コンビニに入ると、バレンタインのコーナーが目に入った。
ーーバレンタイン限定チョコボー。
バレンタイン仕様の可愛らしいパッケージに包まれた人気のチョコ菓子を見つけて、思わず頬が緩んだ。
頭に浮かんだのはいつもチョコボーをたくさん頬張っている少年の姿。
「ありがとうございましたー」
店員の挨拶を後ろに、名前はついつい買ってしまったチョコレートを手に家路を歩く。
「名前!」
と、家の近くまできたところで声をかけられた。
「不動くん? わっ……」
勢いよく駆け寄ってきた不動明王ボーイをなんとか抱きとめる。
「ん? ソレ、なんだ?」
不動明王は名前の手に持つ袋を興味津々の様子で眺めている。
「チョコボーだよ」
「チョコボーっ? やったー! 早く食おうぜ!」
「ま、待って、走らないで……!」


「これ、チョコボーか?」
家に入ってから早速チョコボーを取り出した不動明王は、バレンタイン仕様のチョコボーを見て不思議そうな顔をした。
「うん。バレンタイン限定なんだって」
「バレンタイン? あっ、今日チョコ貰える日だって聞いたから名前のところにきたんだった!」
「そうなの? じゃあ、丁度よかった」
名前が笑って言うと、不動明王がじーっと名前を見つめる。
「ど、どうかした……?」
突き刺さる視線にたじろいでいると、不動明王は言った。
「これ、全部俺様の?」
「うん。そうだけど……」
名前の返事に不動明王の表情がぱっと明るくなる。
「あ、でも……」
言いながら、名前が袋から一つの箱を取り出す。
ラッピングのリボンをほどき、箱を開けると、中にはそれぞれ違う形のチョコレートがいくつか入っている。
「これは、私も一緒に食べたいな」
「いいぜ! じゃあ、名前からな」
不動明王はそう言うと、箱の中から一つチョコレートを取って名前の前に差し出した。
「え? んむ……」
半ば無理やり口の中にチョコレートを押し込まれて、もごもごしながらそれを味わう。
「美味いか?」
「う、うん、美味しい……」
「じゃあ、俺様も!」
期待した目で口を開けながら待つ不動明王に、名前はされたのと同じようにチョコレートを差し出す。
ぱくりとチョコレートを口にすると、不動明王は目を細めてうまーい!と叫んだ。
「なんだこれ! 口の中ですぐなくなった! でも美味い!」
「もう一個食べる?」
「食べる! でも、次は名前の番な」
「む、むぐ……」
何度か同じようなやり取りをすると、個数の少ないチョコレートはあっという間になくなってしまった。
「あー、美味かった! 来年もバレンタインしような! ……ふあー、なんか眠くなってきた……」
言葉通り今にも寝てしまいそうな不動明王の手を取って、名前は寝室のベッドへと誘導する。
「……名前も……」
「わっ……」
もうほとんど寝ているはずなのに、繋いだ手をぐっと強く引っ張られて、一緒にベッドへと引き込まれる。
手をぎゅっと繋いだまま、すやすやと気持ちよさそうな寝息をたてる不動明王の姿を見て、名前は諦めように笑うと、一緒に目を閉じた。


end