飛永雛 赤葦京治
ちびっこマネージャー 冷静な副主将セッター
09
…赤葦先輩、御免なさい。でも、有難う御座いました。
(買い出しへと向かう最中、副主将が掛けてくれた言葉の数々はすんなりと飛永の中に落ちていった。自分でも分かるぐらいに緊張していたけれど、彼や主将、他の部員達に先輩マネさん達、監督やコーチ達が居れば何も問題が無いこと、怖くないことを改めて知れたのは、飛永にとってとても大きなことだった。彼に肩を軽く叩かれた時、違った緊張が押し寄せて来たのは、また別の話で――大型ショッピングセンターでの買い出しは予め購入リストを作成していた為、難無く終えることが出来た。予想通り大荷物となったので監督へと車の手配をしたのは数分前のこと。絶賛仕事中である監督は区切りが付き次第に車で迎えに来てくれるようで、少々時間が掛かりそうだから同行してくれた部員達とは此の場で解散する流れとなった。マネ達は部費の管理や荷物の片付けがあるので一旦学園に戻ることになる為、部員達に労いと感謝の言葉を掛けては別れ、センターの出入り口付近に設置されているベンチに荷物を置き、部活やちょっとした雑談をしながら監督の到着を待つのだけれど――未だ時間が掛かりそうだから個人的な買い物があったら行って来て良いよ。と、先輩マネさん達が言ってくれたなら其の言葉に甘えるとしよう。友人の誕生日が迫っている為、贈り物の下調べをしたかったのだ。友人が好みそうな雑貨店に入れば商品をゆっくりと見ていくのだけれど、少しして人の気配を感じれば相手の邪魔にならぬよう隅っこへと移動するのだが、飛永は相手、男性の行動に違和感を覚えた。直ぐに此処を離れようと思っても相手は通路を塞ぐ形で立っており、如何したものかと思考を巡らせていれば、先程の男性が直ぐ其処にまで迫っていたものだから飛永は反射的に息を呑み、身を固めることしか出来なかった。え、ちょ、ヤバイ。如何しよう?如何したら良い?軽く混乱している中、男性が発する言葉の数々は飛永の思考を停止させるには充分な力を持っていて――相手は飛永を小学生と勘違いしているようで、小学生が平日の真っ昼間に出歩いていることを不思議に思っている様子。迷子なら学校か家まで車で送ってあげる。自分は怪しくないから大丈夫。そういった言葉を矢継ぎ早に言って来るが売り場の片隅に追い込んで来る人物が怪しくないとか信じられる筈が無い。相手を刺激しないように此の場を離れようと、丁寧にお断りしようと口を開いた其の時、相手が飛永の手首を掴んだ為、本日、短時間の内に二度も思考が停止した。強く握られた手、熱く汗ばんだ手は飛永に嫌悪感しか与えなくて、其れは飛永の表情にも出ていたのに相手はそんなことは構わないといった様子で手を引いて雑貨店を出ようとするものだから、)―…あ、あの……私、迷子じゃありません!一緒に、来てる人達もいるので、心配、しなくても大丈夫です!ちゃんと、一人で帰れますから…だから、あの、気に掛けてくれて、有難う御座いました!(此の状況で相手に謝辞を告げるのは可笑しいとは自分でも思う。けれども相手を刺激しないように、逆上させないようにと咄嗟に考えた結果で、飛永の手を掴んでいた相手の手、其の力が一瞬緩んだなら手を振り払い失礼しました!!と、勢いよく告げてはダッシュで其の場を後にしよう。相手が追い掛けて来たら如何しよう何処に逃げよう、考えながら走っていれば通路を曲がった先に居た人物、副主将の姿が視界に移り込めば其方へと駆け寄って。)せ……先輩、ちょっとだけ、本当にちょっとだけで良いので、壁になって下さい!隠れさせて下さい!!(其れだけの言葉を発すれば彼の背後へと周り、隠れるように身を縮めよう。思わず彼の制服をぎゅ、と掴んでしまった飛永の手は情けないぐらいに震えていて、)ごめんなさい…本当に御免なさい、先輩。私、他のお客さん…お客さん?よく分かんないおじさんに、声掛けられて、小学生と間違えられて…何かもう、いっぱいいっぱいで、逃げて来て……っ、(今になって押し寄せて来た恐怖は飛永の声も震わせる。上手く説明出来ないことが情けなくて、視界に入った自分の手、男に掴まれた場所が赤くなってるのが何だかイヤで――彼が何か言葉を発してくれるなら、其れはいっぱいっぱいになっている飛永を落ち着かせてくれるだろう。さっきの男の姿が確認できなければ大きく安堵して――ぎゅー、っと掴んでいた副主将の制服は少し皺になっていて、其れがちょっと以上に申し訳無いと感じながらも其処から手を離せば、他の皮膚よりも少し赤くなってしまった部分を空いている手で隠した後、副主将を見遣れば、)…先輩、情けないとこ、見せちゃって御免なさい。でも、有難う御座いました…先輩が居てくれて、本当に良かった。(ちょっと泣きそうになりながらも心からの言葉を送れば、彼に向けて頭を下げよう。少しして先輩マネさん達から監督が来た旨の連絡が携帯に入れば副主将に頭を下げるのだけれど、途中、主将や他の先輩達が副主将と合流すれば彼等にも頭を下げ「帰り、遅くなり過ぎちゃダメですよ?お疲れ様でした、また部活で!」普段よりもずっと硬い笑みで、声音で告げたなら、急いで出入り口に向かおう。今日、飛永が受けた災難を知るのは、副主将と、此の後共に行動する気遣い上手な先輩マネさん達だけであろう。)
なんで、飛永が謝るの?…いや、ごめん。無事でよかった、本当に。
