街中の季節感の移り変わりは早い。
正月が過ぎると次は節分、バレンタイン。
妖怪探偵団の事務所へ向かう途中。
節分グッズとバレンタインのチョコレートが混じった店のディスプレイを横目に歩きながら、名前は何気なくハルヤに尋ねた。
「ねぇ、節分の日って、大丈夫なの?」
「ん? ああ……別に、関係ないよ。鬼によっては力が強くなったりするし」
「え? そうなの?」
不思議そうに首を傾げる名前に、島之内が説明するように言った。
「人間からの意識が向けば妖怪は存在が確かなものとなる。我々にとってはそう悪い日でもない」
「そうなんだ。……豆ぶつけられても大丈夫なの?」
名前の質問にハルヤは呆れたような顔で答えた。
「オレに豆をぶつけるような馬鹿がいれば只ではおかんが……別にどうとでもない」
歩きながら、妖怪探偵団の事務所に辿り着く。
がらりとドアを開けると、中からは元気な声が聞こえてきた。
「鬼はー、そとー!」
明るい声とともに豆がバラバラとハルヤの顔や体に当たって地面に落ちる。
アキノリが言った。
「おっ、ハルヤ! 鬼役がきたな!」
丁度よかったと笑うアキノリと対照的に、ハルヤの顔は引き攣っている。
「……おい、」
「あ、髪に豆ついてるぞ、って痛てててっ!」
ひょいっと取った豆をすかさず食べようとするアキノリの手を掴んで、ギリギリと力を込めながらハルヤが低い声で言った。
「オレに豆を投げるとは良い度胸だな」
「なんだ、鬼役嫌なのか? じゃあ洞潔に頼むか」
切り替えの早いアキノリに、何だか怒る気も失せてハルヤは息を吐いてアキノリの手を離した。
「洞潔もダメだ。というか、そういう遊びは人間だけでやれ」
不愉快そうにしながらもハルヤは事務所の中に入っていく。
室内には鬼の面に、山盛りの豆。
アキノリがパソコンのディスプレイを見ながら話している。
「なんでも、豆まきをしていると鬼が現れて……」
「ひぃいっ……」
アキノリの話にビクビクと震えるケースケ、そばで苦笑いするナツメに、冷静に相槌を打つトウマ。
妖怪探偵団の日常の風景がそこにある。
アキノリが言った。
「そういえば、豆撒いてたら本当にハルヤ達が来たな」
「偶然だ」
嫌そうにしながらもハルヤは言葉を返す。
意外とアキノリとハルヤは仲がいいのではないかと名前は思ったが、口には出さないでおいた。


end