飛永雛 赤葦京治





ちびっこマネージャー 冷静な副主将セッター

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…赤葦先輩、お疲れ様でした。皆さん、本当に凄かったです。


(高校総体が始まり、大エース擁する梟谷学園は順当に勝ち進んでいくのだけれど――どの世界にも言えることだが、スポーツの世界も何が起こるか分からないものだ。今まで勝ち進んで来たように、其れがずっと続くとは限らない。試合の結果は相手校にあと一歩だけ及ばなかった、という状態。惜敗だ。最後の一瞬まで大エースは勿論のこと、他の誰もがボールを諦めずに追い掛けていたこと、真っ直ぐに前を見据えていてくれたことは、とても喜ばしくて誇らしいと飛永は思っていた。試合が終わり、熱戦を繰り広げた両校を讃えるように拍手を送ったなら、共に応援席にて試合を見守っていた先輩マネさんの内の一人と梟谷の応援に来てくれた保護者の方々、生徒やチアの方々に深々と頭を下げた後、速やかにコートから撤退する手伝いをする為に早足で其方へと向かって――コート脇のベンチには様々な感情から涙を流したり、落胆する者が多く見えたのは、今まで積み重ねて来たことを思い返せば当然のこととも云えよう。一番下っ端でマネージャーということもあり、飛永が試合を終えた選手達や彼等を長く支えて来た先輩マネさん達に掛ける言葉は無く、ただ監督とコーチに向けて「…次の学校がアップを始めます。撤退しましょう…クールダウンは、玄関付近のスペースで出来ると思います。」そう小さくも確りと促せば監督は部員達を再度労った後、部員達へとコート外への移動を促した。控えの選手や同級生達が何か言いたげな表情を飛永へと向けていたが、其の視線に怯むことなく幾つかの荷物を持てばコートを後にするのだろう――コートを出て体育館の出入り口近辺で荷物を纏めたりバスを手配している中、試合に出た選手は黙々とクールダウンを行っている。暫くすれば其れも終え、選手達を壁際に座らせれば手配したバスの到着を静かに待つのだ。反省会も春高に向けての話し合い、ミーティングも彼等が落ち着いた頃、学校に戻ってからになるだろう。選手の中にはタオルを持っていない者も居り、其の人にタオルを手渡そうとしたが相手の視線は床に向けられるばかり。掛ける言葉も浮かばないから彼、副主将の頭に真っ白なタオルを被せ、ぽんぽん。と、タオルで覆われた其の頭を無意識の内に軽く撫で叩いてしまった。自然と行われた其の行動に自分自身に対して驚き、また呆れながもドリンクボトルを座り込む彼の足元に置いたなら「…赤葦先輩、ちゃんと水分補給して下さいね。」小さくも告げる声は此の際、彼に届いても届かなくても構わない。選手達から離れ、監督とコーチ、顧問の先生に今後の予定を確認すれば少し離れた部員達に其れを報告するのだが、其の時、何で負けたのに飛永は平気そうなんだ。悔しくないのか。悲しくないのか。そういった言葉を柔らかく告げられてしまえば双眸を瞬かせた後に其れを静かに細めて。)―…平気なワケ無いじゃん。三年や二年の先輩達の試合、見れる回数が…一緒に居られる時間が一気に減って…平気なワケ、無いでしょ。私以上に悔しくて、泣いてる人達が居るのに、其の人達と一緒に泣ける資格…泣いて良い資格が、私にあるとは思えない。―…アンタ達も、泣くのは此処だけにしときなよ?ずっと引き摺るのは、ダメだからね。もうインターハイは終わって、学校に戻ったら春高に向けて動き出すことになるんだから。(普段、緩み切った表情を浮かべている飛永である為、真剣な表情で、声音で告げる言葉を受けた部員達は少し以上に驚いたことだろう。少しして先の言葉を発した部員が謝罪して来たなら表情を微かに綻ばせ、「…謝んなくても良いよ。言ってくれてありがとね。」と、真っ直ぐに謝辞を告げよう。自分に対して感じたことを其の侭告げてくれるのは、自分達の仲間だと思ってくれているのだと飛永も分かるから。ほんの少しして学校へと戻る準備が整ったなら、既に泣き止み、前を向いて歩く先輩達の後を追うように歩を進めていこう。同級生達に対して偉そうな口を叩いた飛永だが、一所懸命に張り巡らしていた緊張の糸が切れるのは、学校の体育館に戻り、道具類を用具室へと全て運び終え、其の場に飛永が一人になった瞬間だった。其の場にしゃがみ込んで流れる涙を止める為に手の甲で拭ったり深呼吸を繰り返したりしてみるけれど、其れは無駄な行いでしかなくて――ほんの少しすれば涙は何とか止まるのだが、飛永が立ち上がって用具室を出ようとした時、其処に此方を見遣る副主将の姿があれば。)…ぅ、わ!あ、ああ、か、赤葦先輩、いつの間に…あ、あの、何か御用でしょうか?って、ミーティングでしたね!ミーティング!!終わったら先生が食事を奢ってくれるそうで…こんなとこに引っ込んでて御免なさい、直ぐに行きます!!(此れからの予定を思い出せば慌てふためきながらも言葉を発していこう。彼の反応次第では何とか止まった涙が再度溢れてしまう可能性も高いが、最終的にはぎこちないながらにも笑みを浮かべては用具室を後にし、彼と共に監督やコーチ、先生や部員達と合流するのだろう。其の際、目元が赤いことを色んな人に茶化す形で指摘されたなら「其処はツッコんじゃダメです。ツッコんだら何か色々と爆発?決壊?しちゃうので、スルーの方向でお願いします!」と、下っ端マネージャーは堂々と我が侭を言ってのける筈。)

