飛永雛 赤葦京治
ちびっこマネージャー 冷静な副主将セッター
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赤葦先輩、皆さんと一緒に勝って来て下さいね。
(飛永が買い出し先でトラブルに見舞われたことを知るのは、家族や部活の顧問、先輩マネージャーや一部の部員と少数である。大事にする必要は無いので翌日からは普段通りの生活を送っており、部活動で帰りが遅くなってしまった時は部員達と共に帰路を共にしている。飛永の自宅は学校と最寄りの駅の丁度中間地点にある為、彼等とは途中で分かれることになるのは常であった。あの日、ショッピングモールの出入り口まで一緒に歩いてくれた彼の申し出はとても有難いもので、けれども片付けが終わる時間が分からなかった為にへこへこと頭を下げて気持ちだけ、其の温かな気持ちだけ有難く頂戴した。鬱陶しさ云々に対しては全力で否定した後「部活で帰りが遅くなった時…赤葦先輩や、皆さんと一緒に帰らせて貰えると、嬉しいです。」と、少し硬さが取れた笑みで告げたことは、彼と飛永しか知らないことで――勉強や練習、主に練習に明け暮れて迎えたインターハイ予選。試合が行われる体育館の出入り口付近では顧問の先生とコーチ、マネージャー達と部員達が円を描くようにして集まっていた。日に日に蒸し暑さが増していく中、耳を隠すように下ろされていた飛永の髪はひとつに結わえるには短かった為、ハーフアップのような形で纏められている。其れを見た主将から今日はおかっぱじゃない!と驚かれたのはほんの少し前の出来事だ。先生やコーチから言葉を受けていた部員達の士気は高く、試合の組み合わせを見ても普段通りの力を発揮すれば、問題無く勝ち進めて行けるだろう。自分達の試合が始まるまで未だ時間があり、ミーティングを終えたメンバーは各々館内にて自由な時間を過ごしていた。飛永と先輩マネさんの一人は前の試合の進行状況をチェックしており、そろそろ準備を始めた方が良いと判断すれば館内で待機している先生とコーチへと報告に向かうのだ。コーチの呼び掛けを受けた部員達、主にレギュラー陣は主将を筆頭に数名がのんびりとした空気を醸し出していたが、其れも直ぐに引き締められたのを飛永は肌で感じていた。ベンチ入りするマネージャーの数は一名のみと規則で決められており、本日、ベンチ入りする先輩マネさんを見遣れば、)…先輩。タオルやドリンク、テーピングといった必要なものは問題無く揃ってます。初戦で色々と大変だとは思いますが、先輩なら大丈夫だと思うので…頑張って、下さいね?私、他の人たちと上で応援してますから。(笑顔で嘘偽りない言葉を投げ掛けていけば、相手も笑顔で答えてくれる。其れが嬉しくて、飛永の浮かべた笑みが一層深まるのは、彼女達との遣り取りでよくあること。主将が円陣を組むことを声高らかに告げたなら、主将の周りにはレギュラー陣と控えのメンバーが集まっていて――先輩マネさん達に「…いってらっしゃい、先輩。」と、見送る積もりが、雛も参加するんだと手を引かれてしまえば円陣に参加することに。中学時代は自分も選手として円陣に加わることは何度もあったが、高校に入ってからは此れが初めてであるから少々緊張してしまうのは、きっと、仕方の無いことだろう。先輩マネさんの隣に立った飛永の、其の隣に立ったのが、以前からちょこっと気になっていた――あの日からちょこっと以上に気になってしまっている副主将であるのも、多少は、関係しているのかも知れない。円陣を組む、両隣の人達と肩を組むことになれば先輩マネさんと副主将に向け「小さくてすみませんバランス悪くて本当に御免なさい!」と、飛永の発言で円陣の彼方此方から笑いが起こってしまったが、そんなことは気にしてられない。慌てふためきながら謝罪し、二人の肩に手を伸ばすのだがちょっと難しそうだと判断すれば背中へと手を回すことに。主将が前向きな言葉を元気よく発した後、円陣を組んだメンバーも其れに呼応するよう声を発すれば解散となる――コートに向かう彼等、一人一人にいってらっしゃい!と元気よく見送りの言葉を掛けていくのだが、返されるのは頭を撫で回されたり緩いチョップだったりハイタッチを求められたり、反応は本当に、人それぞれ。メンバーの最後尾を歩くのは副主将で、彼と目が合えば何とか笑みを浮かべて。)今日の様子だと、木兎先輩は大丈夫だと思いますが…先輩のこと、皆さんのこと、お願いします。(そう言葉を掛ければ、今まで見送った人達の大半がハイタッチを求めていた為、飛永の両手は自然と挙げられていた。タッチをするか否かは彼次第で、どのような反応を示すかも、当然のことながら彼次第。どんな流れになっても、飛永は笑顔で「…いってらっしゃい、赤葦先輩!」と、声を掛けることに違いはないのだ。)
