ギルビット・マルティン カロル・カペル
01
これから同じ首領としてよろしく頼むよ、カロル。
いやはや、悪いな。これから休もうって時に呼び出して。(ゆったりと年相応の落ち着きある風情でそう言ったなら、目の前にいる彼らを見渡しつつ男は眉尻を緩やかに下げた。中堅ギルドの首領と未来ある若者たちが顔を突き合わせているのには理由がある。それは酒宴の後、その主催たる男は若く微笑ましい首領とその仲間たちを呼びとめた折、「“凛々の明星”の首領とそのお仲間に、折り入って頼みがある」と言い、各々がしたいことを済ませた後で良いから己がギルドの本部にある応接間に来てほしいと呼びつけたのである。その申し出に対し、すぐでも構わないと言われ自ら案内することになるのか、はたまた各自の用事を済ませてから訪ねてくるのか――それは彼ら次第と言ったところだが、兎も角“護り人の集い”内部の応接室に役者が揃ったところで話を進めよう。程々に質の良い応接セットといくつかの資料棚、そして執務机がある飾り気のないその部屋は片付いている。迎えた彼らへ席を勧め、己もテーブルを挟んだ向かい側に腰掛けたのなら、まずは首領である少年へ「手短に済ませよう」と前置きを置いてから口を開いた。)頼みってのは、単刀直入に言うとうちのギルドの依頼を斡旋するからいくつか受けてほしい、ってなことだ。で、受けてくれた仕事の報酬がまるっとそちらさんのもんにしてくれ。仲介料もいらんから、依頼人から直に受け取ったらそのまま財布に収めてくれて構わん。期間は大凡三か月…と見ているが、場合によっては伸びるかもしれん。(と、至極簡潔にビジネスの話をしたところで言葉を切り、質問等々あれば快く答えようと言う心算。そのついでにふと双眸に穏やかな色を乗せては「あのカロルが何処に所属するでもなくギルドを背負う首領になるってなら応援したい」だの。「凛々の明星はたびたび良い噂を聞くから繋がりを作っておきたい」だの。「君らにとって横の繋がりが出来ることはメリットになるんじゃないか?」などとメリットを示唆してみたり。このような依頼をした事情を聞かれれば、今回のことで死者負傷者が多く出たため、すぐに動ける人材が欲しいと素直に言うだろう。――要は彼らを好意的に見ているという意思全開、この頼みを受けるか受けないかも自由である上、断られたからと言って悪いようにはしないと男は話すのだ。そしてもう一つ、「あぁ、あとな」と思い出したように口を開き、)ウチのリズベット、君たちの戦力の足しに連れてってくれると尚有り難いんだが、どうだねカロル。(と、割と大事なことを事も無げにさらりと言った。次いで、)アレはずっと身内や顔見知りばかりの世界で生きているし、昔からウチの手伝いや仕事ばかりやらせていたからなぁ。そろそろ違った景色を見せてやりたいとも思っていてね。…余所のギルドへやることも考えていたが…どうせやるなら、時の隔たりはあれど昔馴染みがいる場所の方が安心だ。(としみじみ理由とこの話は既に本人にも話しており了承も得ていると言葉を付け加えると一度言葉を切り、)――返事は急がない。後者に至っては俺個人の単なる親心だしな。受けるも断るも自由ってこった。ま、なるべく早いに越したことはないがね。(と、穏やかに笑いながらソファへ背を預けて眼前の若き首領のかんばせを見守るが。さて、その反応は如何に。)
…あ、は、はい!!…、よろしくお願いします!ギルビットさん!
