阿久津菜子 松野おそ松





酒豪WEBデザイナー ただのニート

02

はい質問。おそ松くんはコンビニ商品のなかで何が一番好き?


(システムエンジニアの父とグラフィックデザイナーの母を持つ女は、物心ついた頃から睨めっこの相手はパソコンの画面であった。絵日記をペンタブとイラストソフトを使って描いていた幼少時代。変換に頼ってきたせいで漢字には滅法疎いし、辞書をひくときは自然にコマンドキーとFキーを探してしまうような学生時代。両親に憧れテストをそっちのけて日々パソコンに向き合った日々のお陰もあり、JKという価値ある肩書きを捨ててからはその筋の学校の新卒と大差ない程の技術を手に入れていた。――のは、いいのだけれど。)っっだぁ〜〜〜!!無理、無理、終わんないってこんなの!!(高校卒業と同時に入社した両親の知り合いの会社は世間一般的には「ホワイト企業」と呼ばれる分類らしいが、納期前となればなまじ同期よりも仕事が出来るせいで押し付けられる仕事の量は通常の倍。同期や時には先輩のサポートまでも任され、キャパシティはとっくのとうにオーバーしていた。それでも「無理です」なんて紹介してくれた両親の手前言える筈もなく、求めるものはただ一つ。欲は言わない、発泡酒でも文句は言わない。「すいません、ちょっと休憩出ます!」片手を挙げて、ぽつぽつと社内に残る社員たちに声を掛けた。そんな日付変更直後。)く〜っ……沁みるぅ…もう帰りたくなーい……(カシュッと気持ちいい音を立てて飲み干すビールは、暗がりの公園とよく合った。暑苦しい日中とは違って涼しい風がそよぐベンチはいつもの居酒屋と同じくらい居心地が良い。良いの、だけれど。何かひとつ忘れている気がする。何処か寂しい気がするのは、近くの照明が今にも消えそうにチカチカと点滅しているからか、それとも――)えっ……おそ松くん!(ふと目線を上げた時に目に入った姿に思わずベンチから飛び出し声をあげる。何でだろう、口許がちょっと緩まる。慌てて立ち上がったせいで手元のビールがちょっと零れてしまったけれど気にしない。サクサクとパンプスのヒールで水玉模様を描きながら彼の方へ近寄る。いつもは小さく見上げる彼の瞳が、黒いパンプスのおかげで少しだけ近付いた。)こんな時間にどうしたの?おそ松くんかわいーんだから、深夜に出歩いてたら攫われちゃうよ?ふふ。(こて、と首を傾げて問うて。寂しいという思いは何処へやら、残業の疲れも一緒に掻っ攫われたみたいだ。もう少しここに居たいな。あと五分くらいなら――なんて。芽生えた気持ちを知ってか知らずか、片手に持ったスマートフォンが振動を以ってピピピと歌った。ちらりと確認すれば「菜子さん!緊急事態!」の文字。あからさまに嫌な顔をひとつ浮かべたなら、はあっと一息ついて、腰のあたりで小さく手を挙げた。彼の顔を伺うような表情で、)引き止めてごめんね、サボってたら会社から呼ばれちゃった。……ねえ、いっこワガママ。聞いてくれる?(それから、目線を下に移して照れ臭そうに首を掻く。)………がんばれって、頭撫でて欲しいんだけど。(今が夜でよかった。もし今日が照っていたのなら、口をツンと突き出した照れた表情が彼に見えてしまうかもしれないから。分かりやすくこうやって人に甘えるなんてあまりしたことがないから、彼の返答を待つ数秒はとっても長く感じられた。彼が拒否したのなら「だよね〜」と笑って流して別れを告げるだろうし、もし彼が願いを叶えてくれたのなら――下げてた目線をゆっくりあげて、お礼と共にへにゃりと満足げに笑っただろう。どっちにしても、彼に会えたことはビールを飲む事と同じくらい己にとって最大の喜びで、朝までだって頑張れるなんて思ってしまう。この感情に名前をつけるならなんだろう?それはまだ分からないまま。今はきっと涙目で待っているであろう同僚を助けに行こう。)

んえー?そりゃ酒つまみ。後アイスっしょ!

