たまみ 平腹
02
平腹さん、私の名前ちゃんと覚えていらっしゃいます?
(只今、廊下の掃除中。館の廊下は長く箒で掃くのも一苦労だ。ふぅ、と息を吐き出せば壁に体を預けて暫しの休憩を。)サボっているわけではないのよ。息抜きをしているの。(瞼を閉じていたのだけれども、人の気配を感じて、顔を上げながら言葉を発した。ただ通りかかっただけかもしれないが、仕事をサボっているなんて噂を流されても困ると、仕事の手を止めていた理由を先に述べてしまおう。)……あら、平腹さん。ごきげんよう。(感じた気配の正体は、獄卒の彼。いつもにこにこと笑みを浮かべていて、言葉を交わしていると、どこかつかめない人物だと感じるのだ。人伝に聞いた噂によると、怒ると相当怖いらしい。実際に目撃したことはないが、願わくば今後も出くわしたくはないものだ。)貴方、館内で暴れたりしてないでしょうね?今度汚したら肋角さんに言いつけるわよ、後片付け大変なんだから。(ジト目で顔を眺めながら釘を刺す。というのも彼には前科がある。彼の怒りを買うような言動をした相手にも言いたい事はあるが、それはそれとして、だ。)ついでだからもう一つ。……たまって呼び方、まるで猫みたいじゃない。(人間が猫に名付けるイメージの強い呼び名。僅かに眉間に皺が寄り、明らかに不貞腐れた声で抗議を。プライドの高い化け猫にはどうにも気になる点らしい。――本日の気分、怠惰。箒を握る手を動かす素振りは微塵もなく、彼が付き合ってくれる限り、お喋りを続けるつもりのようだ。)
ん?分かってるからオレちゃんと呼んでるだろ?
(本日は非番である。任務に向かう獄卒たちをぶーぶーと口を尖らせながら見送って暫く――この男暇である。万が一の応援に備えて愛用の武器を手入れし館玄関前にて待っているのだけれどどうやら応援に戻ってくる獄卒は居ないらしい。今回の任務対象は小物揃いと言うわけか―退屈そうについたため息は重い空気と混ざり合った。武器を引きずらないように肩で支えながら持ち館内へと戻ったのならまだまだ尖り続ける口許は廊下を歩いている間も戻る事はないけれど、長い廊下を歩き続けていたその時。壁に体を預けている一人の人物―否平腹にとっては一匹の猫がそこに居て、「お!」と小さく声を上げたのならいつの間にやら口は弧を描いていて。そろりそろり…まるで気付かれないようにと足音を消す様に近寄ろう、としたのだけれど。)…ふぉ!?なんだよ、たま気付いてたのかよー!また罰ゲームみたいに立ってっから楽しませてやろうとしたのに!(ちぇー失敗失敗!と楽しげに瞳を細めてみせて。愛用の武器の先を床にカツンとつけて立てては自分も同じように壁に体を預けよう。そして彼女を見遣ったのなら、)おう、たま!ちゃんと仕事しねぇと息抜きにも見えないぞーとりあえずこうやって動いとけばいいんじゃね?(武器の先を床に付けたままそれは動かさずに自分の体だけを左右に揺らしてみせてはなんとも参考にならないお手本を披露して。端から見たら変な状況であるそれもその最中も口は弧を描いたままだ。なのだが、次いで出た彼女の注意には、グッと眉間に皺寄せうげーなんて顔を歪ませて、)…館内では暴れてねぇし肋角さんは勘弁な…だって、あの時はアイツがさー(あの時館内で暴れてぐしゃぐしゃにしたのを思い出しては苦虫を噛むような表情を浮かべるのか。それも少ししたのなら、「ボッコボコにしてやったけど!」とにこやかにすっきりしたように笑い飛ばしてやろう。)…?何言ってんだ、たま。お前猫じゃん!!急に変なこと言うなよ…。…あ、今度鈴見っけたらたまにやろうとしてんだけど、なかなか鈴って拾わねぇんだよな。(楽しげに笑って言いのけたそれは悪気など一つもないそれ。それに向かって彼女が怒ったのなら「何怒ってんの」ときょとんとするはずで、何を言うのも諦めたのならばそのままニコニコと楽しげにしているつもりだ。―このまま亡者の話や現世の話、身振り手振り話を続けるのだけれど、任務に行っていた獄卒が帰ってくるのが先か、気付いた上司が説教にくるのが先か、それとも彼女の手が動くのが先か、―それまでは楽しげに動く口は止まりそうにない。楽しい暇つぶしが出来たものだ。)
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