※何事もないですが、コンドームの話なので注意
※付き合ってない


「なあ、名前。さっき人間界でこれ拾ったんだけど」
エンマがそう言って見せたのは、小さな四角いビニールに包まれたもの。
咄嗟に反応できずに固まる名前に、エンマは続けて言った。
「何に使うんだ?」
エンマの手の中にあるのはいわゆるーーコンドームと呼ばれる避妊具だった。
不思議そうに首を傾げるエンマに、名前はどうしたものかと頭を抱える。
(何て説明したらいいんだろう)
困った顔の名前を見て、エンマは察したように言った。
「知らないのか? じゃあ、ぬらりに聞いてみるからいいぜ」
「えっ、あ……」
言うが早いが、エンマ大王は行ってしまった。
(ぬらりひょんに任せたほうがいいのかな、うん……)
その日、エンマ大王が再び名前の前に姿を現すことはなかった。


あくる日の夜。
もう寝てしまおうと寝室のドアを開いて足を踏み入れる。
と、名前は目の前に広がる空間に、一気に眠気が覚めてしまった。
「えっ……?」
一目見て、明らかに名前の部屋ではない広々とした豪奢な寝室。
部屋の中央には、それに似合った天蓋付きのベッドが置かれている。
「ーーオレが呼んだんだ」
天蓋を開いて現れたのは、予想通りというかエンマ大王だった。
「ど、どうしたの。こんな時間に……」
「これ、覚えてるか?」
「あ……」
エンマ大王の手のひらの上には、先日見たコンドームが置かれている。
「ぬらりにさ、聞いてみたんだけど……」
「う、うん……」
ドキドキとしながらエンマの言葉を待つ。
知ってしまったのか、と名前の心がざわざわと波打つ。
「わからないって」
名前はその場で転びそうになった。
「っと、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
こうなると、私が教えなければならないのだろう。
そう思い、名前はコンドームについて、男性が感染症の予防や、避妊に使うものだというのを説明した。
「ふーん。……じゃあさ、」
いいことを思いついた、というようにエンマが目を細めて笑う。
「ーーオレに使い方教えてくれよ」


豪奢な寝室に、それに似合った天蓋付きの大きなベッド。
一度は寝てみたいものだと憧れるベッドの上に名前はいる。
向かい合って目の前には妖魔界の王であるエンマ大王。
二人の間にはーーコンドームが置かれている。
(なんなんだろう、この状況……)
途方に暮れる名前に、エンマは言った。
「で、どうやって使うんだ?」
「うーん……」
妖魔界に性教育はないのだろうか。
そもそも妖怪に性行為は必要ないのでは。
名前の考えを見透かしたように、エンマが口を開いた。
「オレの知り合いには、妖怪と人間の間に生まれた血族もいるんだ」
「そ、そうなんだ。……」
いよいよ逃げ道がなくなってきた。
ますます困った顔をする名前を見て、エンマがぷっと噴き出した。
「くっ……ははは! 悪い、悪い、そんなに困るとは思わなかったんだ」
「えっ?」
「いいよ、教えなくて。……少し、意地悪しちまった。悪かったな」
謝るエンマに、名前は首を振る。
「う、ううん、私も……うまく説明できそうになかったから……」
「だから、いいって。それでいい」
エンマはどこか満足そうに笑って、名前の手を引っ張った。
「わっ……」
「このまま寝ようぜ。なんか、眠くなってきたし……」
ふわぁ、と欠伸をするエンマの横に、名前は自然と寝転ぶ形になる。
「えっと……」
「寝心地いいぜ、このベッド」
「まあ、うん……」
ふかふかとしたベッドは、それだけで睡眠を誘うには十分だった。
横には、既に目を閉じてしまったエンマ。
繋がれたままの手から伝わる体温がどこか安心する。
そっと目を閉じて、しばらくすると名前はうとうとと夢の世界へと吸い込まれていった。


名前の寝息が深くなったところで、エンマは目を開く。
肘をついて、隣で眠る名前の寝顔を眺めていると、視界の端に件の避妊具が目に入る。
「……使い方、知ってるよ」
ポツリと呟いた言葉は、名前には届いていない。
ぬらりひょんは知らなかったが、デーモンオクレに尋ねるとアッサリ答えが返ってきた。
「焦らず、ゆっくり、だな」
エンマはふう、と息を吐くと、今度こそ眠るべくまた目を閉じた。


end