飛永雛 谷地仁花
ちびっこマネージャー 村人マネージャー
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ひーちゃんの可愛らしさに、私はすっごく癒されてます。
(――如何してこうなった。数分前から脳裏に此の言葉が駆け巡っている飛永の手には綺麗な便箋が居座っており、其の便箋には女の子らしい丁寧な文字で副主将の名が記されていた。差出人は昨日の夕方に声を掛けて来た2年の女子生徒で、此の手紙は監督から預かった書類を職員室に居る顧問の先生に提出し、体育館への帰り道、昇降口で偶然鉢合わせた其の人から半ば押し付ける形で手渡されたものだ。此の手紙を赤葦くんに渡して欲しい。彼女は爆弾に近い発言を残し、校舎の中へと消えてしまった。本来であれば自分で渡して下さい!と、突き返すところだが、差出人の姿は既に見えないし、探し出して突き返す余裕も、今の飛永には無い。褒められない感情が湧き上がって来るけれど、其れを何とか押し込めれば持ち歩いていたファイルケースの中に、数枚のプリントの間に隠すように其の手紙を仕舞い込んでは、合宿二日目であっても初日と変わらぬ熱気が籠っている体育館へと足を向けた。如何してこうなったのかは、彼女に出会った時も、手紙を託された時も、体育館に向かっている今も、分かりやしない。何となく分かるのは、彼女の様子からしてファイルの中に仕舞い込まれた手紙、其の手紙には何かしらの意味が、深い想いが籠められているのであろう。ということぐらいだ。何とも言えないもやもやとした感情が沸々と湧き上がって来るけれど、今は大事な合宿の真っ只中。軽く頭を振って、ケースを持っていない手で頬をペシペシと叩いては気合いと根性を総動員して気持ちを切り替えよう。体育館前の水場で烏野の可愛らしいチビッ子マネちゃんを発見すればちょこちょこと其方に駆け寄って、)…ひーちゃん、何してるの?あ、ドリンク作り?昨日も今日も多めに作ってたんだけど、もう足らなくなっちゃったのかな…人も多いし、此の蒸し暑さだと納得だけど。(彼女の手によって洗われているジャグやボトルを見遣ればしみじみと言葉を落としていくことに。大量のドリンク作りを彼女一人にお願いするのも申し訳無いので「ひーちゃん、私も手伝う。」そう声を掛けては、ファイルケースを濡れない場所に置き、彼女と共に洗い物とドリンク作りに専念するとしよう。どんな仕事も二人で行えば順調に進むもので、大量のボトルと幾つかのジャグを体育館と水場を何往復かすることで全て運び切れば、最後にドリンクが詰まったボトル数本とケースを手に、彼女と並んで体育館へと向かうとしよう。道中交わされるのは今日も暑いねー。二日間ってあっという間だね。今日、宮城に帰るんだよね?寂しくなるなぁ。なんてことばかり。館内に入れば彼女を見遣って、)…ひーちゃん。色々と大変だけど、今日も頑張ろうね……あ、えっとね。こんなこと言うと、ひーちゃんを困らせるかも知れないんだけど…私、ちょっと…さっきまで、もやもやモダモダしてて……でもね、ひーちゃんと一緒にお仕事して、笑ってお話をしてたら…そういうの、綺麗には消えてないんだけど、すっごく薄くなったんだ。ありがとね、ひーちゃん。(彼女にとっては思わぬ告白だったかも知れないが、彼女と話すことで飛永の気持ちが随分と軽くなったのは間違いのないことで。表情を緩々と緩めては「ひーちゃんは癒し系だね。今回の合宿で、色んな人と出会えて良かった!って思うんだけど…中でも、私はひーちゃんに会えて本当に良かったと思ってる。だ……あ、此れは、ひーちゃんたちが帰る時に言うね。」浮かんで来た言葉を其のまま彼女に伝えようとしたのだが、何だか未だ早いように感じたから、今は其の言葉を喉の奥に奥に仕舞い込もう。また休憩の時にね。と、笑顔で手を振っては、梟谷の監督の元へ向かうとしよう。報告するのは彼から与えられた仕事を無事に終えたことだけで、梟谷のメンバーが視界に入れば軽く会釈した後、飛永の持ち場である音駒の元に向かうことになろうか。梟谷の副主将を真っ直ぐに見ることが出来なかったのは、小脇に抱えているファイルケースに仕舞い込まれた手紙が関係していることは、言うまでもない。)
ひえ、それを言うなら私の方こそ雛ちゃんの可愛らしさに癒されて…ぎゅって、ぎゅってしたい!
