日生あい 風早
忠誠心篤い女官 大切な者を守る従者
02
風早せんせい、おひとつどうぞ!
(旅の空とは不思議なもので、出会いこそ驚いてしまうようなものだった日向の一族の彼らは存外に気の良い人たちばかりで、重ねる日々の中に紡ぐ絆は確かなもの。姫も気安い彼らといるとよく笑うから、嬉しい。そんな中、親交を深めるようになったのは特に、無口な渡り鳥の青年だった。元々女官であるという意識も手伝って家事全般に対する意識は高い方である彼女は、自然と食に関心の強いものと接することも多くなった。厨房を取り仕切ることはまだ彼に任せているけれど、――そんな中。昼の後に昼寝をする鬼道使いを見て腰に手を当てる姫に、少女はにこにこと笑って、)ひめさま、那岐が目を覚ましたら、いっしょに食べてください。(誰がいるかわからないから、と、堅庭では丁寧な言葉遣いを選択する。よかったら、と、小さな包みにリボンをかぶせて渡したのは、二人分のクッキー。)がんばりました。(褒めてほしそうな顔で笑うと、ありがとうと微笑んでくれる姫に今日も癒される。そんなやり取りの後、探すのは当然もう一人の幼馴染であり、教師役の彼の姿だ。さて、彼は何処にいるのだろう。どこでも可能性がありそうな彼を探すのは、大昔のかくれんぼうのようでちょこっと楽しい。別に彼に隠れているつもりはないのだろうけど。見つけ出したその背にあ、と、声をあげて、)せんせい、(綻ぶような声で彼を呼ぶ。風早さん、と、昔は呼んでいたけれど、教師としての彼に良くなれた今ではこの呼び名が一番心安らかになる気がする。とことこと近寄ると、その長身を見上げるように視線をあげる。昔から大きな人だったなあ、と、なんとなく思い返して、)あの、おひとつどうぞ。(そういって差し出すのは、リボンではなくシロツメクサを指輪にしたような格好で留め具として包んだ小袋だ。)きのみでクッキーを作ってみたんです。ひめさまが口さみしいこともあるっておっしゃってたから。ひめさまと那岐の分はもう渡してきてて、これは風早せんせいのぶんですからね。(ちゃんと渡しました、と、柔らかみを帯びた表情を少し自慢げに緩めると、ここで食べてくれるというならば大人しく感想を待つし、あとで食べるというなら「感想、聞かせてくださいね」と素直にお願いすることだろう。何といっても、彼が好んで食べてくれる味かは、姫の好む味か同様に気になるのだから。あ、それと、)この間は、ありがとうございました。やっぱりせんせいのお話はわかりやすいねって、ふたりで話したんです。また何かあったら、よろしくお願いします。(そのお礼の気持ちも込めての、現代で馴染みのあるクッキーをこの時代のきのみで再現してみたのだ。闘う事はあんまり得意ではないから、その分、彼らの心を支えたくて。お世話とお料理と、その他後方支援を、今日も精いっぱい頑張るのだ。大好きな人たちのために。)
ありがとう、俺は幸せ者だな。
(共に過ごしている日々で皆それぞれに交流ししかと絆を築き上げている様子。それは大事な姫も例外でなく、時折聞こえる笑い声にこちらも思わず笑みがこぼれる。笑顔が0ということはなかったもののどこか緊張しているような表情をよく見ていたため姫が笑っているとどこか安心してしまう。いつもと同じで姫に忠誠心の篤い一生懸命な女官にも、相変わらず昼寝をしている鬼道使いにも変わらず安心感は抱いているのだけれど。この幸せな大切な時間をもう壊されたくない、強く、人知れず籠めた思いを拳にギュッと握りしめた。――転々と船内を移動していたなら、ふと、後ろから自分の名前ではないけれど自分をそう呼んでくれている大事な幼馴染の声が聞こえてゆっくりと意味もなく進めていた歩を止めて振り向こう。思った通り女官の彼女が居たのなら柔らかな笑みと共に目線を合わせるようにして少し屈んだなら。)あい、どうしましたか?(今のこの一瞬で作られた幸せの時間を噛み締めるように小首を傾げ問いかけて、思いがけないサプライズプレゼントを差し出されたなら目を開かせ、)え、いいんですか?そうか…姫が…。(差し出されたクッキーが作られた理由を知り、忠誠心の篤い姫思いな彼女の事を考え納得してしまう。嬉しそうに口元緩めたなら、)ありがとう、それじゃあいただくよ。(自慢げに緩めた彼女に偉いねと頭を数回撫でたなら、差し出されたプレゼントをしかと受け取ろう。まるで宝物を扱うかのように大事にしたなら「今、一つ食べてもいいかな?」と声を掛けて一つ一つ丁寧に丁寧に。シロツメクサの留め具も無くさないように潰さないようにと優しく手に持って、クッキーを一つぱくり。ゆっくり噛み締め―)うん、とても美味しいです。俺、好きです。(本心で彼女にそう告げたなら、改めてありがとうと感謝の気持ちを一つ。なんだか全部食べてしまうのが勿体なく感じてしまうけれど、ちゃんと全部堪能したい気持ちも嘘ではないから―。)俺たちにしか作ってないんですかね?それだと、皆に見られると大変になりそうなので後は自室でいただきますね。(誰にも取られまいとしたなら、彼女のお礼の言葉にはまた笑みを浮かべて、「とんでもないです、」なんて。十分なくらいに自分の気持ちをすくってくれている彼女にこちらがお礼を言いたいくらいなのだから。―彼女か作ったきのみで作ったクッキーとシロツメクサを見つめながら、)あい、俺こそ。いつも幸福を、ありがとうございます。―今度、俺の作った土器を、差し上げたいので、…その時は受け取ってくれませんか?(もしも、彼女が遠慮してしまうのなら申し訳ないけれど無理にでも渡してしまおうか?―きっと困らせてしまうけれど、自分の感謝の気持ちが少しでも伝わればいいのに、)
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