飛永雛 赤葦京治
ちびっこマネージャー 冷静な副主将セッター
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赤葦先輩…御免なさい以外の言葉が浮かばない時は、如何すれば良いですか。
(梟谷学園の男子バレー部員が寝泊まりする教室にて行われたミーティングは、明日の予定をお浚いする軽いかるーいものであった。監督やコーチ、顧問の先生達が何処か浮かれながらも教室を後にしたのは、此の後、多分というか絶対、指導者達で飲みに行くからだろう。何か思い出した様子の先生が教室に戻って来たなら、此方を見遣った後に一年共!夜の見回りは頼んだ!!なんて明るい声音で言っては、今度こそ教室を後にしてしまった。此処にはまだまだ練習して上手くなりたい!そんな向上心溢れる男子が多い為、寝る間を惜しんで自主練に励む者も居るのだろう。そんな気持ちを無下にしたくは無いが、夜はしっかり身体を休めるもの。仕方あるまい。)尾長くん、見回りに行こ……あ、寝てる。すっごく寝てる……あの、見回りって、一人で行っても良いんですか?一年共と言われましたが、一年仲間の尾長くんが既に、夢の中でして…。(既にお布団と一体化している同級生を見遣れば、先輩方へと視線を移して問うてみるのだが――返って来たのは良いんじゃね?ヤ、でも一人は危なくね?でも一年は飛永しかいねーぞ。一年が居なかったら二年が居るだろ。先輩達の間でポンポン言葉が飛び交った果て、二年という言葉と共に幾つもの視線が副主将の元へと向けられた。とんとん拍子で話が進み、副主将と共に見回りに行くことで話が纏まった時にはもう「…赤葦先輩!本当に御免なさい!!」と、其の場で土下座をしたものである。先輩達に見送られては既に電気が消された真っ暗な廊下を懐中電灯片手に進んでいくのだけれど、)…赤葦先輩、脚立事件の時にも言いましたが……お疲れのとこ、本当に御免なさい。ちゃちゃっと回って、出歩いてる人が居ないかチェックして、居たらちょこっと注意して、ササッと教室に戻りましょう。(そう告げては体育館に続く道を二人で進んでいくのだが、ふと思い出されるのは、夕食前に飛永へと声を掛けて来た綺麗な女子生徒のことで。彼女は副主将に用があったのだから、其の件についてはちゃんと報告しておくべきだと判ずれば随分と上にある彼の顔を見遣った後、進行方向へと視線を移して。)あの、赤葦先輩…報告が、遅れてしまったんですが……今日の、夕食前。多分、2年の人だと思うんですけど…女の人が、赤葦先輩を探してるみたいだったんです。用件と、お名前を伺ったんですけど、帰っちゃって……お友達とか、彼女さんだったら、ちゃんと引き留めておくべきでした、よね。御免なさい。(対応の拙さに肩を落としては、本日何度目かも知れぬ謝罪を告げるとしよう。気落ちした其れ等を振り払うように軽く頭を振っては「…もし、赤葦先輩の中で此の人かも知れない。って、思い当たる人が居たら…連絡、してあげて下さい。多分、きっと…其の人、喜びます。」彼女と、彼の関係性は全く分からないけれど、笑顔で告げたことに偽りは――無いとは、言い切れない。女友達かも知れない。彼女さんかも知れない。もやっとする中で思い出すは、合宿前、ポニーテールの明るい先輩マネさんから掛けられた言葉。全員の恋を応援出来る?もやもやした此の気持ちが、何よりも答えであるように思えた。彼に用があった女の子の話から、話題は待ち構えている夏休みの課題だったり、主に交わされるのやはりバレーボールのことだろう。チェックすべき点を全て見て回ったなら、彼を教室へと送り届ける中。)誰も居残り練習をしていなくて良かったです。皆さん、流石に疲れてますもんね。無理をしてまで練習を続けると、睡眠を削ると、怪我に繋がりますから……赤葦先輩。今日は色々と、有難う御座いました。正直、御免なさい!って気持ちがいっぱいなんですけど…言い過ぎるのダメなので、せめて有難う御座います。って、言わせて下さい。(緩く笑んでは幾つもの謝辞を送り、彼を無事に教室へと送り届けたならペコリと頭を下げて「おやすみなさい、赤葦先輩。」と告げた後、女子マネが寝泊まりする教室へと向かうとしよう。色んな有難うと御免なさいを告げたけれど、後者にはひっそりと、先輩の恋を応援出来ないことも含んでいた。そんなことを知るのは、当然ながら飛永自身だけ。)