い、いえ、いえ!気にしないでください!(ドクドク、跳ねる音が周りにも聞こえていないだろうかと色々な意味で緊張が重なる。やけに声高らかに揺れる声音が口から飛び出して自分が思っている以上に緊張しているのだと自覚してからは頭も心もてんやわんやである。なんとか落ち着くようにと息を数度吸ってはいてを繰り返し、後ろから茶々を入れるメンバーに「うるさいよ!」と小声で怒ってみせたのなら多少緊張も…いや、なくならない。―食事会の後、首領から呼び止められ話があるとのことで、食事の後は皆特にやる事もなかったらしく宿屋へ戻るだけとの事だったため、「今でも大丈夫です」と告げたのならば彼本人から案内してくれた応接室はなんだか懐かしい。まさか、以前ギルドを転々としていた時所属していた―魔物との遭遇に怖じ気づき逃げてしまいやめてしまったギルド“護り人の集い”の首領とこうして顔を突き合わせているなんて、想像できただろうか。どこか温かく真っ直ぐだったこのギルドとよく面倒を見てくれた首領に仲間たち。やめたことを後悔しているのか、と問われれば、 こうして自分のギルドを設立することが出来たのだから、していない、と言えるのだけれど。―彼の一語一語に、ごくりと生唾を飲みつつも、まっすぐに見据えて頷いた。)“護り人の集い”にきた依頼をボクたちにって事ですか?仲介料もいらない、って…“護り人の集い”になんのメリットもないんじゃ…それに、なんでボクたちなんですか?えっと、…自分で言うのもあれだけど…ボク、子供だし、それに…それに…、(ぎゅっと握った掌、ボクは逃げてしまったのに。そんな言葉を飲み込んで少し顔を俯かせる、そんな時彼の言葉が聞こえてパッと顔を上げた。暖かな言葉に穏やかなその双眸は優しくて変わらない。じわり、歪んでいく視界に、ふと後ろから「依頼をした理由は」と聞こえた声にハッとして一度顔を下に向けて服の裾でごしごしと目をこすったのなら、その理由を聞いて納得したと同時に罪悪感を感じてしまう。)…ボクも行ってたら、…(ぽつり、呟いた小さな声は彼の思い出したように出た言葉と、後ろから響いたガタタ!と大きな音と共に聞こえなくなった。音の正体は髪の長い青年だったか、騎士団の青年だったか、)…へ、り、リズベットさんを?…え、ええええええ!!?…あ、そ、そういえば…リズベットさんとユーリたちって幼馴染だったっけ…って、それ結構重要な話をそんなさらっと…!ね、ねぇ皆…、(楽しそうに笑うおじさんにクリティア美女、頭を抱える青年たち、キラキラと目を輝かせているお姫様に海賊、どっちでもというスタンスの魔導士に犬。ああ、自分で決めろということか…そんな考えが過りながら、グッと再び掌を握った。強く強く握って、彼を見遣る。緊張している、けれど、以前所属していたギルドの首領が、自分を諦めずに、応援したいと言ってくれた。今度こそ、逃げたくないと強く思ったから。)まず、一つ謝らせてください。あの時…二人がレイヴンに声を掛けたとき…ボクは動けませんでした。もし、動けてたら…もう少し被害が、減ってたかもしれませ、ん。本当に、すみません…でした!もし、とか分からない話、なんだけど。ボクは、2回“護り人の集い”から逃げました。こんなボクを!ギルビットさんは、信じられますか?(今にも震えそうな声、油断すれば零れてしまいそうな涙。ぎゅっと握った手はそのままに、返答がどうであれ、言葉を聞く前にとゆっくりと言葉を紡いで、)――それでも、応援したいって、言ってくれるなら…ううん、ボクを信じられなくても…この“凛々の明星”を信じてくれるなら…ボクはギルビットさんの頼みに全部応えたい!(ギルドの依頼の事も、彼女のことも、強く強く伝えたのならばがバッと頭を下げた。)やらせて、ください!!(彼への恩返しになるか、なんてわからない、けれど。穏やかな双眸に、強さに応えたかった。ただその一心で、声を上げる。――後ろにいるメンバーは拒絶や否定する者なんて、いないのだから。だって、ボクが“凛々の明星”の首領なのだから。後は、目の前の彼次第―。)
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