ノア・スミス サイモン
02
サイモン、沢山話をしたら、俺たちさ…友達になれるかな。
(革命の立役者に気を遣わせるとは何事か。青年の――というよりは、彼の様子を鑑みてアンドロイドに無害であると判断されたらしい。互いの涙が落ち着く頃合いを見計らい、「中へ。」そう端的に促してきたマーカスの言葉に遠慮も気兼ねもする間もなく、アンドロイドたちが暮らす廃墟群の一角に通されて以降、青年は珍しく暫し黙り込んでいただろう。変わらず奇異の視線は痛いほど体に突き刺さるけれど、彼が隣に腰を下ろしているせいか、先程よりは随分と刺々しさの落ちた視線だった。すん、と鼻を啜って、ようやく。)…無事だっていうのは分かってたんだ。でも、どうしても、1回だけでいいから、また会いたかった。嫌なこと思い出させるっていうのも、わかってたのに。(彼を購入して、もう4年になる。未だ変声期を迎えていなかった少し高めの声色でサイモンサイモンとうるさく甘えていたあの頃より背丈も伸びて、精神的にも大人になったと思っていたのに。新たなる知的生命体と認められた彼には酷な仕打ちとなり得ることも理解していて、衝動を抑えきれなかった、まだまだ無力な子供のままで。)「ありがとう」なんて言われるほど、俺は何にも出来てないのになあ。――これ、お揃いだ。(これ、と言いながら自然に手が伸びるのは変わらない癖のようなものだった。白い流動性の皮膚に薄らと残る落涙の跡に指で触れることが叶ったならば、なぞることもしてしまおう。)…サイモン。あのさ、これはお願い…っていうか、俺の勝手なわがままだから、断ってもいいんだ。俺、またここに…サイモンに会いにきたい。なんでもない話して、ちゃんと笑って、たまに俺が料理教わったり、遊びに出かけたり…なんていうか、「友達」みたいに。(断られる覚悟半分、けれど先程の抱擁を思えば、受け入れられる期待も半分。彼の返答がどちらにせよ、青年は憑き物が落ちたような晴れやかさをたっぷりとたたえた笑みを浮かべていただろう。廃屋の窓から差し込む春の日差しを受けながら、そこに喜色が混じるのか、それとも別れの清々しさが混じるのか。それは命を手にした彼次第。)
友達に、なりたいと…なれたらいいと俺は思ってる。
(涙をアンドロイド達の前で、彼の前で、流したことがなかった。理不尽なことで怒鳴られた時だって変異体となってパニックになった時だって、怪我を負い仲間の後姿を見送ったあの時だって。涙したのは、彼に自由になる手助けをしてもらったあの時一人の時だったのだから。今はこんなに仲間に囲まれていて、笑いあえていて、あの時との違いにまた少し涙が零れそうになったことはきっと誰にも気付かれていないはず。彼から離れてお互いに落ち着いたのなら、マーカスより促され中へ彼を案内しよう。廃墟群の一角へと通したのなら彼の隣に腰を下ろして顔を下へ俯かせる。まだ人間に対して良く思って居ない奴らも居てそれは彼に対する視線が物語っているものだ。確かに、あんな仕打ちを中にはもっと酷い事を人間にされ続けて恐怖を与えられたものが多くいるのだから当然ともいえるのだけれど。―けれど、彼の優しさをよく知っている自分からすれば彼に対するその視線は、なんだか悲しくて複雑だ。そわそわと、指先を動かし何を言おうかと悩んでいれば聞こえてきた声に顔を上げて、―)そうか、…そうか…。俺の事なんてとっくに忘れてると…いや、忘れていなくとも俺だということに気が付かないと思っていた。俺の型はたくさんいただろう。(わかっている、この顔は自分だけでないことは。それなのに、何故わかってくれたのだろう。”サイモン“と言う名をくれた彼だからか―不思議な事でもそういうことなら何故だかしっくりとくるものだ。ふっと口許を緩ませたのなら、)そんなことはないさ、俺が自由になれたのは紛れもない…ノアが手を貸してくれたからだ。だから、…人間の事は嫌いだったが、ノアの事だけはずっと気がかりだった。人間の事を、嫌いだと言われるのも複雑だと思うけど、――ああ、お揃いだ。(アンドロイドでも涙を流せるなんてあの時は知りもしなかった。伸ばされた手に懐かしさを感じながら、甘んじてその手を受け入れたのなら、また笑みを深くして。彼の言葉に一度首を傾げて「どうしたんだ、ノア」と、言ってみるように促しては、)……!俺とかい?そんな、…俺だってノアと、…あの時と同じようにとはいかないけれど。今度は、今度こそ、奴隷や召使いとしてでなく…友達としてノアと話がしたいよ。色んな事を一緒にしたい。―マーカスたちにはよく話しておくから…また会いに来てくれるかい?(真っ直ぐに自分の心に従ってそう彼の顔を見遣り告げよう。きっと彼なら自分の本心である事をしっかりと理解してくれているはず。そっと彼の前に出した手、求めるのは握手だ。「これから、よろしく頼むよ…友。」差し出した手に温もりが重なるか、きっと重なったのなら目元を細めて微笑むはずで―。)
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