桔梗 同田貫正国





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同田貫さん。たぬきさんって、可愛い愛称ですね。


(最近めっきり寒くなってきたもので、毎朝布団から出るのが億劫で仕方ない。この時期、桔梗は普段よりも私室から出るのに時間がかかってしまうことを申し訳なく思いつつ、今日も少しばかり遅めの起床となった。とはいえ、審神者に就任する前と比べればこれでも早い時間である事は間違いない。和服の上に羽織を重ねてみても、廊下を歩けばふるりと身震いをしてしまう。先日、初雪が降りうっすらと白くなった庭に目を奪われていれば、向かい側から歩いてくる彼の存在に気がつくのが遅くなった。)あっ……同田貫さん、おはようございます。最近寒くなってきましたね。(軽い会釈と共に挨拶を。動かずに居ると余計に寒さが身に染みる。二の腕のあたりをさすりながら、強張った頬の筋肉を動かした。)今日は出陣はお休みです。骨喰くんと手合わせを組んでおきました、よろしくお願いしますね。(修行から帰った彼は以前にも増して心強く、こうして力を貸してもらえる事に改めて感謝している。桔梗も審神者として精進せねばと気を引き締めた。まずは寒くてもちゃんと起きるところから、だ。)……あのう、同田貫さんって骨喰くんに愛称で呼ばれてるんですか?その、彼と会話をしていて、気になってしまって。(今日の手合わせの件を、美しい銀髪の脇差へと昨日のうちに話しておいたのだが、その時のことだ。会話の中であった“たぬき”が目の前の彼を指していると知ったのは。)ふふ、良いですね愛称で呼び合うの。距離がぐんっと縮まる気がします。(ほっこり。浮かべる笑みは微笑ましげなものだったが——羨ましいなあと零れた本音は彼の耳に届いただろうか。刀剣男士には親愛を込めて接している、それでも付喪神として敬意を払い一定の距離は保ちつつだ。その距離を縮めたい、もっと親しくなりたいと思うのは許されるのか。そんな想いが口から漏れたわけだが、無意識だったのだろう、特に慌てた様子もなく。)それではまた後で。(小さく会釈をしてまた歩き出そう。向かうは審神者用に用意された部屋。仕事に一区切りがついた頃を見計らって、彼らの手合わせを見学しに行こうと計画をしながら。)

っげ、まさかアンタにそんな風に呼ばれるなんてな……、勘弁してくれや。

 

(修行へと行ってからというもの、自分の強さと価値を再認識して以前よりも増して余裕が出来たように思う。一番に主に報告へ行った後、先に修行へと行った付き合いの長い初期刀に帰った報告をしたとき、「あんま変わってないね」なんて冗談交じりに言われたときは思わず拳を握り振り上げてしまいそうになったが、最終的には頼りにしてるよ一緒に頑張ろうと素直に言われてしまい収拾がついた。―それから自分の力を強く信じてくれていた主に対する信頼も前にも増して大きくなっている事は、言わずもがな、である。さてさて、それから幾日と経ったとある日の今日。)…あー、寒ィ…また雪でも降りそうだな。(先日の初雪でうすらと白で飾られる庭にため息を吐けばついた息は白く空へと向かっていく。変わらぬ時間に目が覚めいつもと変わらぬ朝であれど日に日に寒さは増していくようで、季節の巡りであれど恨めしくも思えてしまうものだ。そう思いながら廊下を歩いていたのなら、前方に庭に目を向ける主の姿。己よりも小さく細い女性の姿は、どうにも寒そうで仕方がない。ゆるりと其方へと近づいて、)ん、おはようさん。…確かに寒いけどなァ…ふは、アンタは細っこいから余計に寒そうだ。(挨拶を交わしたのならば彼女の行動には楽しげにしてみせては、「あんま無理して体調崩してんなよ」とお小言も送ろうか。)おー手合わせねえ。実践のが気分上がるけどアンタが言うなら…っつーかバミとかよ!了解了解。(銀髪の脇差を思い浮かべては呼び出した愛称を口にしてはひらりと手を振り承諾する。戦に連れて行ってもらえないのは残念ではあるがそればかりではない事も今ではきちんと理解しているから、その役目が来た時にしっかりと力を使えばいいのだと分かっているから、本当余裕が出来たなと感じながら手合わせをする前に体を動かしとくかと考え目前に居る主に一言告げ立ち去ろうとしたのだけれど。)……あ?…あー愛称っつーか、…ッチ、アイツ…アンタの前でもそんな風に呼んでやがんのか。(彼の事をたった今愛称で呼んだことはどこへやら。彼女の言葉に彼が自分の呼び名にあの可愛らしいものを使ったのだとすぐに察する事が出来舌を打ちつつガシガシと頭を掻けば、)…まぁ、気安い相手ではあるけどよ。縮まってるもんかねぇ?(茶化されているだけの気もするが…そんな事を思っていれば零れた言葉に思わず目を見開く。耳に入った言葉を確認していいものかと彼女の目を見るのだけれど特別慌てる様子もなくもしかしたら聞き間違いだろうか、とも思えてしまって。けれど、間違いでないかもしれない―会釈をし歩き出す彼女の背に手を伸ばしかけて、止めた。らしくもないと手を握りため息を吐く。)羨ましいって、なんだよ。(愛称で呼び合うのが?距離が縮まるのが?くしゃりと髪を掻いて、)だー、わっかんね!くそ、バミ!バミ手合わせすんぞ!!(むしゃくしゃしたときは体を動かすに限る。ばたばたと彼女とは反対の方を走って目的の銀髪に大声で呼びかけては迷惑そうに出てきた脇差を引っ張って向かうは手合わせ場。変わらず愛称で呼んでくる銀髪に「いいからやるぞバミ!」負けじと愛称で呼びかけいざ手合わせを。途中で休憩の時間になれば愛称で呼び合うのって羨ましくなるもんか?なんて問いかけたりしてみて、幾らかむしゃくしゃは晴れるだろうか――暫くしてもしも彼女が見学に来たのなら、「お、」と声をあげて一旦手合わせはストップ。彼女の元へと近づいたのなら、)さっき、会ったとき羨ましい、ってアンタ言っただろ?聞き間違いではねぇだろうし考えてもバミに聞いてもわかんなかったからよ、やっぱりアンタの口から聞こうと思ってな。教えてくんねぇか?俺はアンタの力になりたい。(その言葉は同田貫の本音であった。)