「ドッカン雷鳴斬りー!」
エンマが目の前に現れた瞬間、不動明王ボーイが必殺技を繰り出す。
エンマはそれを剣で受け止めて言った。
「おっと、ずいぶんな挨拶だな」
重い斬撃を受けてもなお余裕のある笑みを浮かべるエンマに、不動明王ボーイは苛立ちを募らせるように自身の周りにバチバチと電流をまとわせる。
「なんか、お前の顔見てるとムカつく!」
電流が勢いを増してエンマへと放出される。
ーーと思ったのだが。
不動明王ボーイの纏う電流が一気に消え去る。
エンマが何かをしたわけではない。
不動明王ボーイは公園の入り口に目を向けている。
「今日はこのくらいで勘弁してやる! じゃあな!」
最後にべー!と舌を出して、不動明王ボーイは駆け出していった。
女性とともに歩く不動明王ボーイの姿を見ながら、エンマは呟いた。
「ーー今の時代なら、封印しなくても良かったのかもな」
エンマの言葉は誰に届くわけでもなく、風に乗って消えていく。
かつて、歴代閻魔大王によって不動雷鳴剣に封印された不動明王。
幼い姿であってもその強さは変わらない。
別に、先代のように封印が必要だとも、先代の行いが間違っていたとも思わない。
今は人間界に溶け込むように暮らす不動明王ボーイが、エンマにはどこか羨ましく思えた。
「俺も、しばらくのんびりするかな」
エンマはポツリと呟くと、どこかへと歩き出した。


end