
彼に気づかれないように小さく笑って、名前は握られた手を握り返した。
end