梓馬 土方十四郎
真選組のお抱え医師 真選組副長
02
副長さん筋肉ください…あでも俺、ムキムキのあなたがすきですね?…困った。
えっ……みんな何でそんな怪我してるんです?戦争?(橙を背負って門前へと帰ってきた仲間たちに、微笑みながらおかえりなさいを言う間はなかった。お抱え医師として一日の主要な任務内容を伝えられている立場故、本日の任務も脳には入っている。だから、嫌な予感はしていたのだ。書類に綴られた“松平片栗虎”の文字に──。予感は的中。また御大の無茶に引き摺り回されたのであろう不幸な彼らに同情、そして労わりへ。病院へ送る程の症状はなかったが為に、複数人の並びを消化するにはそれなりの時間がかかった。すこしの休息。さてしかし。これで本当に患者が“0人”になったか否か。医療器具をひっ掴み、足早に向かうその部屋は最早通い慣れた場所であった。)おバカの副長さーーーん!(すぱーん!!勢いよく障子を引く小気味好い音に紛れ、呼び名の頭につけられた罵声に彼は反応するだろうか。否。其方よりも先に、どんな体勢であろうとも、勢いのまま鼻先数センチ迄近づけた瞳は少々釣り上がり気味である。)ちょっとでも怪我したらすぐに来てって言ってますよね?俺の目がごまかせるわけないのに*ほら!脱いで!背中でしょ?(子を叱り付ける親の口振りに反し、尖らせた唇は存外拗ねた子どものようだ。真剣さがある種獣じみた眼光と、隊服に掴みかかる勢いで脱衣を促す両手。少しでももたつきがあれば手馴れた手付きで衣類を脱がしにかかっただろう。どちらにせよ、晒された背にあるであろう擦り傷並びに打撲痕に「はあ*」わざとらしいため息を漏らした。)やっぱり…。俺、副長さんのことはとくべつよく見てるからちゃんと分かるんですからねー?(出迎えた彼の、ほんの少しの動きの違和感。それだけで気付いてしまえるのは医者としての技量か、はたまた。ただしくはつい“見てしまう”彼の肌に手早く消毒を施し、布で包んだ氷を無言のままに押し当てた。ヒヤッ。予告なく肌を走る冷気に非難を受けるのならば、ゴメンナサイねェなんて少しの感情もない単語を返すのだけれど。そう。これは単なる“怒っている”アピール。幼い己自身に苦笑も浮かぼうが手が休むことはなかった。患部をある程度冷やし終えれば冷湿布を、今度はやさしく、丁寧に。──だってやっぱり、心配だった。結局それが一番だ。「よしっ」。処置の終わりを告げる声音と共に、密やかに身を屈める。柔らかな薄紅の髪で肌を擽りながら、背中中部に自ら貼った白布の上、音もなく落とした口付け──。彼は気が付いただろうか。問われれば「ん?おまじない」にっこり。何でもないことのようにそう告げる。追求は許さないとばかりに道具を片付けながら、何となしにちらと見上げた体は背面から前面へと変わっているだろうか。 ああ。おもわず。手が止まる。)…相変わらずいい体。………なん、か……うーん、あれ。あれだから、うん。…はやく服着てくれます…?(凝視。不躾な視線とは裏腹に、少し前に脱げと威勢良く紡いだ唇と同じものが呟く言葉は不自然に絡まった。もごもご。視線が落ちれば、まったく!体までかっこいいなんて!──そんな思考。出すつもりはない。然し、)…ね。副長さん。今度のお休み、もし宜しければデートしません?どうせ非番は持て余してる仕事人間でしょうし、損ねた俺の機嫌も取れますよ。(穏やかな微笑を浮かべながら紡ぐ、冗句も交えた誘い文句。そこには日頃のわざとらしい甘さはなかった。ただ、さらりと、それでいて真摯な瞳が見つめた彼に、僅か染まった頬の色を見破られるよりも早く。礼儀正しく垂れたこうべが一礼をして退室の姿勢を見せる。)…なんて。副長さんかっこよすぎて思わずお誘いしちゃいました。ご一考くださいね。(じゃあ。お大事に。──何でもなく、余裕たっぷりに、別れの言葉は告げられただろうか。俯き続けたままに隠した頬の彩りは、障子を閉める一瞬だけ。ふわりと微笑んだかの人の瞳に色を添えただろうか。どうか。)
困ってねぇで鍛錬しやがれ。…医師だろうが、てめェはひょろすぎだ。