うーん…反省とか、優しい御免なさいなら俺はいいと思うけどね。ずっと謝られるのは少し嫌だけど。
(食事を終えたのならしばらく他校の部員と話をしたり、色んな人に絡みに行く主将を引き留めたりとのんびりした時間を終え、梟谷がお風呂に入る時間となったのならそこで一日の汗を疲れを洗い流す様にとゆっくりと過ごすことになるのか。お風呂から上がったのならば、ふぅ、と一息つきぺしゃんこな頭になった主将と共にタオルを肩にかけながら自分たちが寝泊りすることになっている教室に足を運ぼう。―途中自動販売機で飲み物を買ったり、バッタリ出会った他校の部員に主将の髪の毛を茶化されたりと寄り道することとなるのだけれども、どうやらミーティングの時間まではまだある様子で近くに居た部員と会話をしたりして暫く。皆が集まった頃合いに行われたミーティング。明日の予定をおさらいするものであった為さほど時間もかからなかったそれに本日の予定は終了を告げた。無事に初日を乗り越えた事に安堵しつつ、「練習したかったけど初日はやっぱ疲れるなー」なんて隣で欠伸を見せる部員に、ふっと笑みを浮かべる。疲れもあるけれどやはり皆考えは同じだな、なんて。)確かにね。明日もあるし初日は無理しない方がいいんじゃない?それに、…もう何人か寝てるし。(膨らみを見せる布団を確認したのならば、隣の部員をもそもそと布団と一体化して。それを見たのなら、ふいに感じた複数の視線。隣に向けていた顔を視線の元へと向けるため戻したのなら、先輩方からじぃっと見つめられていて思わず体を後ろに反らしてしまったことは仕方のない事だろう。疑問符を頭に浮かべながら目を丸めていれば近くに居た先輩からこの視線の理由を聞くこととなり、あぁ…なるほど、と納得して頷いたのならどうやら話は纏まったらしい。それじゃあ、と立ち上がろうとした時見事なまでの土下座を確認する事となってしまい、慌ててそれを止めさせて共に学校内の見回りへと、いざ。)…ううん、気にする事ないよ、謝罪は…うん、さっきの土下座で十分に伝わってるから。それに、飛永一人に見回り行かせる事の方が俺は嫌だし。……了解、初日であれだけハードだったから皆寝てるだろうけど。(電気が消えている事で真っ暗な空間。灯りは懐中電灯のみというホラーゲームであれば何とも心許ない装備だ、なんて片隅に思いながら歩いていれば、)ん?夕食前に…?…ふーん、いや、彼女ではないけど…わかった、ありがとう。それ、飛永が謝る事じゃないよね、伝えてくれたんだから…どうもね。(謝罪が止まらず肩を落とす彼女の肩をぽんと一度叩いたのなら、次いで出た言葉には頷いたのならば進行方向へと顔を向けよう。―心当たりがない、訳ではなかった。クラスメイトの女子で、最近バレーにハマったのだと声を高らかによく話しかけてくる女生徒がいる。話がしたい、と話があると言ってきたのだけれど、合宿があるからまた今度と言っていたのだけれど、―まさか。いや、違うかもしれないと、ここ数秒で考えて、頭を軽く振る。もしもその女生徒であるならば残念ながら連絡先は知らないために彼女のお願いは叶えられそうにないけれど――。それから暫く、話題を変えながら暗い中での見回りを終えることが出来たのなら、)うん、やっぱりハードだったし…明日もあるからさすがにね。飛永も疲れたでしょ、お疲れ様でした。……、ううん、俺がしたくてしたことだし、良かったって思うよ。…謝罪はもう要りません、なんてね、やっぱり俺はお礼を言ってもらえた方が嬉しいかな。…あ、本当なら俺がそっちの教室まで送るべきだったのに…気を付けて戻って。(ひらりと軽く手を挙げたのならば、「おやすみ、飛永。」そっと優しく微笑んで彼女の背を見つめたのならば教室へと入っていこう。自分が戻ってきた事に気付いてお疲れーと眠たげに声を絞りだす先輩に声を掛けたのなら、自分も空いている布団にもぐり込もうか。―さて、どうしたものか。どうか、合宿が終わるまでは何事もありませんように、静かに願った。)
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