※不動明王と恋人同士(新月の夜に顕現できる設定)
※夢主は一部の妖怪は見えるようになってます
※不動明王・界が出てきます


「トウマ、なんでそんな格好してんだ?」
昼寝を終えて、妖怪探偵団の事務所に姿を現した不動明王ボーイは、トウマや妖怪探偵団のメンバーのいつもと違う格好にパチパチと目を瞬いた。
「今日はハロウィンだからね」
「はろうぃん?」
耳慣れない単語に首をかしげる不動明王ボーイに、トウマはハロウィンについて簡単に説明した。
「ってことは、それ言うとチョコボーが貰えるんだな!?」
お菓子が貰える、というところに反応して不動明王ボーイの顔がぱっと輝く。
「いや、チョコボーとは限らないけど……」
「とりっくおあとりーと!」
元気よくハロウィンの定型文を言う不動明王ボーイに、トウマは、はいと用意していたチョコボーを手渡した。
「サンキュー! オレ様、名前のところにも行ってくる!」
そう言って、今にも駆け出していきそうな不動明王ボーイにトウマが言った。
「名前さん、呼んでるからもうすぐ来ると思うよ」
「そうなのか? オレ様が行ったほうが早いんじゃねぇか?」
そう言ったところで、事務所のドアが開いた。
「こんにちは、わっ……」
「名前! とりっくおあとりーと!」
名前が来たとわかると、不動明王ボーイはすぐに駆け寄って先ほど覚えたばかりのフレーズを口にした。
名前は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になり用意していたのであろうチョコボーの入った袋を不動明王ボーイに手渡した。
「はい、ハロウィン限定のパンプキン味のチョコボーだって」
「うまそう〜! サンキュー、名前!」
上機嫌にそれを受け取ると、不動明王ボーイは早速チョコボーを開けて食べ始めた。
「うめー! そうだ、大きいオレ様にも食わせてやってくれよ」
不動明王ボーイはチョコボーを一本食べ切ると、持っていたチョコボーを名前に渡しながらそう言った。
「え?」
名前がきょとんとしていると、目の前で不動明王ボーイが気合を入れるように拳を握りしめる。
不動明王ボーイの体からオーラのようなものが湧き上がり、次の瞬間目の前には不動明王の姿があった。
「ーー不動明王・界」
「……不動くん?」
いつもと纏っている色合いが異なる姿に、名前が目を瞬いていると、名前の横にジュニアが飛んできて言った。
「チョコボーで、パワーアップ、だぜ!」
「えっと、そういうものなの……?」
黄色味がかった肌に、赤い髪色ーー着ている僧衣もいつもとは色合いが違う。
妖怪のことはよくわからないが、目の前にいるのは不動明王で間違いはないのだろう。
そう思い、名前は改めてチョコボーを不動明王に差し出した。
名前からチョコボーを受け取ると、不動明王はチョコボーの包みを破り、それを口に入れた。
「…………」
無言でチョコボーを食べる不動明王の姿はなんだか見慣れなくて、名前も、妖怪探偵団のメンバーもその様子を見守っていた。
一本食べ終わったところで、名前は声をかけた。
「えっと、美味しかった?」
ああ、と満足げにうなずく不動明王に、名前はほっとしたように笑って言った。
「よかった。まだあるから、たくさん食べてね」
名前がそう言うと、不動明王は手に持ったチョコボーを次々に口に運んでいき、あっという間に名前の渡したチョコボーはなくなってしまった。
トウマがぼそりと呟いた。
「……さすが、不動明王」
アキノリが言った。
「ていうか、元に戻ってもチョコボー好きなんだな」
ジュニアが代弁するように返す。
「だぜ!」
一瞬でなくなったチョコボーに、名前は面食らいながらも笑って言った。
「来年は、もっと用意しなきゃだね」
「ーーTrick or Treat?」
思いがけぬ言葉に、名前の思考が止まる。
「え? えっと……」
持ってきたチョコボーは不動明王に全て渡したので持っていない。
「ーーお菓子をくれなければ、悪戯をしてもいいのだろう?」
不動明王の瞳がほんの少しだけ弧を描いて、名前へと顔を近づける。
「ちょ、ちょっと待って……」
顔を赤くして慌てる名前に、不動明王は途中で顔を止めてちらりと横を見た。
ーー妖怪探偵団のメンバーが二人の様子をじっと伺っていた。
不動明王は、小さく息を吐くと名前の耳元で何かを囁いた。
次の瞬間、ぽんと軽い音と煙とともに、不動明王は不動明王ボーイの姿へと戻っていた。
「んん? ふわーあ、眠てぇ……」
不動明王ボーイはそう言いながら、名前の手をぎゅっと握る。
今にもまぶたが落ちてしまいそうな不動明王ボーイを見て、アキノリが苦笑いして言った。
「あー、こりゃ一緒に出かけられそうにないな」
「名前さんの分も衣装用意してたんだけど……」
ナツメが残念そうに言うと、無意識にか不動明王ボーイの手を握る力が強くなる。
トウマが言った。
「離れそうにないね」
名前が笑って返す。
「そうだね。でも、どうしよう、不動くんっていつもどこで寝てるの?」
名前が尋ねると、アキノリがうーんと考えながら言った。
「屋根の上か、その辺で転がって寝てるか、あとは……あー、名前さんの家で寝てるほうが多いんじゃないかな」
アキノリの言葉に、ピクリと不動明王ボーイが反応する。
「……オレ様……名前の家がいい……」
アキノリが言った。
「じゃあ、名前さんちょっと来てもらってもいいですか?」
「はい?」
不動明王ボーイと手を繋いだまま事務所の外に出ると、アキノリが手招きをする。
「えっと、この辺に立ってもらって……そうそう、オッケーです!」
アキノリに誘導された場所に立つと、何かに引っ張られるような力を感じた。
「えっ? えっ?」
「たぶん名前さんの家の近くまで運んでくれると思うんで! あとはよろしくな、うんがい鏡!」
ーーぺろーん。
何かの声が聞こえると同時に、目の前の景色が渦を巻いたように変わっていく。
次の瞬間、アキノリの言った通り名前は自宅の近くの道に立っていた。
「な、なんだったんだろう……」
これも何かの妖怪の力なのだろうか。
深く考えてもしょうがない気がして、名前はとりあえず不動明王ボーイに声を掛けた。
「もうちょっとだから、歩ける?」
「……うん」
目を擦りながら名前手を引かれて歩く不動明王ボーイに、名前はくすりと笑う。
ふと、先ほど不動明王に言われた言葉を思い出す。
妖怪探偵団のメンバーには聞こえないように言われた言葉ーー。
ーー悪戯は、次の新月の夜に取っておこう。
(……何されるんだろう)
家路を歩きながら、名前はまた顔を赤くしていた。


end