和嶋薫子 芥川龍之介
特務司書 転生された文豪
02
芥川センセイの吸われる煙草の香り、ほの甘くて良い香りですね。
(タバコの煙の奥、微かに香る洋酒のあの甘い香りを求めて図書館内をフラフラとしていたのは数十分前の事。そういえば、と思い出して向かった先は喫煙者がよく溜まり場にしている一角。館内禁煙は致し方ないとして、かつて彼らが生きた時代より喫煙者の肩身の狭いこのご時世は大変だ、なんて何処か他人事のように考える最中、目的の彼を見つければちらり、目配せの後に小さく微笑んでは『芥川センセイ、ちょっとよろしい?』だなんて手招き。アッ、なんて声を漏らした後『一段落したらで構いませんから』と付け添えては少し離れた位置で待つこと暫し。……遠くに香り、くゆる紫煙をぼんやり見やっている内に聞こえてきた足音に、嗚呼、彼だ、なんて思いながら振り向いては、少し眉を下げる。)芥川センセイ、ごめんなさいね急に……ほら、この前お願いしたね、助手のお話……明日のお仕事からおまかせしたくって。お時間のある時に、今日までお願いしてる菊池センセイから、色々聞いておいていただけると助かります。(助手の交代はおおよそ定期的に行っている。引き継ぎに関してはおおよそセンセイ方に任せている故に、各々に任せるとして。ひとまず頼み事に関してはこんな所、なのだけれど。それじゃあ、また後でと互いに別れるのが自然、とわかっているがその場を後にする事もなく、少女はしばし悩んでから。)…………ね、芥川センセイ。喫煙所、お戻りになるならばついて行っても良いですか? ……ほんのちょっとだけ、興味があるんです、煙草。あと……もうちょっと、芥川センセイとお喋り、したいの。(ゆるく、ほんのゆるく微笑んではそう問いかけて小首を傾げる。許諾を貰えれば嬉々として、ダメと言われたところで、少ししょんぼりしながらも食い下がり、結局はそっとそのあとについて行くこととなるのだけれど。)……早く大人になりたいです。(そんな言葉はきっと、様々な銘柄の香り入りまじるその場所でポツリ紡がれる。)お煙草も、お酒も、20にならなきゃダメなんて、ね……ふふ、厳しい時代ですよね、センセイ。沢山経験を積んで、沢山知って。少しでも糧にしたいのに、ね。(煙を、香りをゆっくりと吸い込もう……と、してケホリ、と咳き込んでしまうあたり、まだまだ慣れぬ身を晒しつつ『こっそり分けていただいたら、館長さまに怒られてしまうかしら』なんて言葉は子供じみた、悪戯っぽい笑みと共に紡がれた。)……あとは、ふふふ、センセイ方と同じ香りを纏って、館内を闊歩するのに憧れてるんです、私。大人になったみたいですし、なにより……お揃いって、少しときめいてしまいますもの。憧れのセンセイ方と、おそろい。お揃いに憧れるの、なんだか子供みたいというか……乙女思考みたいで、恥ずかしいんですけれども、ね。(照れ隠しの笑いを零しては、再びゆっくり呼吸をひとつ。今度は、咳き込まずに済んだ。しばしこの場にて香りと談笑を楽しめば、すっかりほんの少しだけ甘い、煙草の香りを少女は纏って、チラリ、と腕の時計を見やっては)あ……ごめんなさい、そろそろ館長さまにご報告に行かなくっちゃ。……芥川センセイ、今日もお喋り、付き合ってくださって有難う御座いました。……ね、センセイ。今度センセイのお好きなお汁粉、食堂の方に作って、ってお願いしますから……良かったら、また是非。(そう告げて、深々と一礼。コツコツ、コツと踵を鳴らしては館内へと歩を進める。仕事が山積み……と、いう訳でもないけれどまだあと少し、書類も残っていたはずだ。嗚呼、でも少しくらい時間もあるし、食堂でおやつでも――そんなふうに考えながら、少女は今日も静かな動乱の中の、けれども穏やかな一日を、享受する。)
自分ではあまり気にしないのだけれど…何だか嬉しいものだね。