…、ったく、松平のとっつぁんにゃあ毎度毎度…は、…っおい行けるか…?任務は終いだ、帰んぞ。(ぜえはあ、疲れを露わにしている隊士に声をかけつつ、足を怪我したであろう隊士には肩を貸して帰路に着くのだ。―本日の任務は松平のとっつぁんこと“松平片栗虎”と共にすることだった。毎度の事だと覚悟はしていたものの、無茶を言っては振り回し御大が満足するまで続いたそれに、大半の隊士は怪我を負うこととなってしまった。大きな怪我がなかった事は不幸中の幸いと言えるだろうけれど…。ちらりと、前を歩いているボロボロな局長と無傷に近いピンピンな一番隊隊長の極端さを見たのなら思わずため息を吐いてしまい肩を貸していた隊士に心配されてしまったのはここだけの話。―そうしてやっとの思いで戻ってきた屯所、出迎えたのはお抱え医師である彼。怪我した者が治療してもらおうと並びを作ったために肩を貸した隊士を列に入れ「後は平気だな。」そう声を掛け自分は列から離れ部屋へと向かおう。)…っ、(肩を貸していた手前、背筋を伸ばしていたのだけれど、ずきりずきりと痛む、痛んでいた背は悲鳴を上げていて。思わず痛みを少しでも和らげるようにと背を丸めながらゆっくりと向かうことになるのだけれど、痛みは顔に出ていなかったはずだし隊士も気に病むことはないだろう。なんて。――部屋へと戻ってこれたのなら、胡坐をかいて目を閉じる。幾度と息を吐き未だじわりと痛みを訴える背を感じていれば、しばらくして響いたのは障子を引く音、と、)っオイイイイィィ!誰がバカだてめ、っ!!(バッと開いた障子の方へ顔を向け聞こえてきた罵声に反応せずにはいられずに胡坐を止め立ち上がろうとした矢先、一気に近づいてきた顔に驚き動きをとめることになるのだけれど。―やべぇ。 彼の感情を察して何かから逃げるようにほんの少し顔を逸らそうか、)……大したことはねぇよ、俺よりもひでーヤツがいたんだ。……ッチ、お前を誤魔化せるとも思ってないが…あ?ンだよ別にもう…、!ぬ、脱ぐ!脱ぎますから!やめろバカ!(ずばり、言い当てられた痛い箇所に思わず舌打ちを一つ。痛みはもうない、そう告げようとしたのなら真剣な彼の眼光に早くしろとでも言いたげなその両手を見ては顔が引き攣る。それでも脱がないでいようとしたのだけれど、彼が脱がしにかかるものだから慌てて止めて大人しく自分で隊服を脱ぐことに。晒された背に向けられたため息に、むっとしつつ文句を言えないのは仕方のない事だ。)…あぁ、どうやらそうらしいな…誰にもバレやしねぇと思ったが、医者だから、か。(ずきりと痛む背中に大人しく彼からの処置を受けていれば唐突にやってきた冷気。びくりと体を震わせたのなら、体を半分捻らせ彼の方へと向けた表情は憎々し気で、)テメェ、急に何すんだ!……ったく、ガキか。(小さく再び舌打ちを落としたのなら、体をまた戻しては「はあ、」とため息をついて。そのまま続く処置にぽつり、小さく、「…悪かったよ。」そう呟いてみせよう。果たして、彼には届いただろうか。――処置の終わりを告げる声、と肌を擽る感覚。頭半分背後へと向けたのなら彼が背にくっついているのはわかるのだけれど。不思議に思い問うてみたのなら返ってきた回答には、「へいへい、そうかい。」そう軽く返し真偽を知るべく体を真っ直ぐ向け、道具を片付ける彼を見やるのだ。ふと、動きが止まったことに首を傾げ、)…あ?なんだお前あんだけ脱げって威勢よく言っといて……それと、梓馬は細すぎンだよ。(テメェも少しは鍛錬しろ、それからマヨネーズと…云々かんぬんそんな話をしながら衣服に袖を通していたのなら、―唐突なお誘いにきょとんと目を丸くし彼を見やる。その、表情は、言葉は、)――おい、(一言いうよりも先に退室の姿勢を見せいつものように余裕たっぷりなその様子に、何もかもが考えすぎで気のせいだったのではと思わせる。「お、おう」と呆気にとられつつ別れの言葉に手を挙げたのなら、ほんの一瞬。あの頬の彩りは――)…っ、冗談か、分からなくなるだろうが…(小さな舌打ち一つ、痛みが幾分もなくなった背中に貼った冷湿布の冷たさとは逆にじわりと熱くなる顔を手で覆い隠して呟いた姿は、土方しか知らない事だろう。――後日、非番の前日の事。彼の部屋へと自ら赴きくしゃりと髪を掻きながら、)おい、梓馬。こないだの礼だ、どこ行くか決めとけ。…デートじゃねェけどな。(もしも彼が用が出来たというのなら「ならいいんだ」と一人過ごすことになるのだけれど、さて、次の日の予定は如何に―?)
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