もちろん、勝ってくるよ。だから飛永も見ててね。
(あの自分の発言はよくよく考えなくてもなんて彼氏面か、と思い返してはなんだか羞恥が襲ってきそうだったのだけれど優しい彼女のフォローのおかげで何とか抑えられた。申し出には遠慮されてしまったけれど、彼女の硬さがほんの少しでも取れたのだからそれだけでも嬉しかったのは言うまでもない。それからというもの部活の帰りが遅くなってしまった日には自分も含め部員たちと帰路についたりしている為ホッと胸を撫でおろして。――そんな日々を過ごしていけばあっという間にインターハイの予選日。やる気満々な主将の横で、小さくため息を吐いたのなら、彼がふと目についたいつもと違う髪型にしている彼女を見て驚きの声を上げるのを見てそっとそちらに目を向けたのならそれを見て開きかけた口を一度閉じてぺしりと主将の頭を軽くはたいた。「かわいい」なんて、口に出したらそれこそからかわれるし、自分が言っていいものではないだろうそんな気がしてなんだか無性に恥ずかしくなって、そっと視線を外そうか。―それから、体育館で入り口付近にて先生やコーチから言葉を受けていれば士気がどんどん高まっていくのが感じられる。どんな相手でも全力で挑むだけだが、主将もわくわくそわそわとしているのだからその点心配もいらないだろう。まだ試合まで時間があるため各々今やっている試合の見学をしたり、柔軟運動を行ったり、自分は前者でほかの部員たちと見学をしていた。)ん、気を抜かなかったり木兎さんが急に腑抜けなければ大丈夫だよ。(いつも通りやっていれば平気だ。そんなことを一緒に見学していた部員と話していたのならしばらくしてコーチからの呼び掛けに集まることになるのだ。ミーティングから少しの間が開いたからか、気が緩んでいる者が数名居たのだがそれも一瞬。いざ試合となるとまた高ぶる気持ちにそれぞれ切り替えている様子。いざ、試合が始まる。主将が高らかに円陣を組むことをマネージャーたちにも伝えたのなら、先輩マネージャーと共に手を引かれてやってくる彼女にひらひらとお手ふりをして迎え入れようか。もしも先輩が連れてきていなかったら自分が、否自分だけじゃなくてきっと主将も引っ張ってきていただろう。だって、彼女も梟谷バレー部の立派な一員なのだから、当然だ。―隣に立った彼女にそっと会釈をしたのなら肩を組むことになるのだけれど、ばくっばくっ、変な心臓の動きは試合前の高ぶりからか、それとも―?彼女の発言には思わず、ふはっと笑い噴き出していい感じに肩の力が緩んで、「大丈夫、逆に組みにくかったらどこでも掴んじゃって。」そう彼女に聞こえるように、優しい声色で声を掛けたのなら、ほんの少しの笑い声の後に主将の有難いお言葉だ。こういう時の主将の存在は大きすぎるほどに頼もしくてこの人には敵わないと改めて感じてしまう。もちろん、本人にはモチベーションを上げる時にしか言ってやらないけれど。―コーチや監督と作戦の確認しつつコートへと向かうことになるのなら、前で楽しげにからまれている彼女を見ては目が合って。そっと目元を細めては、)そうだね、木兎さん調子良さそうだし。…俺なんか保護者みたいな扱いだね、嫌じゃないけど。…任せて。(自然と挙げられた手に、優しく小さく笑みを浮かべたのならその手に自分の手を重ねようか。そっと周りを確認したのなら、手を離す一瞬、右手の指先だけほんの少し指の間に入り込むように折って。「…見てて。」皆の事、俺の事。そう小さく告げたのならパッと何事もないように手を離して。コートへと歩を進めるのか、)…うん、いってきます。飛永。(応援してくれる皆が居れば、温かな彼女の笑顔があれば、怖いものなんてないように思えるのだから。さて、この試合勝利の女神が微笑むのは――。)
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