カサンドラ マルコ





03

ねぇ、マルコ。私の酒が飲めないなんて、そんなこと言わないわよね?勿論。


(島に到着して三日目、各隊の予定表を確認して夜空けといてねと、彼に言った日でもある。夕刻までにナースたちの買い物に護衛係として付き合い、大量の荷物を持ちながら一度船へと舞い戻った。まったく容赦のない妹たちだとくつりと胸裏で笑みを零し、自室に戻るや否や簡単に汗を流して、身支度を整える。ちょっと奮発したバーに連れていくのだからたまには、と手に取ったのはホルターネックのマーメイドドレス。真紅のそれはさらりとした肌触りで高級感な光沢があり、背中が大きく開いたデザインであること以外特に飾りなどはついてなくシンプルなものだ。高いヒールのゴールドのミュールを履いてゴールド系のアクセサリーを纏い化粧を整え完成。ちらりと時計を見ればもう程なくして約束の時間である。)たまにするのはいいけど、こういうかっこはやっぱ時間かかるわね。(なんて独り言ち、姿見の前で最終確認をしゴールドのクラッチバックを手にいざ出発。船で待ち合わせてもよかったが、相手にも予定はあるだろうと、待ち合わせは街中で。夜の帳が降り、星が空を彩り始め月が空で笑い始めているのを眺めながら、待ち合わせである町の中央広場へと到着する。真面目な弟のことだから、定刻通りには到着していそうだが果たして。)なんだか待ち合わせなんて、変な感じね。こうして二人で出かけることも、そうないし…。ま、何はともあれ行きましょうか。(くすりと笑みを浮かべながらするりと腕を絡ませて。特に意図したわけではないが、こんなことするもの初めてだろう。自慢の弟とデート――と言っていいかは聊か疑問は残るが、女が少し浮かれているのは間違いない。最もどういう反応を見せるか見てみたいなんて悪戯心がない、なんてことは言いきれはしないけれど。次を右、その先二つ目を左、と道を指示しながら辿り着いたのは一軒の隠れ家的なバーである。島の住人から聞いたその場所はこの島随一酒の種類が豊富で、食事も悪くないとお墨付きの場所だそうで。店に入れば店主らしき人物から奥の席へと案内されるだろう。)マルコとなら静かに飲めるし、悪くないでしょう?今日は好きなの頼んで良いわよ。(少しほの暗いレンガ造りの店内は非常に落ち着いた雰囲気の店であった。店の雰囲気も相まっていつもより楽し気な笑みが女の口元を彩ろって。程なくして注文した酒が届けばグラスを掲げて乾杯、なんて言っては笑うのか。グラスを彩る赤いそれをじっくりと味わいながらゆっくりと時間は流れていく。そうして少し、いやかなり飲んだだろうか。徐に口を開いた。)ね、そういえば好奇心から聞くんだけどね、マルコってやっぱりスタイルいい子が好きなの?それともスレンダー美人タイプ?意外や意外にロリタイプ?(いきなり何を聞くのかと思えば、と言ったところか。こいつ酔っているのかと聞きたくなるほどである。確かに頬は初めの頃よりはほんのりと赤くも見えるけれど、まだまだ素面に見えなくも、ない。)なんとなーく他の子は想像つくんだけど、マルコはさっぱりだからねー。お姉ちゃん気になって。(で、どんな?と付け加えてはにっこりと浮かべられた笑み。自分で普段言わないであろう「お姉ちゃん」なんて単語が出たあたりもうお分かりか、そう女は酔っている。それもしっかりと。普段船であれば周囲の後始末などを考え程々しか飲まないのだけれど、今日に至っては二人きり。となればいつもより進んでしまったというわけか。)皆はさーまだ若いんだからしっかり恋して欲しいわけよ。わかる?うちの子たちはみーんないい子ばっかりだから幸せにならないと。お姉ちゃんは見届けたいわけ。(くすくすと笑いを零しながら手にしていた杯を呷った。自分はもういい歳だし、いい歳だからこそだなんて言葉までは酔っても言うつもりはなかったようで、ほんの少しだけ寂しさが瞳に滲む。空になった杯を眺めながら少しばかり沈んだ気持ちを回復させようともう一杯。となったかは弟君の采配によるのだけれど。そうして夜も更けたころ、彼に支えてもらいながらなんとか歩き、船へと戻り眠りにつく。そして翌日二日酔いに悩まされ、彼に対し「なんかめっちゃ迷惑かけたような気がする。ほんとごめん。」と謝罪する姿が見られたのは言うまでもない。)

あぁ、勿論…姉上の言うことは絶対だよい。…ま、酒なら喜んで飲むさ。

 

