倉石舞良 御幸一也





おっとり女子高生 天才キャッチャー

02

御幸くん、今度わたしに料理教えて。そして毒味…味見して!


(女の嫉妬は恐ろしい。そんなものは古今東西で、知っていたはずなのに――。あれから一緒に昔一緒にキャッチボールした空き地へと赴いて、また昔と同じように距離感を感じずに親しくするようになった。そして季節は瞬く間に巡り、三年生になった。彼はキャプテンに任命されてますます忙しい日々を過ごしているようだ。応援はもちろんしているし、どんな些細なことだって力になりたいといつも思っている。たまに声がどうしても聴きたくなって、夜電話してしまうことはあるけれど、自惚れではなければ彼も自分と同じく恋かそれとも単なる家族愛かは判りかねるけれど、少なからず好いていてくれているはずだ。なるべく彼の負担にならないよう接している倉石ではあったが、キャプテンになった彼はさらに女子の人気が沸騰したある日の放課後のこと、女子の集団に呼び出された。――「生意気なんだよ!」「彼女ヅラしやがって…!」嗚呼、これがイジメというものなのかと殴られながら遠のく意識の中で倉石は思った。幼馴染というポジションも、彼の恋人の枠を誰かに譲りわたすということもしたくはないというプライドなら誰にも負けない、それだけが自分を支えていた。――無抵抗の倉石を見て首謀者の女子達もさすがにまずい事態だと思ったのか、そそくさと退散していく。ふらふらとおぼつかない足取りで無意識に向かったのは、もう毎日のごとく行っているグラウンド。ああ、今日は彼も後輩たちに指導している。)すっかりキャプテンっぽくなったなぁ…、かずくん。(制服は見るからにボロボロ、女子の命である顔も血がにじむ擦り傷だらけ。幸いなことに今日は周囲に人がいなかったから練習の終わりまで気付かれなかった。練習を終えた選手達がぞろぞろ出てきて、「キャップ!ちょっといいスか!」「何?球なら受けねーぞ」という彼とその後輩のいつも通りのやりとりを微笑ましく聞きながら、そろりと彼の前に出る。)おつかれさま、……あの御幸くん、絆創膏ない?消毒液も。(困ったように笑いながら、おずおずと申し出る。頭脳明晰な彼が倉石のボロボロの姿を見て何も勘付かないとは思わなかったけれど、どうしても彼に甘えたかった。彼に倒れこむように抱きついたなら、ダムが決壊したかのように涙を流して。)うっ、……うっ、かずくん、怖かったよおぉ…。わた、わたし……かずくんのことただ好きなだけなのにっ。かの、かのじょになろうだなんて思ったりしてないのに……。だめなのかなぁ、わたし……好きになったりしたらだめだったのかなぁ……。(迷惑はかけたくない、だけど、彼が好きな気持ちはどこからともなく溢れ出てくる。こんなみっともない告白するつもりじゃなかったのにな、と思いながら、倉石の涙を止めるのは幼馴染の、目の前の彼だけだ――。)

はいよ、…って、毒味って聞こえたけどどうなの、不器用なまいらちゃん?

 

(まるで幼い頃に戻ったかのようにキャッチボールをしてから早数か月。三年生に進級して彼女とよく遊んでいた思い出の地は残念なことになくなってしまったけれど、彼女との交流は増えて以前のようなぎくしゃくとしたような気まずさはどこにも感じられないだろう。心地よい距離感に甘え彼女の存在に支えられているのは事実だ。三学年になる前から騒がしい後輩たちは変わらないがキャプテンに任命されてからというもの前とは違った忙しさがあって。疲れたと思う日はあれど、たまの夜電話、聞こえる彼女の声に癒されたり随分彼女という存在に助けられているな、と誰にも気付かれないようにと小さく笑みを浮かべる。――そんな忙しい日々を過ごしたある日の出来事だ。最上級生となりまたキャプテンとしての責任感や王者の重みを感じながら、相も変わらず突っかかってくる後輩には呆れながらもちょっとしたアドバイスと共に茶化すのも忘れずにいつも通りの部活を終えた。「疲れたー腹減ったー」「この後自主練を…」と各々が口にしていてそれを横で聞いていれば絡んでくるお馴染みの後輩。)はあ?お前なー今日はしっかり体休める事。休まないと投げたい球も投げれなくなんぞ。はい、大人しく部屋に戻る戻る。(楽しげに、ブーブーと文句を言う後輩たちに笑いながら声を掛けていれば、ふと前に出てきた女性、と落ち着く声が聞こえてそちらに顔を向けて声を出そうとした口は開いて止まった。傷だらけの彼女の姿になんとなくでも察せられる状況。動揺したように目を見開けば何も気づくことのできなかった自分の悔しさが拳を握る力が強まるのを感じて。でも平然と、後輩が驚いているような顔でこちらを凝視しているものだからその姿を隠すように彼の前に出たならば、)ん、今は残念ながら持ってないんだよね。てかさ、あれ、盛大に転んだのか。(ぽんぽん、と優しく頭を数度撫でたのなら、一度振り向き同級生に凝視している後輩をどっか連れてけとシッシッと手で合図したなら、連れてかれた後輩に安堵しながらもう一度彼女に向き合って、しっかりと体で彼女を受け止めたのならそっと抱きしめて落ち着かせるようにと背中を数度撫でて。)悪ぃ。怖い思いさせたの、俺のせいなんだよな。こんな酷い事今までなかったから、安心してたのもあったんだけどな。何も、…できなかった。(ごめん、まいら。再度強く抱きしめたならそう呟いて。少しその場を離れ人目のつかないところへと移動したのなら彼女の涙が止まるまで胸の中に彼女の温もりを閉じ込めておくつもりで。着ている服がたとえ涙で濡れたとしてもその行為を拒絶なんてしない。出来るはずがないのだから。)―ふ、ははっ。てか、俺今熱烈な告白されたって思っていいの?なあ、答えは欲しい?(ふっと彼女の顔を覗き込む顔は、どこか意地悪な笑みを浮かべているはずで。さて、自分の言葉に驚いて涙が引っ込むくらいの力はあっただろうか?きっと答えが欲しいなんて言われても笑ってはぐらかすつもりなのだけれど、今はこの何とも曖昧な心地よい距離感にただただ甘えて―。)