シンシュ ドンキホーテ・ロシナンテ





サラサラの実の能力者 ナギナギの実の能力者

02

…そんなドジばっかりで大丈夫なのかァ…?コラソン、……結構、笑えるけど。


(毎夜うなされる悪夢には、変わらず暴力的なまでの桃色が侵食していた。或いは赤。或いは金。同じ色ばかりに支配される生活に唐突に訪れた“転機”は、まるで夢のようにおぼろげだった。桃色よりも暗いトーンを持つ筈の漆黒は、視界に入る度にざわざわと胸を騒がせる。あの日、漸く見つけたこの海賊団の“例外”――“かもしれない”人物は、そんな素振りを見せることもなく、ただただ変わらずに小さな失敗を積み重ねている。滑って、こけて、燃えて、落としたり落ちたり、バリエーションに富んだ“ドジ”は、悪名轟く海賊団の幹部のものとは到底思えない。――だから、つい、気が緩んでしまって、) ははっ、( 板の掃除でもしていたのだろう。水の巻かれた板の上で見事に巨体が転げる瞬間を目にして、唇からは笑いが漏れた。――いつぶりに、笑った?少なくとも此処に連れて来られてからは初めてだ。思わず自分の声かと疑い、床の上の彼を見つめ固まっていた瞳は、すぐ傍らから響いた幼いソプラノに奪われた。「!いっ今!シンシュが!笑っただすやんか!?」「え〜っっ!はじめてみた!」)……わ、らってねーよ。…おまえたちの声じゃね?(口ぐちに上がる素直な驚きの声に慌てて引き締めた唇が紡ぐ苦しい言い訳。何の言い訳だ。長い髪で表情を隠すように視線を逸らせば、また、視線は赤い頭巾へ。)………、(爪先を数歩動かす。この数か月貼りつけ続けていた真一文字を再び唇に乗せたまま、腰を屈めるまでもない体格差の彼を見下ろしながら差し伸べた手に、彼はどんな反応を返すだろう。―――朧の記憶。冷えた指先を包む感触は夢だったのか否か。彼が掴めば手を引いて、掴まれなくても別に構わない。背後の子供たちに気を遣いながらそっと近付けたかんばせは小声で「話したいんだが、」の要望と共に、その双眸を見つめた。)(―――――さあ。彼が応じれば、人気のない場所に移動することになるだろうか。其処が何処であれ、真っ直ぐに見つめた瞳で告げる第一声は勿論、)なんで俺を助けてくれてたんだ?……別に放っとかれても死にゃしねーのに、(“なんで”の1つ目。海賊の総てが救いようのない悪とは思わないけれど、相対してきた“敵”は少なくともその例外ではなかった。「……それとも、オニイサマのご指示?」 ゆうらり。僅かに瞳を揺らしてそんな可能性を小さく問うのも、海賊への印象の悪さが故に他ならない。でも、ちがう、と、直感が願っている。)…あーあとなんで話せないふりしてんだ?“家族”なんだろ?…あんたに関しては、ほんものの。(仄かに浮かんだ不安をかき消すように重ねた質問は、今迄捕えてきた海賊団とは異なる絆を匂わせるこの海賊団の“幹部”に向けて。尤も、他の誰かと言葉を交わすことのない彼の心情は、誰にも増して読み難いものだけれど。小首を傾げれば揺れる白糸は、等しく白い肌の上を擦る。――顔には、あまり傷をつけれらない。首から下、衣類の隙間から覗く数々の傷を無意識に擦り乍ら、ふと、俯いた。)……なぁ、コラソン…でいい?…助けてくれとは言わねえから、たまに話し相手くらいになってくれると…うれしい、(囁き声よりは少し大きな声音は内緒話をするように、ちいさく願ってみせる。海賊になにを言ってるんだ。自嘲する微笑も微かに浮かぶけれど、)…なんかあんた悪い奴じゃなさそうだから……とか、単純に思いすぎかな?(其れに上乗せした唇の弧は、微笑みと言うにはあまりにささやか。淡緑を揺らしながら見上げる彼の返答次第でその弧の深さも変わるだろう。――牢獄の中で、ひそやかに。縋るは正か誤りか。)

……、(”心配されるようなモンじゃない。 わらうな。”)

 

