カサンドラ ポートガス・D・エース
05
こら、エース。摘み食いはダメって言ったでしょ?
(深夜、皆がすっかり寝静まった頃だろうが。何となく寝れなかった女は片手間に買った本を読みふけっていたのだが、合間に飲んでいた酒が切れ、追加で開けるのもあれだし、水でも飲んでいい加減寝るか、と部屋を出た。普段なれば賑やかな家族の声があちらこちらから響いてくるのだけど、今はすっかり夢の中。しん、と静まり返っていた。足を進める度に軋む床の音だけが響く。灯り変わりに掌に紅の炎を灯らせながら進んだ先、目的の空間は誰もいない――はずなの、だか。キッチンの奥、暗い空間からがさごそと音がする。もしコックの誰かなれば灯りをつけるはず。となればネズミかはたまた――)こら、食料泥棒。現行犯で逮捕する。(脳裏に浮かんだ一人の人物。冷蔵庫の前に見つけた姿に呆れ半分、想像通りで笑い半分。気配、そして灯りを消し背後に歩み寄っては、この船の誇りの刻まれたその背中に右手を拳銃に見立てて突き付ける。驚くか焦るか、どちらにせよ次の瞬間女の口から零れ落ちるのは楽しげな笑い声のみ。)お腹すいたからって黙って食べちゃダメでしょ?食料は全部管理されてるのだから。食料足りなくなったらオヤジ様だって困るのよ。(諭すように説教をして、それが終わればともあれ、なんて口にして開かれたままの冷蔵庫を一瞥。暫し長考の末いくつかの材料を取出しキッチンに並べていく。悪いことをしたとはいえ腹ペコの弟を放っておくなんてこと出来ないわけで。)ちょっと座ってなさい。サッチみたいに凝ったものは作れないけど。(手慣れた手つきで材料を捌く。船に乗る前は勿論、時折コックに許可を求めキッチンの片隅で料理することもある。至って人並みの腕前だけれど、今の弟のお腹を満たすくらいなら十分か。フライパンにてそれらを炒め始めれば少しずつ食欲そそる香りが漂ってくるはず。)はいどーぞ。オムライスだけど良かった?先に言っておくけどサッチ並みの美味しさは期待しないで頂戴。…それと食べながら寝ないでよな。(カウンターに座る弟の前にそれを並べついでに自分の分と一緒にお水を置く。元々このキッチンにきたのは寝る前に水を飲むためだったわけで。隣に腰掛けながら食べる様子を眺めつつ、顔面から味わおうとするのであれば皿を避難させるくらいの世話はするだろう。そうして弟が食べ終えれば使った食器を手早く洗い伏せ、)お腹すいちゃうのは仕方ないことだから別に怒るつもりもないけど、勝手はダメよ。また夜中にお腹すいて困ったら言いに来なさい。その時はまた、何か作ってあげる。(わかった?と問い掛けるように悪戯に笑っては軽く額を小突いてやる。「兄さんたちに叱られたくないでしょ?」と加えては席を立つのだ。お休みと寝る前の挨拶と一緒に弟の頭を撫でてやって部屋へと帰っていく。翌日リーゼントがトレードマークの弟に「サッチごめん。昨日お腹すいてちょっと食材使っちゃったから後で釣りしてその分補うわ。」と声をかけ、ただの魚でなく海王類を仕留め家族を騒がせるのだった。)
っげ、やべ見つかった!お願い姉貴、秘密にしといてくんね?
あー…腹減ったなー…。(きゅるるると鳴るは自分の腹の音、可哀そうになーなんて申し訳程度に腹を手で撫でるのだけれど何の効果もあるはずがないそれ。寝て紛らわせてしまおうかと横になって何度か寝返りを打ったりと工夫しているのだがそれも意味のない事で空腹の方が勝ってしまうようだ。ご飯は夕食の時に食べたのだけれどそれよりも今日は動いた量の方が多かったらしい、我が侭を言うともう少し量が欲しかった。ほら、おれ若いしなんて思考が変な方向に向かうのを感じては夕食の事を思い出して空腹は増すばかり、もう、ダメだ!!大きな腹の音に限界をむかえ―ガバッと起き上がりこそこそと辺りを見渡しながら向かう先はキッチン、冷蔵庫である。寝るにしても何にしても、この空腹をどうにかせねば何もできないという考えにしか至らなかったのだ。こそこそ、静かで真っ暗なキッチンにはもちろん誰も居るはずがない。よし!と力強く頷いたのならば冷蔵庫を開いて確認したのならば、切ってある肉や炒められた野菜と豊富に置かれているのだから素早く摘まめるものを口へと運んでいく。)う、うめェ!(小さな声で正直な感想を誰に聞かせるでもなくぽつり。空腹には堪らない旨味が広がっていくのを感じてどんどんと摘まんでいって暫く。―聞こえた声に突き付けられた拳銃、という名の指にびくりと肩を振るわせようか。驚きでゲホゲホ!としばらく咽る事となるのだけれど、)う、あ、姉貴!気配消すのやめろって…て、いや、あのこれは…あー、ごめんなさい。どうしても腹が減ってよォ…我慢して寝ようとしたけど空腹がひどすぎて寝れなくってな。(オヤジも困ると聞けば眉を下げ素直に謝罪の言葉を口にして頭を下げよう。申し訳なさそうに視線を逸らしつつガシガシと頭を掻いたのなら、姉にも見つかってしまった為にもう戻ろうかとしたのだけれど材料を取り出す彼女に目を数度瞬かせ、)…え!姉貴が作ってくれんのか?食う食う!何でも食う!(目を輝かせたのなら素直に従う様にカウンターの椅子に腰かけよう。食欲がそそる香りが漂ったのならば時折姉の様子を見にキッチンに入って手際を見ては「すげェ美味そう腹減った」と野次ったりして。カウンターへと戻りその香りを堪能していたのなら目の前に置かれたオムライスに再び目を輝かせよう。)―おおお、姉貴も料理作れんだな。比べたりしねェよ、んじゃいただきまーす。(手を合わせて挨拶をしたのなら一口。「やっぱり美味い!」そう口にしてはもぐもぐと食べていこう。時折急激な睡魔により顔面で旨味を味わう、なんてことは彼女の采配のおかげで無いのだけれどその代わり固いカウンターと顔面がお見合いすることとなりながらも食事を平らげることができた。食器の片づけまで手際よくしてくれた姉にお礼を告げて、)…ん、次からは気を付ける。……!おう!次からは姉貴に絶対言う、そしたら姉貴の手作り料理が食えんだろ?また食いたいし。(小突かれた額を抑えながらも表情はニシシと嬉しそうに笑みを浮かべながら、「叱られんのも嫌だから頼むのもほどほどにするけど。」と後はお腹のすき具合に身を任せるとして、おやすみと就寝の挨拶と温かな手にまた幸せを感じてくすぐったそうに笑った。――翌日、叱られるかと思っていたけれど姉が上手く言ってくれたらしく何のお咎めなしで安堵して暫く、海王類を仕留めた彼女の力にまた驚かされることになるなんて思いもしない、そんな賑やかな日常をいつまでも。)
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