…、うん、ありがとう。俺の自慢の、…チームだから。

 

(緊張と、興奮と、楽しさをもって、この高校総体全力で挑んでいた。時たまに主将の面倒くさいモードに突入してしまったこともあったけれど、皆でフォローし合いつつ勝ち進んでいくことが出来た。まだこの楽しさが続くのだ、なんて思っていた矢先だった。誰もが全力だった、最後の最後までボールを追って上げて、―結果。あと少し力及ばず相手校に惜敗したのだ。一度だって諦めなかった、最後までまだ勝てると思っていた。だからこそ、―悔しい。グッと握った拳には思っていたより力がこもっていたみたいでほんのり熱く、痛みを感じる。この悔しさをどうしたらいいのか分からず、一度ちらりと主将の方を見たのなら、悔しそうに、けれど真っ直ぐに見据えているの姿がそこにはあるのだからやっぱりこの人は凄いのだと見習うように前を見て、礼をするはずで。皆それぞれに複雑な表情を浮かべコート脇のベンチへと向かったのなら、我慢していたものがきれたのだろう、涙を流す者や落胆する者、それぞれが感情を露わにしていて。泣けることが出来たのならどれだけ良かっただろう。泣こうと思えば確かに泣けるのかもしれないが、存外赤葦は感情を表に出すことが下手くそなようだ。痛みを堪えながらも、涙を見せる同級生たちに謝罪と声を掛けるのか。―すると間もなくして、小さなマネージャーから労いとコート外へと促す言葉。冷静にも聞こえるそれは本来ならば自分たちが率先してしなければならないはずだ。彼女の気持ちを計り知ることはできないけれど一生懸命に真っ直ぐに応援してくれた彼女に言わせてしまったことが申し訳なくて、悔しくて、何やら言いたげな選手たちの頭を軽く叩いたのなら「行くよ。」と促してコート外へと移動しようか。――体育館の出入り口近辺にて、各々がすること、クールダウンなどを行い終えたのなら指示された通りに壁際に座り過ごすつもりで。同級生と話しながら待つ、という考えにも至ったけれどどうしたって、今は一人で考えたくて。―他のチームメイトも同じことを思ったのだろうか、殆どのものが静かにバスの到着を待っているようでほんの少しの安堵を感じてしまったのは秘密にしておこう。大切な、大切な一回が終わってしまった、どうしたって今負けてしまった事実は変わらない、引き摺るつもりもない、ない、  けど、。視界に入る地面はまるで抜け出せなくなるような沼のような感覚に襲われそうになる。と、ふわりと頭に被さり視界の端に垂れた白と暖かで優しい手の動きを感じて思わず目を見開いて、驚いていれば置かれたドリンクボトルと共に聞こえた声。少し顔を上げて見えたのは憎たらしいほど明るい空と、小さな背中。その背中を眺めていたら次第と視界がゆらゆらと揺らいで。顔をタオルで覆ったのなら、)……〜〜っありがとう。(震えた小さな声は、きっと彼女に届くことはないだろうけれど、それでも言わずにはいられなかった。――それからしばらくして、落ち着くことが出来そっと息を吐いたのなら、彼女が置いてくれたボトルに口を付けたり反省点を上げてみたり次の大会を思ったり主将のメンタルケア方法の追加やら、先ほどまで下に向けられていた視線はしっかりと上を、前を見据えている。うん、大丈夫だ。また気持ちを引き締めたのなら学校へと戻る準備が整ったとの事。すっかり前を向いている主将と世間話から次の練習の話をしつつ歩をしっかり進めていこうか。学校の体育館へと戻り返ってきたほんの少しの悔しさと安心感を抱きながら選手たちは再び体を休めながら反省会を行うのか。各々気付いたことを伝えたり出来なかったことに対して謝罪を伝えたりとどれも次の大会のための前向きな意見ばかりに違いない。それがしばらく続いたのなら、少し休憩してから全体で春高に向けての話し合いやミーティングを行うこととなった。各々が体を伸ばしたり雑談したり、先生が食事を奢るという話に大いに盛り上がったりとしている中一人、見当たらない人物が居て。いつもなら見つけられる姿がないものだから、違和感を感じつつ、そういえば道具類を運んでいたなと自然と動く足の向かう先は用具室――そこで小さな背中を見つけたのなら声を掛けよう、としたのだけれど、いつもよりも更に小さくなった背中を見てしまえば開きかけた口はきゅっと結んで。木兎さんなら、他の人だったなら、きっとうまくやれるのだろうけれど、そんな事を考えていれば立ち上がった彼女と目が合って思わず気まずそうに一礼を。)…い、や…ごめん。反省会終わって少し休憩になったんだけど…飛永いなかったから。ん、奢りはさっききいたけど皆すごい盛り上がってた。それと、少し休憩してから全体でミーティングってなったからすぐじゃなくても平気。平気だから。…飛永、(目許が赤らむ彼女を見遣れば、一度息を呑み、グッと拳を握り、)…ごめん。飛永、皆の事お願いって言ってくれたのに、俺ダメだった。応援してくれてたのに…、大切な時間、減らして、……でも、…(ふっと吐いた息。優し気に表情を緩めたのなら、彼女が自分をまるであの沼のような空間から救い上げてくれたように、ぽんぽんと優しく彼女の頭を撫で叩いたのなら、)まだまだ続くから。…まだ諦めてないから。だから、次は…一人で泣かないでください。(なんて我儘なお願いを伝えてみよう。「泣かせないようにはしますけど…」と情けなくも付け加えたのなら、まだ赤みの残る目許で笑む彼女にもう行って平気?と心配しつつ共に用具室を出るのか。合流後、やはり茶化されることになった彼女の堂々たる我が侭には、小さく笑みを浮かべながらもフォローに回る、はずだ。)