(慣れない合同合宿、大きな部員たちが増え初日は混乱や恐怖や緊張が相まってやけに疲れを感じてしまったものであるけれど二日目となれば、恐怖やらは取り除かれまだ慣れないながらも周りを見て行動できているのではと一人思う。梟谷の小さなマネージャーが緊張をほぐしてくれた効果もあるのだろうと有難みを感じていると同時に1年生ながら様々な仕事をこなししっかりと選手のサポートをしている彼女に自分ももっと頑張らねばとフンッ!と胸を張り両手で小さくガッツポーズを作り意気込んでみせた。といっても途中から入部した素人の身で空回りして迷惑をかけることもしたくない為不安なところは先輩に聞いたりしながらとなるのだけれど変な所ビビりなのはもうどうしようもなく変わりようがない。―ふ、と熱気の籠った体育館で行われているハードな練習に皆多めに水分を摂っている様子に気付く。暑いし、熱中症も怖いし当然かと思いながらジャグを確認したのなら残りが僅かなものもあり先輩マネージャーに慌てて声を掛け自らドリンク作りを志願しジャグや籠に入ったボトルを持ちながら体育館前の水場へとやってきたのである。さて、尋常に勝負…!頑張るぞ!と気合を入れてジャグやボトルを洗っていこう。まだ残っているジャグもあるが早めに持って行かねばと急ぎながら洗っていたのなら、ふと掛けられた声にパッと顔を上げ彼女の顔を見たのなら力が抜けるようにふにゃりと笑みを浮かべて、)雛ちゃん!へへ、うんドリンクがもうなくなっちゃってて…まだ残ってるジャグもあるけどそっちも時間の問題かな。サポートしてるだけでも暑いのに激しく動いてる選手はもっと暑いよね、結構皆飲む量が増えてて……(話しながらもシャカシャカとボトルを洗う手は止めずに行っていれば彼女からの提案に「え?!」なんて驚きと申し訳なさでぴたりと手を止め視線をうろうろとさせる。けれど、この量を一人でとなれば時間もかかってしまうだろうし…何より彼女の厚意が嬉しかったからこそ眉を下げ申し訳なさそうにしつつ「ありがとう、よろしくお願いします!」と笑顔で伝えよう。2人で作業していればあっという間で洗い物もドリンク作りも、体育館へ運びきる事も効率よく終えることが出来安堵の表情を浮かべた。これで最後、体育館へ向かえば部員たちのサポートへ戻る事となるのだと籠を持ち彼女と並び目的地へと足を運んで。道中暑さに噴き出る汗を拭いながら、本当に暑いよー。なんかすごい濃ゆい二日間だったな、…雛ちゃんに会えなくなるの私も寂しい。会えなくても連絡とかしたいな、なんて。我が侭かと眉を下げつつ館内へと入り、)雛ちゃん手伝ってくれてありがとう、おかげで早く終わったよー一人だったらどうなってた事か……うん!今日も頑張る、雛ちゃんのおかげで頑張れます!……ん?(グッと何度目かもわからない小さなガッツポーズを見せたのならへらりと笑みを浮かべるのだけれど、様子の違う彼女に首を傾げどうしたのだろうかと目を丸め、へ?なんて時折間抜けな声が出てしまったがそれでも真っ直ぐに彼女を見遣り、持っていた籠を床に置き自分の両手を彼女の両頬に挟むように触れたのなら、)困らないよ、もやもやとか、心配だけど…でも、こんな村人Bでも少しでも雛ちゃんを助けられたなら…それはやっぱり嬉しいなって、…おもいます!私も雛ちゃんにいっぱい助けられたから。(思い出すのはあの初日の緊張感の中での彼女との会話だった。きっと状況は違うのだろうけれどそれでも助けられたことには違いない―。釣られるように表情を緩めていけば「それじゃあ雛ちゃんも一緒だ、癒し系!私も、そうだよ。雛ちゃんに会えた事が何より嬉しい。……い、言わないでいい!泣いちゃいそう帰りたくなくなりそう……」きゅうううと恥ずかしそうに目を閉じ頬に触れていた手を離したのならへらりと笑みを浮かべて、うん、またね!と元気よく伝えよう。合宿は大変だけれど、やっぱり寂しいなあ…この二日間で谷地の中で大きな存在となって放さない彼女の人柄にまた改めて感動しながら籠に入ったボトルを所定の位置に置き選手やマネージャーたちのサポートへと駆けまわろう。)
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