桔梗 同田貫正国
02
同田貫さんは修行に興味ありますか?
(新たな戦場は、時間遡行軍も強くなってきているのか、出陣していった彼らの怪我が増えたように思う。それでも誰一人として欠ける事なく帰還する姿を見て、安堵すると同時に彼らに対する尊敬の念は深まるばかり。そんなある日のことだ。他の審神者から演練のお誘いがあり、これも良い経験になるだろうと引き受けた。連れて行ったのは本丸の中でも経験豊富な六刀。相手の審神者と顔を合わせた際、まず驚いたのは六刀すべてが修行済みだったこと。桔梗の本丸では、初期刀ですらまだ修行には行かせていない。——訓練が始まる。修行の差は大きいのか、苦戦する彼らの姿に拳を握りしめつつも、視線は逸らさず見守ろう。ふいに隣に腰掛けていた審神者に言葉をかけられた。「そろそろ修行に行かせてやってはどうか。」と。)そう、ですね。(思わず言い淀む。実際、修行に行きたいと声を上げる刀剣男士もちらほら居る。渋る理由は己の弱さが原因だろう。——訓練が終われば相手にお礼を告げ、本丸へと戻ってきた。彼の元に足を運んだのは、それから少し間を置いてのことだ。)同田貫さん、今回の演練は……その、どうでした?(彼の側へと腰を下ろしながら声をかける。一人頭を悩ませていても答えは出ず。困ったような笑みを携えて、ちらりと彼の顔色を伺った。)修行……少し怖いのです。私の知らない皆さんになってしまうのでは、と。変わらず協力して頂けるとは思いますが。(ぽつり、ぽつり。新しいことには不安が付きまとうものだ。結局のところ己に自信がない故の弱音。とは言え、誰かに話をするだけでも大分すっきりするのか、表情は幾分か明るくなるか。)同田貫さんは私を甘やかさず、真っ直ぐな意見を言ってくれる気がして、ついつい頼ってしまいます。(すみませんと付け足す声は言葉とは裏腹に少し楽しげに。緩む口元を隠すように片手を当てた。それからふと思い至ったように視線を持ち上げて、)そうそう、相手の審神者の方に和菓子を頂いたんです!これから皆さんと食べようと……良ければご一緒にどうですか?お茶を入れますよ。(甘い物は好きだ。その証拠に満面の笑みを浮かべながら、小首を傾げて問いかける。どのような答えが返ってこようと立ち上がり、軽い足取りでみんなの元へと向かおうか。)
そりゃあな、興味がないって言ったら嘘になる…。
(新たな戦場へ行く部隊へと編成され、自分の力を見せることができるのだと好戦的に出陣していき敵を斬っていく。これが刀の在り方なのだと喜々として乗り込んでいたのだけれど。なんとなく感じていく違和感、重傷を負うようなことはないけれども確かに傷が増えている刀剣達―自分も然りだ。手応えを感じていると同時に、自分に対しての心許なさ、なんてらしくもない事を感じてはグッと口を噛み締め拳を強く握った。帰還してそれぞれ思い思いに過ごしていたのなら自分の怪我を確認したそれなりに長い時間共にしている初期刀が痛そう〜なんて茶化した後ほんの少しの沈黙に「修行、行ったらもっと強くなれるのかな。もっと愛してくれるかな。」ぽつり、そんなことをごちた。)…修行、ねぇ。(確かに強くなるためには己を改めて知る必要もあるしきっといい経験になるに違いない。それは本丸にとっても悪い事ではないように思うけれど、審神者である彼女はそれを渋っているようにも思う。「ま、主にも何か考えがあるんだろうし。主の気持ちを待つだけなんだけど。」そんな言葉を残して去っていく初期刀は主に対して真っ直ぐに信頼しているようだ。その姿勢は出会ったあの頃から変わらないものであることは長い時間を共にして教えてくれている。――それから幾日が経ったか、どうやら他の審神者から演練のお誘いがあったとの事。経験が豊富であると六刀の中に選ばれたのだ。戦場で敵である時間遡行軍を斬る事が武器として第一の仕事と言えるが偶にはこうして他の刀剣達と手合わせをするのもいいかもしれない。そんな思いで了承し行われた訓練―修行へ行ったという刀剣達の力は思っていたよりも重く、強く、苦戦するものであった。太刀や打刀といった違いがあったかもしれないが同じ刀剣である彼らとの力の差を思い知らされた、ような、。――気が付いたら訓練は終わり本丸へと戻ってきていて、ふぅと一息ついたのなら胡坐をかいて今日の出来事を目を閉じて嫌という程に思い出すこととしよう。そうして暫くしたところで聞こえてきた足音に片目だけ開けてその姿を確認したのなら、)…よう。アンタから見たらどうだったかはわからねぇけど、…正直あれが戦場だったら今までの怪我どころじゃ済まなかったろうな。(くしゃりと悔しそうに片手が髪を掻いたのなら、一度舌打ちを。そして側に腰を下ろしていた彼女を見遣り、)…そんなこったろうと思ったけどな。何も変わりゃしねぇよ、って言葉で言ってもアンタは信じられないかもしれないけど…アイツの、…あー、加州のアンタに対する根っこの部分が変わるとは到底思えねーし。(強くなっていく時間遡行軍との戦いの中で初期刀と話をした事を思い出して。修行に行きたいと言った彼のあの言葉は、彼女のために愛されるためにとこれまでと変わらないものだったから。)変わったとしても…それは悪い方向にはならないだろ。…って、なんで俺がこんな風に…だあああ!なし、今の無し。甘やかしてなんかやんねーよ!ただでさえ、アンタに甘い奴ばっかなんだからな。俺はいくさに行ければそれでいいんだ。(腕を組んで照れ臭そうにふん、と視線を逸らした後、やはりと顔を彼女の方へと向き直し、)…アンタが修行に行くなっていうなら行かない。なぁに、武器はいくさで折れてなんぼさ。そん時の覚悟はできてる。それに…今までも上手くやってこれてるし今が限界なわけじゃない、急かさねぇよ。(何度目かのため息を吐いたのならば、何笑ってんだと言いたげに目を細めるのだけれど。先ほどよりも幾分か明るくなった表情にほんの少しの安堵を感じて彼女の提案を耳に入れようか。)あ?和菓子?…くっそ甘ぇだろ……お茶もあんなら食うけど。(嬉しそうな笑みを見られたのならばやれやれなんて肩を竦めつつ彼女の小さな背を追いかけるようにと立ち上がるのだ。きっとどうあれ、こんな日常が変わることはないだろうとまた強く思った―。)
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