倉石舞良 御幸一也
おっとり女子高生 天才キャッチャー
01
御幸くんのメガネとった姿、見てみたいなぁ。
(今日の野球の試合は完封試合だった。――彼のチームの圧勝だ。その勝因は彼の活躍もおおいに関係があったといっても過言ではないだろう。もちろん自分も観戦しに来ていた。高校生になり、再会してからというもの彼の試合を応援しに行かなかった日はない。最近忙しそうにしていて、ゆっくりと話す機会もないままだけれど、野球をしている彼はキラキラとしていた姿を遠目でも見ているだけで倉石の胸が焼けるように熱くなる。続々と着替え終わった選手たちが出てきて、大勢の女子たちのきゃーきゃーと黄色い声が響き渡る。おそらく大半は彼目的であろうと思われたが――懸命に彼の姿を探し、とらえたなら、女子たちの波に揉まれながらも彼の前に踏み出そう。)……御幸くん、お疲れさま。今日の試合、すっごい良い内容だったね。カッコ良かったよ!(野球については基本的なルール程度しか知らないが、それでも彼の活躍は見て取れた。声を弾ませながら少しの逡巡ののち、おずおずと手に持っていたリボンであしらった小さいバックを差し出して)これ、はちみつレモン作ってきたの。王道かもしれないけど…ほら、わたし料理苦手だからさ。でも、御幸くんに何かしたいな、って。まあ、気持ちだから!とりあえず受けとって!(まくし立てるように早口で告げるのは、己の恋心を隠すためか。壊滅的に料理が苦手なせいで、たったこれだけのものであっても両手の指は絆創膏だらけだ。もしかしたら人気者の彼のことだから他の女子からもそういった差し入れをもらっているかもしれない、なんて思いも過ぎったがそれを振り払うかのように――意を決したように彼の瞳を見据えて、)あのね、疲れてるとは思うんだけど…今日一緒に行ってほしい場所があるんだ。小さい頃……、一緒によく遊んだ空き地があったでしょ。野球の練習とかもした…あそこなくなっちゃうんだって。だから最後に御幸くんと見に行きたいなぁって。(昔は御幸くんではなく「かずくん」と呼んでいた――そんな日々にはもう戻れないのかな、と寂寞した切なさを示すように伏し目がちになりながらも、半ば強引に彼とともにその思い出の地へと赴くのだった。)
んー?なら、ずっと俺の事見てねぇとな。
(どの試合も、誰が相手でも手を抜くことはしない、それは当然のことなのだろうけれど。どの学校も勝ち負けに拘りがあるのはわかっているが、野球の強豪、王者である我が学校は伝統故か先輩たちの影響かより強いものに感じる。自分が通ってその空気を感じているからよけいにか。―今日も野球の試合を行い、相手選手の観察・データを頭の中に入れつつ投手に配球指示を行い野手にも協力してもらいながら完封試合をすることが出来た。この学校の野球の実力、また絆のような強さを感じながら満足げに皆と着替えをしよう。「先輩!次はー」目をキラキラさせ着替えながら絡んでくる後輩を軽くあしらいながら着替え終えたなら「んじゃ、お先ー。早く着替えろよ」にやにや、と笑顔を浮かべながら手を振り、一緒になった同級生と共に出口へと向かうのだ。応援に来てくれたのであろう女の子たちに「どうもー」と笑顔を浮かべながら手を振っていたなら、ふと前に幼いころから知っている彼女の姿が見えたものだから嬉し気に笑ってみせて、)よっ、倉石。ありがとうな、観に来てくれて。(声を弾ませている彼女になんとなしに楽しんでくれたのだろう事は伝わって安堵してしまう。格好悪いところを見せる事にならずに済んでよかった、と。いつも自分の試合を観戦しにきてくれている事は知っていたし、そんな彼女を見つけられないときはなかった。―時にこうした試合後の帰りの時だったり、試合中の観戦席だったり。最近ではどこにいるかと姿を確認することが自分の一つの楽しみになっているの事はきっと彼女は知らないのだろう。所謂幼馴染と言える彼女は御幸にとって大きな支えなのだから。――小さいバックを差し出されたのならきょとんとしつつ、受け取ったのならちらりと見えた彼女の指に巻かれた絆創膏に、ふはっと噴き出し笑って、)ん、どうも。疲れた後にはちみつレモンは最高だわ!……はちみつレモンじゃなくてもお前からは十分気持ちもらってるけど、……すっげぇな、絆創膏。(料理苦手な彼女が一生懸命作ってくれたのだろうそれが十分に伝わってぽつりと呟いた言葉。そこには嬉しさがにじみ出ていたことだろう。「これ、一人で食う。」取られないように、彼女の顔を真っ直ぐに見てそう伝えようか。次いで切なげな彼女の様子に、驚きつつもそうか…と、いずれそうなるとは分かっていたもののやはり様々な思い出が切なさを深くしてしまうのだけれど、)平気、それに倉石が作ってくれたはちみつレモンもあるし一緒に行こうぜ。俺も、見たい。(強くうなずいたのなら、一緒に出てきた他の女子に絡まれている同級生に「悪ぃ、俺ちょっと行くからよろしくー」と一言告げ彼女と共に思い出の空地へと向かうのか。道中、小さいころの、空地での思い出を一つ一つ二人で確認するように話しながら向かうはずで。例えそこの景色がなくなってしまったとしても、思い出が消えるわけではない。覚えているから、忘れる事なんてないのだから。―まいら!空き地着いたら久しぶりに、キャッチボールしようぜ。この場所がなくなったとしても、また、消えることのない新しい思い出を作っていこう。)
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