名前の部屋に、不動明王ボーイはいる。
妖怪だと言われても、いまいちピンとこなかった。
今まで生きてきて霊や妖怪の類とは無縁の生活を送ってきたのもあるし、不動明王は『見える』からだ。
光江とアキノリの家は代々そういった妖怪と関わりが深い一族らしく、不動明王についても簡単に教えてくれた。
曰く、不動明王はフドウ雷鳴剣に宿る剣武魔神でーー。
戦いの中でいつの間にかこの姿になっていたらしい。
トウマという少年(名前が倒れたときに部屋にいたらしいが、会ってはいない)と契約をしているが、剣武魔神のときの記憶はないらしい。
情報が処理しきれず、あまり理解はできなかったが、今はそれで良いと光江は言った。
なんでも、名前と不動明王ボーイを見ていると、話さねばならないと思ったらしい。
「名前、まだ、きついのか?」
不動明王が、心配げに名前の顔をのぞきこむ。
「ううん、大丈夫だよ」
ベッドの上で、ぎゅーっと不動明王が名前にしがみつく。
「本当か?」
「うん。眠くなってきちゃった……」
「俺様も……ふわーぁ……」
不動明王のまぶたがうとうとと、重たくなっているのがわかる。
とんとんと背中を撫でると、不動明王は気持ちよさそうに目を閉じる。
この腕の中の、子どもの姿は一時的なものでーー。
元の姿に戻ったときには、名前との記憶はないかもしれない。
そんなことを思うと、つい抱きしめる力が強くなったようでーー。
さらに強く抱き返されてしまった。
名前はくすりと小さく笑った。
大事にしよう。
今のこの時間をーー。


end