(こちら喫煙者が溜まり場にしている一角。煙草を吸える場所が限りなく減っている現状、一服するためには館内も禁煙であるためにこうして煙草が吸える場所へと足を運ぶほか無いのだ。先ほどまで数人いた文豪達も去っていき、今この場に一人でいるのを良いことに、ふう、紫煙を吹いてゆっくりと嗜んでいたのなら、ふいに小さな彼女が視界に入りきょとりと目を丸くする。自分を呼ぶ声に、こちらも小さく微笑みを見せ「探させてしまったかな?今行くよ、」そう煙草の火を消そうとした時、付け添えられた言葉。瞬きを数度行えば嬉しそうに笑みを浮かべ頷いてみせた。彼女の細かな気遣いに有難く甘えさせてもらう形をとり暫く紫煙をくゆらせたのなら火を消した。待たせてしまった彼女の元へと早足で向かったのならば、ふわりと手を挙げ、)こんにちは、司書さん。いや、こちらこそ待たせてしまったね…。…うん?あぁ、助手の件だね。そういえば、寛が助手をやっていたっけか…うん、わかったよ。寛から話を聞いておくから安心しておいて、明日から自分なりに助手を務めるよ。(助手の件と知り、先日の会話を思い返したのならばなるほどと数度頷いて。親友の名に、そういえば以前「助手をやることになった」と自慢げに楽しげに語った姿を思い出す。彼に話を聞くことになるのなら気も楽だと思いながら、ぽん、と彼女の髪が崩れないように軽く手を置いたのなら、ふっと笑みを浮かべた。話は終わったのだろうか、と「それじゃあ、」声を掛けて、最後にもう一服でもしてから戻ろうかなんて思っていたのなら、)ん?……うーん、幼い君を喫煙所へ連れて行くのはどうにも忍びないのだけれど。……興味があるとしても…困ってしまうね。(うーん、と眉を下げ考える事暫く。館長から口酸っぱく言われた事もあるために悩んでしまう。けれど最後に可愛らしいおねだりを聞いたのなら困り悩みつつ。―そうして悩んだ末、人差し指を立て自身の口許へと寄せたのなら、)館長に叱られてしまうから少しだけだよ?(そうしたのなら、彼女と共に喫煙所へと戻ることになるのだろう。嬉しそうにする彼女にくつくつと喉を鳴らして。あまり彼女の前で吸うことのない煙草。出来るだけ煙が向かないようにと配慮はするつもりではあるけれど、)……何、時と言うものはあっという間だよ。気づけばとうに20を超え大人になってしまうのだから。……経験を積むことももちろん、大切な事だけれど…それを守ることも、きっと何よりも大切な事に繋がる…のかもしれないね。(なんてね分からないけれど、とそれっぽい事をそれらしく言ったのなら、ふっと息を吹く。咳き込んでしまった彼女を見たのならくすりと微笑まし気に笑みを浮かべて。「そうだね、きっと強く怒るさ。」あの子は未成年だからと強く言われたことを思い出したのなら、次いで出た彼女の憧れにはくすくすと楽しげに、)…ふふ、おやおや、これは…可愛らしい考えをお持ちだね。そう、…うん、君とのお揃いはきっと嬉しい事に違いないから、…ゆっくりと大人になっておいで。僕は、君が望むのならば―待っているよ。(何年もあとの話、だけれどその憧れに自身も想像に至った。その時に自分が隣に居られるかどうかはわからないけれど、思うのはきっと自由なはずだから。彼女との談笑を楽しみながら紫煙をくゆらせていれば一本二本はあっという間に終わりを告げる。)謝ることはない。この時間だけでも君を独り占めしてしまったね、こちらこそ…楽しい時間を有難う。……、そうだね、是非喜んで。(こちらも頭を下げて一礼。館内へと戻る彼女に手を振ろう。お汁粉に彼女との時間、また先の楽しみが出来てしまったね。嬉しそうに表情を緩めては三本目の煙草に火をつけた――。そして暫く館内に居た親友に声を掛け助手の引継ぎを行っている芥川の姿が見られるはず。)
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