確か、普通に寝ていただけだと思う。
気づけば落下していた。
とにかくひたすら落ち続けている。
到達点である地面はどこにも見えない。
それに、なんだかーー。
「も、燃えてるんですけどー……!」
身体を包むように周りには炎が燃えている。
泣きそうになりながら、夢なら早く覚めてほしいと目を瞑った瞬間、急に落下が止まった。
「えっ……?」
ずっと落下し続けていたせいで、急に静止した状態に慣れず頭がくらくらとする。
誰かに手を掴まれているような、体を支えられているようなーー。
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、燃える炎のような髪に、全てを射抜かれてしまいそうな三つの瞳を持った少年。
「クハハハ! 命拾いしたな!」
笑った顔は太陽のように明るかった。
「えっと……」
「ふむ、本当に生きている人間のようだな」
「ひゃっ」
ぺたりと頬を撫でられて、驚いた拍子にまた落ちそうになってしまう。
「おっと、また落ちたいのか?」
「そ、そうじゃなくて……」
なんだか恥ずかしいのは私だけなのだろうか。
「しっかり捕まっていろ。この下は地獄だぞ」
「じ、ごく……」
「お前は裁きを受けるべき人間ではない。オレの炎は熱くないだろう」
「あ……」
そういえば、燃えているのだった。
だが、名前を包む炎からは熱さを感じない。
「安心しろ。オレが元の世界に送り届けてやる」
「う、うん……よろしくお願いします」
状況が飲み込めているわけではないが、目の前の少年が私を助けにきてくれたことだけはわかる。
ぎゅっと腰に腕を回して体を預けると、少年は満足げに笑った。
「よし、いくぜ!」
「っ……うわ、っ……!」
一気に上へ、上へ急上昇していく。
「大分下のほうまで落ちちまったな!」
また少年が笑っている。
名前は捕まっているのが精一杯で、返事を返すところではない。
意識が遠のいていきそうになるのをなんとか堪える。
ーー堪える。
ーー。


なんだかすごい夢を見た気がする。
「……名前、聞いてなかったな……」
夢でも、せめてお礼を言いたかった。
「ーー太陽神エンマだ」
「……えっ?」
声が聞こえて、目を開けるとすぐ目の前に顔があった。
びっくりしすぎて体が動かない。
太陽神エンマと名乗る少年が名前の手を取り、脈を確かめるように指で手首に触れて言った。
「ちゃんと生きているな! まあ、もしものときはオレが責任を取るつもりだったが」
からからと笑う顔から目が離せない。
「あ、の……」
まだ夢の続きを見ているのだろうか。
思考の追いつかない名前の顔を見て、少年は少し逡巡して言った。
「此度のことは夢と片付けてもよかったのだが、そうもいかなくてな。原因はわからぬが、お前と地獄の間には繋がりができてしまっている。また、同じようなことが起こるかもしれん。まあ、そこでだ!」
話を切り替えるように少年が言う。
「これも何かの縁だろう。何かあれば、オレを呼べ! すぐに駆けつけてやるぜ!」
そう言って、少年は名前に時計とメダルを差し出した。
「えっと……」
「それとも、オレと共にくるか? 地獄もなかなか楽しいぜ!」
笑う顔は太陽のようで。
差し出された手に惹かれるように手を伸ばす。
と、名前の手を取って、少年は笑った。
「まあ、そのときは逃してやれねぇけどな!」


end