(あの日以来何も変わらない。今日も今日とてきっと変わらない。何故かバナナの皮が置いてありそこに足を置き滑ってしまったり、何故かマンホールの蓋が開いていてマンホールの中に落ちてしまったり、煙草を吸おうと火をつけようとしたら服まで燃えてしまったり、熱いお茶だと言われ気を付けて飲んだのにも関わらずやっぱり熱くて口から噴水の如く噴き出したり、度重なるドジ―否いっそのこと不運と言ってしまえばいいのだろうか。気を付けようとするときには既に事が起こっているのだから気をつけようもない。そんなドジが毎日のように起こるのだからもう慣れてしまうほかないだろう。せつない。今日も、板の掃除をしようと板に水を巻き、これは確実に気を付けないと転ぶ、そう思い事が起こらないように足元に気を配りいつも以上に気を配っていたのにも関わらず、だ、――ずってーーーん!!2メートル以上、3メートル近い巨体の男が板の上を転ぶ大きな音は果たしてどこまで響いたことだろう。…?????!何時も以上に気を付けていたはずなのになぜ?驚きのあまりほんの少し目を丸くして数秒固まってしまう。転んだ時ぶつけたのだろう後頭部がずきずき痛み思わず手で押さえながら上半身だけ起こして周りを見渡し確認しようとし。声は出すことはしなかったけれど、またドジをしてしまったことに対しての羞恥か、はたまた確認する癖か。ふと、影が出来た為先にそちらを確認すると、そこには見間違うことがない、まったくと言っていいほど自分からは絡んで来ようとはしなかった彼の姿に差し伸ばされた手があるのだから驚き少し目を開いた事に彼は気付いただろうか。なんで?彼がおれに?そう考えたけれど、あの日の出来事が一番に思い浮かんできて、なんとなく察することが出来た。―彼は、朧気ながらにあの日の出来事を覚えていたのだろう。そんな、何とも言えないむず痒さをかき消すかのに差し伸ばされた手を素直に掴んだなら、手を引いてくれ、足に力を入れて今度は巻き込んで滑らないように気を付けながら立ち上がった。そして、小声で聞こえたそれにちらりと後ろにいた子供たちを視界に居れる。自分が隠れながら話しているところを彼は見ていたのだからきっと気にしてくれたのだろう、そんな気遣いに小さくうなずいて見せた―。)……、(人気のない場所へと共に移動してきた。子供たちもついてきていないことを確認したのだから本当に彼と二人きりだ。真っ直ぐな瞳に思わず逸らしてしまいそうになるけれど、そうするのは勿体ないと感じるほど力強く綺麗な瞳に、ふぅ…と息をついて念のためにと指を鳴らし”サイレント”、透明な防音壁を作ったなら、)……なんで、あの日もそう言ってたな。…残念ながら、期待をするような答えは出せない。おれはただアンタをあの部屋に戻しただけだ。(それだけでは助けたことにならない。開いた口から出た言葉はやけに重々しい。海軍でもなければ敵でもない相手と話すのはこんなにも緊張するものだったか…?オニイサマの単語が出たならぴくりと反応し、「そうだったらよかったか?」なんて目を細め問いかけよう。本気の言葉ではないけれど、もしかしたら彼が兄上に執着があるのではという確認も含めて。重ねられた質問に一度視線を外し、)…ドフィがそう勘違いしてるんだ。だから、これでいい。…家族、だから。(自分が海軍であること、そして兄を止めようとしている事、大事なことは伝えてはいないけれど今言えることはそれだけ。それだけなんだ。耐えられなくなった空気に煙草を吸おうと火をつけたなら服に一緒に火が燃え移ってしまったのだか慌てて消した。―何をひとりで愉快なことをしているんだ!はあああ、深いため息ひとつに煙草を吸いながら彼を見る。無意識のうちにか傷を擦っているところを見ると無性に悲しく、何もできない自分が何よりも悔しくてたまらなくて、再び視線を外そうとしたなら聞こえてきた願い事。驚いてうっかり煙草を落としてしまって、)…な、なに言って、…馬鹿だな、悪い奴じゃないって、なんでいえる?おれは、あのドフィの、血の繋がった家族だぞ?…… 単純なんかじゃない。   純粋すぎるんだ、シンシュは。(落ちた煙草を足で踏んで消したなら、照れくさそうにガシガシと頭巾越しに頭を掻いて何とも言えない下手糞な顔で笑って見せたなら、「好きにしてくれ、」そう伝えよう。少しでも彼の救いになれるのならそれがいい。いつの日か彼をこの海賊団から逃がせるときがくるその時までその傷だらけの体にこころも出来る限りまもりたい。自分の目的に彼を巻き込まないように、)