麦 皆本金吾
素直になれないお姉ちゃん 泣き虫弟
04
さてさて、金吾坊ちゃま。一緒に参りましょうか。…ふふ、驚いたでしょう?
(時が過ぎるのは早いもので、彼が屋敷に帰ってからは特に目まぐるしく日々は過ぎた。日常的に母の手伝いをするだけでも最近はできることも増えて充実していたものだが、彼という大切な弟分の存在がそこに紛れ込めばなおのこと。隙があればちょっかいを出してからかい、時に褒めて甘やかしたりもして。それでも当たり前に明日があったころとは違って、どうやったって彼と過ごす時間にはリミットがある。何だってこう、幸せな時間というのは早くに過ぎ去るものなのだろうか。ずっとここにいてくださればいいのに、なんて言葉は、不意に頭をかすめても、結局口に出すことはなかった。それが皆本のお屋敷の御当主様の決定でもあるし、確かに彼は相模の地で安穏と暮らすよりもはるかに成長している。それがわからないむすめでもないのが、あるいは麦にとっての不運だったのかもしれない。しかし、)…ありがとうございます、武衛様!(その前夜は、それまでの鬱屈と(たまの彼に対するやつあたりと)した内心を抱える日常に反して、明るい声であった。時に泣き落とし、時に詰め寄って、結局御当主様を根負けさせた娘を、女のしたたかさと取るか小娘の身の程知らずととるかは周囲次第のこと。ひとまず明るくなった展望に浮かれる気持ちは上手に隠して、彼が旅立つ日を迎えた。迎えに来たという彼の話によく出る級友に朗らかに挨拶をして、門扉の向こうへと並ぶ。いつもならば彼を見送る側に立つ娘が、彼の隣に立って悪戯めいて笑っている。どうして、と、問うのは彼だろうか、はたまた彼の級友だろうか。)ええ、私も忍術学園にご一緒しようと思いまして。くのいち教室、なるものがあるのでしょう?楽しみですね、金吾坊ちゃま。あちらでも存分に、麦と遊んでくださいな?(にっこり、と。無邪気を絵にかいて笑った。はんぶん演技で、はんぶんは彼と過ごす場所への期待そのものだった。)
…お、驚くに決まってるよ!!麦姉は…ぼくを驚かせる天才だ。
(相模へ帰ってきてからは剣術の稽古に家人たちと話をしたり姉のような存在と散歩へ出かけたり揶揄われたり夢のような出来事が起こったりと忙しなく過ぎ去っていく。今回は一週間の滞在を予定しておりその期限もどんどんと近づいている。こうして相模のお屋敷で家族と過ごすことも楽しく充実しているものに違いないが、今では忍術学園という大切なかけがえのない場所もある。どちらが好きか、なんて問われてしまえば困ってしまうけれどどちらも大好きな場所であることには違いなくて。だからこそもう少しで忍術学園に戻って皆とまた会ってたくさんの事をするんだ!という楽しみも皆本の中に大きくあるのだ。もちろん、もう少しで家族とまた暫く別れることになるのだからその寂しさも感じているのだけれど。この一週間の思い出を持ち帰ってまたもっと強くなるために頑張ろう、と。また彼女に褒めてもらえるように、強くなったねと言ってもらえるように忍術学園へ戻るんだ。そんな思いで。)麦姉、明日喜三太が迎えに来たらぼく行くからね。(いつも揶揄ってきては困らせてくる彼女。けれど、いつも自分を思ってくれた彼女。弱い自分を良く知る彼女のどれ程の言葉も全部自分を強くしてくれるもので、そんな強さをくれた大事な存在に、明日にここを発つを事を一番最初に伝えた。後に母上たちにもご報告をするのだけれど、何故だろう。いつも彼女にはいの一番にそう伝えるのだ。それはもう、いつもの事だから癖になっているだけかもしれないけれど、自分なりの「頑張ってきます」を一番に伝えたい相手であるからか。母上や父上、家人たちにも帰る事を昨日報告し「寂しいけど頑張ってきてね」と「一週間は早いな」とお言葉をいただきながら体を休めた。)…、あ!喜三太ー!(―そして翌日。迎えに来た級友に手を大きく降り「一週間ぶりー」なんてのんびり笑みを浮かべる。)それじゃあ、行ってくる!(元気よくそう言い、さあ!級友と共に歩き出そう!と、思って不意に隣に立っている彼女を見遣る。あれ?いつも彼女は見送りに来てくれるため彼女が居る事になんの疑問も抱かなかったが問題はその立ち位置だ。―ぼくの、隣?―)…へ、え、麦姉…なん、どうして?(戸惑いを見せるのは自分だけでなく級友もらしく首を傾げて不思議に思っている様子。見慣れた悪戯めいたその笑みに、思わず引き攣った顔に果たして彼女は何を感じた事だろう。)〜〜〜〜、!!え、えええええ?!くのいち…え、ちょ、ちょっと!ぼく聞いてない!え、麦姉が?くのいち!!?(思わず出た大声に、級友が耳を塞いだのをお構いなしに驚きをそのまま声を大にして表すのか。混乱、驚き、様々な思いが入り混じるけれど、無邪気な彼女は相変わらず。はあ、ため息を一つ吐きなんとか状況を把握することが出来たのなら、内緒にされていた事への不満と、ほんの少しの嬉しさと楽しみを胸に、複雑な笑みを浮かべつつ、諦め半分に。)本当に…麦姉には驚かされっぱなしだよ。(これからの日々がどうなるのか、想像もできないけれど。忍術学園までの道のりに彼女が隣にいる不思議な感覚に期待と楽しみを抱いて、「もっともっと頑張る、だね。」そう楽しげに笑った。)
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