(彼女との会話後、大型ショッピングセンターに辿り着き合流した部員たちと共に、ブラブラ、自分たちの買い物ついでにとマネージャーたちの買い出しを手伝いながら行動していればどうやら本来の目的である買い出しは無事に終えることが出来た様子。ひとまず安心したのも束の間、なかなかの大荷物となってしまっていてマネージャーだけで平気なのかと、もしかして荷物持ちで部員たちが借り出されたのではと冗談交じりに心配したのだけれど、監督が車を出してくれるのだという言葉を聞いて再び安堵し納得するのだ。マネージャー達は学園に戻るため監督を待つとの事、まだ買い物途中の部員たち、そして遊ぶ気満々の部員たちと共にマネージャーに別れを告げたのならまたショッピングセンター内を見て回ろうと足を運ぼう。ぱらぱらと、見かけた店に入って別行動をとる部員も居る中どうやら大多数はゲームセンターに寄るとの事なので「俺も少し買い物してきます。」と声を掛けて一人別行動をとって。――それからCDショップや、目的のバレー雑誌を無事に購入することが出来たのならさてどうしようか?このままあの喧しい部員たちとの合流も悪くはないけれどもう少し一人で色々と見たい気持ちもあるのだから仕方ない。…と考えながらゲームセンターから離れていっている足に既に答えは決まっているのだけれど。一人で落ち着いて気になる店舗に入っては思わず衝動買いしそうになりながら見て回っていたそんな折、慌てた様子の小さなマネージャーの姿を見て、思わず驚きながら唐突な言葉には返事をする前に背後へ隠れるようにした彼女に情けなくも焦ってしまうのだけれど、)と、飛永…?まさか壁になってってお願いされるとは思わなかったけど、…ねえ、とび、な…、(事情を聴くべく彼女の方を見ようかと体を捩ろうとしたけれど、制服越しからでも感じられる彼女の震える手にどうにも言葉を続けることが出来なくて。そして謝罪と共に続けられる言葉に彼女の必死なお願いの意味を理解することが出来て体を捩ろうとすることはやめ、前に向き直り視線を横にずらしながら周囲を確認したのなら、そっと出来るだけ優しく聞こえるように口を開こうか。)飛永、いいよ。謝る事じゃないし無理に全部言おうとしなくていい。―怖かったね。(その現場を想像するだけで沸き上がってしまう嫌悪感。実際に起こった出来事なのだから彼女は相当に怖い思いをしたはずだ。急な出来事なのだから「連絡をくれれば」なんて責めることも出来るはずがない。もっと色々と考えてもしもの為に「ショッピングセンターに残っているから何かあれば」と声を掛けていたなら…?なんて過去の事を後悔したってどうなることもない。グッと強く握った拳は思っていたよりも痛くじわりと熱く汗が滲む。――しばらくして、彼女が大丈夫だと確認したのだろう、離れた手にちらりと彼女の方に顔を向けて、)飛永が謝る事なんて何一つないでしょ。それと、俺…何もしてない。ごめん、…て俺がいうと飛永すごく気にしそうだけど、……ごめん。(怖い思いをする前にその場にたまたまでも居られたなら、今この時点で何もすることが出来なくて、そのおじさんに対する怒りのような何か、様々な気持ちが交差して出てくるのはなんだかもやもやとした、黒い靄のようなそれ。このような状況にどう声をかけていいのかも、分からなくて―ああ、なんてなんて情けない男なのだろうか、と。でも、)少し、でも…飛永が安心できたなら。(自分が少しでも彼女の救いとなることが出来たのなら、嬉しい。手で隠された部分を気付かれないように見たのならば、何があったのか何となく察せられ全てを追求することはどうしても出来ないから。恐怖心を少しでも和らげられたなら、安心させるように、気にしないで大丈夫だと伝わるようにそっと笑みを浮かべよう。―すると先輩マネージャーから連絡がきたらしくつられるように頭を下げるのだけれど、「いや待って、途中まで一緒に行く。」と声を掛け彼女の隣を歩いていくつもりなのだけれど彼女は許してくれるだろうか?許してくれるのならば彼女の歩に合わせて隣を歩くつもりだったのだけれど―途中でゲームセンターに飽きたであろう主将等と合流してしまい、なんとも硬い笑みで急ぎながら出入り口に向かって行ってしまった彼女。首を傾げながら手を振る部員たち、元気に別れを告げる主将にため息をつきつつ、トンっと彼の肩を叩いて、「すみません、俺もそろそろ帰ります。先輩たちはどうぞごゆっくり。あ、でも飛永の言う通り遅くなりすぎないでくださいよ。」ひらりと手を振りながら彼らに別れを告げ急くように動く足の目的は、もちろん―)飛永、…俺も帰るとこだったから、出入り口まで送る。(勝手なことしている事は承知の上であるけれど、今は一人にすることができなくて、したくなくて。もしも彼女が承諾してくれたのなら、隣に並んで歩くはずで。)帰り、監督が送ってくれたりマネージャーたちと帰ったりするかもしれないけど…もし、一人になりそうだったりしたら、連絡して。飛永、絶対気にすると思うけど甘えていいから。…って、俺なんか鬱陶しいね。(最後ふっと力を抜いて笑って見せたなら彼女はどんな表情をするだろうか。優しい彼女だから鬱陶しいなんて思わないと否定するのだろうか?そんなこと彼女にしかわからないけれど。無事に出入り口までたどり着いたのなら待っていた先輩、監督たちに頭を下げて、彼女を見て「じゃあ、また。…後で?なんて、」と楽し気に告げればその場から去ろうか。――さて、この後でが本当になるか冗談に終わるかは彼女次第になるのだけれども果たして。)
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