(姉上が偵察に出て一週間だったかそれよりも早くにだったか、何とか何事もなく島に辿り着きゆっくりとした船旅が楽しめたというものだ。書類も粗方片付けることができた為計算ミスを大いにしでかした弟に説教ついでに教えてやるぐらいには時間の余裕があったぐらいに。―無事に姉上が偵察を終え戻ってくる事ができたのなら皆が嬉しそうに「姉上ー!」「珍しい事して嵐が来なかったか?」と失礼な言葉も聞こえつつ胴上げでもし始めそうな勢いで囲んだ時はさすがに引き攣った苦笑いを披露してしまったのは許してほしいところだ。―島に到着してからは船番を交代で行いつつ各々が好きに予定を組んで楽しむ様子。ならばおれは、―)おい、飯食いながら寝るのはやめろよい!(島に到着して三日ほど経った。シンプルな白いシャツに黒いパンツを着ているパイナップルヘアの男の本日の予定は昼から夕刻までは炎を操る弟と島をプラプラとし昼食を食べてまたプラプラとして、夜は、姉上と約束していた一晩のお楽しみとやらだ。この島の特産を堪能しつつ食事中に顔面からご飯に突っ込んでいく弟に呆れながらも暫く美味しくご飯をいただき店を出たとき。ふいに弟から夜の予定を問われて、)ん?あー、ちょっとな。楽しみ事。(自分自身、まだ予定をあける事だけを言われ内容自体は聞いていないために分からないのだけれど、楽しみにしている事には違いないのだからそう曖昧に答えて楽しそうに笑みを浮かべよう。弟は不思議そうに首を傾げるのだけれど、太陽のようにニッと笑みを浮かべたのならこちらも楽しそうに「そっか、楽しんで来いよ!」と言うもんだから、楽しみが膨らんだのは秘密にしておこう。―それからしばらく雑談しつつ島を探索し約束の時間が近づいて彼と別れたのなら待ち合わせ場所である町の中央広場へと向かうのか。まだ、彼女はいないようだと息を一つ吐いて。賑やかだった町中が段々と静かになり始め、星を見上げ眺めてどれ程時間が経ったろう。ふいに下げた視線の先には見知ったはずの彼女、だよな?ぱちりぱちり、思わず数度瞬きを繰り返したのなら。)…びっくりしたよい。そんな大層なところに連れてってくれるのか?(彼女の格好に驚きを隠さずにそう問いかけ自分の格好を見たのならぽりぽりと頭を掻いてみせ、)そうだなァ、姉上からこんな提案される事自体珍しい事だ……最近の姉上は何かと大胆で…急に存分に甘やかされてる弟の身にもなってほしいもんだよい。(腕を絡ませる彼女にピクリと一度肩を揺らすのだけれど、ふ、と笑みを浮かべたのなら、珍しい事ばかりする彼女に楽しそうにするのだ。次はどんな珍しい初めてをしてくれるのだろうか、それを知れるのも見られるのも弟達である自分たちだけなのだと優越感を感じるのは悪い事だろうか?そんなことを考えながらも彼女のナビを頼りに歩幅を合わせつつ歩いていれば辿り着いたのは一軒のバーらしい。良さそうな雰囲気に店内へと入って案内された席から今度は店内の雰囲気をたっぷりと堪能することにしよう。)へぇ、落ち着いた感じでいいモンじゃねェか。確かに、他の連中だったらこの雰囲気はなかなか静かに味わえねェだろうよい。(くつくつと楽しげに喉を鳴らしたのなら、”好きなの“と言う言葉に「労ってあげる。」という約束の言葉を思い出し、「それじゃ、遠慮なく。」なんて嬉しそうに姉上の言葉に甘えるとしようか。注文した酒が届いたのならば、グラスを掲げて乾杯を。たくさんある酒を一つ一つ堪能したり食事も頼んだり、彼女と談笑したりとゆっくり、二人の時間を楽しんでいれば、だ。徐に開いた彼女の口から出た言葉に口にしていた酒を思わず吹き出しそうになるのをなんとか抑えて、無理やり喉へと通すのか。その結果、ゴホゲホと何度か咽てしまったが。)…〜〜、急に何聞いてんだ!やっぱりっておれはそういうイメージなのかよい。……(はあああ、と頭を抱えて吐いた深いため息を終えたのならじいっと見遣った彼女の頬はほんのり赤くなっている気がするが、さて、。そんな考えも彼女の次いで出た言葉によってすぐに解決することになった。)…ま、姉上に分かられてないならそのまま隠し通しとくかね。教えてやんねェよ、ねぇちゃん。(普段言わない単語に、楽しげに笑ったのなら人差し指を口元に持っていって「秘密。」と告げた。酔ってるとわかったのだから言ってもよかったのだけれど秘密にしておこうと決めて。こんなに酔っている姉を見るのもなかなかに珍しいため面白がっている事も秘密にしておこう。)おれもまだ若い中に入れといてくれんのか。…おれ等みたいな荒くれモンを良い子だって言うのは、アンタとオヤジくらいだよい。でも、そうだな…幸せになってほしいよなァ。姉上も含めて、(ぽんぽんっと彼女の肩を軽く叩いたのなら優しく瞳を細めて口角をゆるりとあげよう。幸せになってほしい奴がこんなにも増えるなんて、なんて、幸せな事なのだろう。それを思うと自分はもう幸せ者なのではないだろうか、そんなことさえ思う。―くつくつと笑ったのなら、もう一杯頼もうとする彼女の腕を掴み、「もうやめとけよ。」と声を掛けようか。―そうして夜も更け大分酔っぱらっているであろう彼女を支えて歩く帰り道。ちらりと酔っ払っている彼女を横目に見て、先ほどの事を考える。好みの話もしたがピンとこなかった、が、一つだけ確かな事。)カサンドラ、今日のアンタも綺麗だよい。(姉上にも幸せになってほしい、いつか恋をして出て行ってしまうこともあるかもしれない、それは望んでいることのようで、なんだか寂しくて。けれど、そんな事が起こるまでは、どうか彼女の傍で弟として近くで見守らせて欲しい。綺麗な彼女を独り占めすることくらい、許してほしい。ひっそりと告げたそれは彼女に届くことはないだろう。――船へと無事に戻れたその翌日。謝罪に来た彼女にきょとんと目を丸めた後、「珍しいモンがみれたよい。」楽しげに笑みを浮かべた。)