桔梗 同田貫正国
09
同田貫さんのお口に合うと良いんですが。
(零れ落ちた言葉の理由を問われたあの日——しどろもどろになりながらも更に親しくなりたいのだと語り、照れたように笑ったのは記憶に新しい。とは言え、彼に対する態度に特に変化はなく、年明けの挨拶を交わした際も今までと何ら変わりない様子だったに違いない。距離を縮めたい思いはあれど、現在の距離感が審神者と刀剣男士として最適ではないかと桔梗は考えていた。そんな中、久方振りに彼が近侍となる。近侍交代制をとる本丸にて、刀剣男士の数が増えれば期間が空くのも道理か。大広間にて刀剣男士たちに今日の指示を出し、出陣や遠征に行くのを見送った後、近侍の彼を呼び止めた。二人きり、広い部屋が余計に広く感じられる。)あの、同田貫さんこれどうぞ。……いつもありがとうございます。(深々と頭を下げながら差し出したのは、和紙で包装された細長い箱。中身は色彩豊かな生菓子だ。二月といえば、頭に思い浮かぶイベントはバレンタインなのだが、こうして贈り物をしたのは今年が初。果たして、刀剣男士である彼はこのイベントを知っていただろうか。)……渡そうか迷ったんですが、日頃の感謝を伝えたいと思いまして。(そんな言葉を付け加える。僅かに赤くなった頬は髪の毛で隠れていると良いのだけれども。差し出した箱の行方がどうなったにせよ、顔を上げて、彼の顔を真っ直ぐ見つめよう。頬の赤みはひいている。しかし、どこか緊張した様子の微笑みを浮かべて。)仲良くなりたいと言ったのを覚えてますか?でも、同田貫さんと私は違うから、距離を縮めすぎるのは良くないんじゃないかと思うのです。……なのに。ダメですね、私。(見た目がどれ程人のようであっても、刀剣男士は人ならざるものだ。きっといつか別れもくるだろう。それを考えてしまえば、審神者になると決めた時に引いた一線を飛び越えるのはあまりにも——だと言うのに。)やっぱり、どんどん欲が出てしまって。同田貫さんのこともっと知りたいんです。……ええと、言いたい事纏まってなくて、きゅ、急にごめんなさい!(見切り発車で語り始めた思いは、終着点が見当たらず。恥ずかしくなってくれば、慌てたように頭を下げた。それでも、言葉にした事で少しは楽になっただろうか。「今日もお仕事頑張りましょう!」と笑って、ぱたぱたと駆け足で審神者の部屋を目指す。そして気が付いた。なにも大広間でなくとも、審神者の部屋で渡せば良かったのではないかと――何せ近侍なのだから。)
さて、どうだろうなーでも、…あー、どうもな。
(力になりたいと、本音を彼女にぶつけてみたのならその理由をしどろもどろながらもきちんと答えてくれた。その言葉を聞いて、思わずきょとりと目を丸くさせては、なるほどと顎に手を当て考える。親しく―親しく―…しかしながらさほどいい案が浮かばなかったのは他の友好的な男子たちよりもその点は劣っていると自分なりに理解しているからで、思わずちらりと手合わせをしていた愛称で呼び合う銀髪の男子を見たのなら静かに首を横に振られたものだ。―けれどそれからというもの特に変わりなく、いい案が浮かんでいないという事もあるが平然といつも通りに接して時間は過ぎ去っていく。力になりたいと言ったはいいが、これは力にはなれていないのではないだろうかとそう思うのだ。考えるよりも体を動かすことの方が得意とする自分がここまで考えるとは。考えすぎてむしゃくしゃすればまた手合わせや鍛錬で体を動かして発散しているのだけれど――そうしていれば、久方ぶりの近侍となることとなった。出陣して力を振るいたい気持ちはあったけれど、これっきりではないのだから力を溜めておこうと素直に主の指示を聞き、出陣や遠征に向かう部隊を見送っては頭の後ろで手を組み、さて指示があるまでどうするかと考えていれば掛けられた声にそのままの状態で振り返ろうか。)あ?なんだ仕事、か?…は、(突然、そんなお礼を言いながら深々と下げられた頭を見てはぴたりと体が固まってしまう。きっと今彼女が頭を上げてみれば笑われてしまうかもしれない、それくらいには目を丸くして口は半開き、情けなく阿保面となっている事だろう事は自覚済みだ。そうしてこの状況はどういうことだと整理しようと彼女を見遣れば差し出されている箱、瞬きをしながらそろりとその箱を受け取ったのなら何だかむず痒い感情に襲われて隠すようにぽりぽりと人差し指で頬を掻き、)…急にそんなされたら吃驚するっつーか、ンなもん言葉だけでも十分伝わってっけど……どうも。もらうわ。(手に取った箱を見て、彼女の気持ちが嬉しくてゆるり口角を上げようか。ばれんたいんという行事が頭に入っていないものだから急な贈り物には驚いたけれど、感謝の気持ちも贈りたいと用意してくれた気持ちも良いものだと気分が上がる感覚に上機嫌である。そして、彼女の顔を真っ直ぐに見てどこか違う微笑みに首を傾げてみせよう、)ああ、その事か。忘れる訳がねぇだろ、あれからずっと考えたりしてたんだから、……ま、無理に聞き出したのは俺だ。力になりてぇとは言ったが別のことでも…?(彼女が言うことも分かる。分かってしまったからこそ、審神者と刀剣男子との距離感を彼女は保とうといつも通りにしてくれていたのだろうと察せたから。強さを見出してくれた彼女への礼は、力はまた別の場所で返せばいいと改めて言葉を紡ごうとしたのだけれど、―ああ、今日は何度も主には驚かされてしまっている。ガシガシと豪快に自身の髪を掻いたのなら、)…あーつまり?結局アンタは俺とどうなりてぇんだよ…もっと親しくなりたいってことでいいのか、……いや、…おう…って待て話、…行きやがった…(駆け足で去っていく彼女の足音を聞いては一つ息を吐いては、もらった箱を見る。それを大事そうに持っては向かうは審神者の部屋。近侍なのだから近くで待機するつもりではいたけれど、今そのまま部屋に入るのはなんだか気恥ずかしい気もして襖越しから「おい、中にいるか?」なんて声を掛けて。返答があって彼女が中にいることを確認できたのならそのまま襖に背を預け座り込み、)さっきの。…アンタがしたいようにしたらいいんじゃねーの。…俺はよ、近くに居んだから。(それは今近侍だから、それから主の刀だから、色々な思いを籠めて。別れはいずれ来てしまうこともあるかもしれない、けれど―今彼女がどうしたいのか何を望んでいるのか、それが何より大切なものに思えるから―。)
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