 

ったく!なんだよあいつ等〜俺のこと放って帰りやがって!(ほんの数時間前、いつものおでん屋台にて六つ子揃ってお酒を飲みながらどんちゃん騒ぎしていたことは覚えている。のだけれど、気付いたら屋台に突っ伏して眠っていて「早く起きて帰れ!」という声が聞こえて起きたのなら屋台の片づけを行っている屋台主と自分一人になっていたのだから、アルコールを含んだ体に脳が反応しまた余計なことをべらべらと言って他の兄弟を怒らせたのかもしれない。「金は払わねェし急に喧嘩しだすし…」なんてぶつくさ聞こえてぼや〜っとした頭で確信を得たのならやっぱり?なんて無邪気に笑ってみせるのだ。なんやかんやでツケといてくれる彼に軽くお礼を告げたならお邪魔虫は退散といきますか。――それから冒頭へ戻り、今更ながら置いていった兄弟にむしゃくしゃした気持ちを抱きながらゆったりとした足取りで一人帰路へとついていたところ。風にあたり少し酔いが醒めて、もう一飲み行くか?なんて行きつけの居酒屋へ向かうことも考えたのだけれど。ふああ、と今自然に出てくる欠伸にやっぱり帰って寝るべきだと至り暗がりの公園の前を通った、その時にふと自分の名前を呼ぶ声に思わず「うおっ!」と小さく情けない声と共に肩を揺らしてしまった事は気付かれていないだろうか。)は、…え?菜子ちゃん!うっわ〜ちょう奇遇じゃ〜ん!(声のした方へと視線を向けたならはっきりと姿の見えた彼女に「よく俺だってわかったね。さっすが!」似てる顔が6個、親でも間違えるのに区別してくれる数少ない子。嬉しそうに少し照れたように笑みを浮かべながら人差し指で鼻の下をこすったなら、)それって俺のセリフなんだけど、ま、いいや!いや〜さっきまであいつ等と飲んでたんだけど置いてかれてさ〜!めっちゃむかついてたんだけど、菜子ちゃんに会えたからまじラッキー。菜子ちゃんみたいなかわい子ちゃんに攫われんならまた夜中出歩いてもいいかもーなんちって。(楽し気に声を出しながら笑ったならなんて一人で愉快な男か。なんだかいつもより近い距離にある彼女の顔にむず痒いような、照れるのを隠すように鼻の下をこすり、こすり。そんな楽し気な声はスマートフォンの音と共に途切れてしまうのだけれど。)はあ?!こんな時間までまだ働いてんの?!ほんっと社会人って大変だわ。俺には無理だね!(ひゃ〜っと冷や汗をかきつつも、彼女のワガママとやらには「何なに?」と首を傾げ問いかけたのなら思いもよらぬ言葉に思わずきょとんと目を丸くしてそのままの状態で一時停止してしまった。きっと何言ってんの〜と冗談ととることも出来たのだけれど、何故だろう。そうはしたくないなと、思って。――女性に触れる機会もなかなか、滅多にないため浮かべた手はやけにぎくしゃくと、まるでロボットのような動きで柔く彼女の頭へと置いたなら数度撫でて、)―がんばれ。(がんばれ、二度目の頑張れは恥ずかしさからか少し声が震えてしまったけれど、彼女がそれに気づかなければいいな。それを隠すように今度は彼女の髪の毛が崩れるなんてそんなことお構いなしというようにわしゃしゃと強く撫でたなら、にししっと笑って見せ、)足んなくなったらまたお兄ちゃんがなんとかしてやるよ。(お礼はもち、酒で。とちゃっかりしたなら手をどかし、お礼を言う彼女をほんの数秒目を合わせるように見たなら、真剣な顔で、視線を外し、)あのさ、…倒れんなよ。(それは、ゲスでクズな自分を知る兄弟が聞いたら驚くであろうほどの純粋な心配のそれ。そんな言葉を無かったものにするようにまた笑顔を浮かべたのなら、「じゃーなー」と手を振り彼女を見送ろう。背中が見えなくなるまで、ずっと見守るつもりで―。頭を撫でた震える手を見たのなら柔らかな彼女の髪の毛を思い出して、柔らかかったな、いい匂いだったななんてそんなことを考えてしまう自分を神様は許してくれるだろうか。――もしも、また彼女のワガママを聞くことがあるのならまた喜んで聞くだろう。その度にお酒をせびる事を忘れずに。)