不動明王ボーイと名前の奇妙な関係は続いていた。
名前も毎日公園に訪れるわけではないし、不動明王も超がつくほど気まぐれなのでお互いが会う頻度はそう多くはない。
名前は少し迷いながら、公園へと向かっていた。
(いた……)
不動明王ボーイは公園で宙に向かって何か話しながら、楽しげにはしゃいで(暴れて)いる。
近づいてきた名前に気づいたのか、パッと不動明王が振り返る。
「名前!」
駆け寄る不動明王に、名前は申し訳なさそうに眉を下げる。
「どうしたんだ? それ」
不動明王が首をかしげながら尋ねる。
今日の名前は、マスクをしていた。
「ちょっと、風邪ひいちゃって……」
「うわっ、声も変だぞ! かぜ、ってなんだ?」
不動明王がまた首をかしげる。
「風邪? うーん、なんて言ったらいいんだろう……」
名前が説明に悩んでいると、不動明王は別の方向を向いて、ふんふんと頷いている。
まるでそこに他の誰かがいるみたいだ。
「元気がねぇのか?」
「あ、うん……そうなの。だから、しばらくは公園には来れないかも……」
「うーん、よくわかんねぇけど……早く元気になれよ、名前!」
「ふふ、ありがとう」
じーっと不動明王が名前を見つめて言った。
「今日もダメなのか?」
「え? う、うん。風邪うつすかもしれないし……」
「それってどうやったらよくなるんだ?」
「えーと、薬飲んで、よく寝てたら治るかな……」
考えながら返事をする名前に、不動明王がいいことを思いついた、というように言った。
「じゃあ、一緒に寝れば治るな!」
「えっ? いや、一緒に寝たらダメだよ。風邪うつっちゃうし」
「そうなのか? わかった!チョコボー食ったらよくなる!」
「それもどうかなぁ……」
名前は苦笑いしながらも、早く元気になってほしいという不動明王の気持ちが伝わってきて嬉しかった。
「早くよくなるように頑張るから、またね」
名前が別れの言葉をつげると、不動明王は名前の手をぎゅっと握って言った。
「やだ!」
「え、えっと、不動くん……?」
不動明王はそのまま名前の手を強く握ったまま歩き出す。
(力、強い……!)
振り払おうとしても、がっちりと握られた手は振り払えなさそうだった。
そうこうしているうちに、どこかの家の敷地内へと入り込み、小さな小屋のような場所にたどり着く。
「かぜ、治してくれ!」
不動明王は扉を勢いよく開けると、そう叫んだ。
「不動明王ボーイっ? あっ」
中にいた少年が不動明王と名前を見て、何かを察したような顔をする。
風邪の症状のせいだろう、頭がぼうっとする。
足を踏み出そうとするが、なんだか雲の上でも歩いているように足元がふわふわとする。
「名前?」
不動明王の声が遠くに聞こえる。
誰かの慌てたような声もーー。