麦 皆本金吾





素直になれないお姉ちゃん 泣き虫弟

02

金吾坊ちゃまも、強くなったんですねえ。


(彼と連れたって母への挨拶を終えたなら、そのあとも存分に彼の話を聞いて時々茶々を入れてからかったりもしつつ、翌日。一週間ほどは滞在してくれるそうだからまた彼の話を聞いてみるとしようか。男勝りの彼女は、これで案外彼の小さかったり大きかったりする冒険譚を好んでいる。――勿論、彼が楽しそうに話しているのを見るのが楽しい、なんていうのは誰にも内緒。)おはようございます、金吾坊ちゃま。(朝餉を終えた彼にそうやって挨拶をしたなら今日の予定を聞こうとしたところで、わあッと家人たちが彼を取り囲む。やれ彼の剣豪戸部先生の師事を、だの、お強くなったとか、だの、どうやら彼のあいさつ回りがひと段落終えるのを今か今かと待っていたらしい。そうして辛抱しきれなくなって彼を取り囲むあたりどうなのだろうか。やいのやいのと中庭に運ばれていく彼をこれだから男の人は、なんて呆れた目で見守って、一刻。)…金吾坊ちゃま?お疲れですね?(それから、囲まれて稽古を付けられてもみくちゃにされていた彼を程よいところで救出して、冷えた水を差し出しながら。)…でも、お強くなられたんですねぇ。私が何か言うとすぐぴぃぴぃ泣いてたのに。結局泣かなかったじゃありませんか。(昔は手加減も知らなかった勝気な娘だったから、本当によく彼を泣かせた。意地悪を言ったりもした――けど、武家の子なんだからこんなことで泣かなくても、とも思ったりもした。懐かしげに眼を細めて一拍置いてから、目の前の彼を見る。)今の坊ちゃまを見たら、誰も泣き虫金吾なんて言えませんよ。………私以外は。(悪戯気にそんな言葉を付け足した。剣術の腕前も強くなったし、昔だったらきっと家人に囲まれている端から涙目になっていただろう。根性もついた。なんて、上から目線はきょうだいの特権として許してほしい。でも、どんなに立派になっても、皆本金吾は麦の自慢で、可愛くて、ちょっといじめたくなる弟分。)頑張りましたね、金吾坊ちゃま。(えらい、えらい。そうやって彼の頭を撫でる仕草は、昔、彼が近畿まで行ってしまう前に、泣かせた後に根性をちょこっとでも示した時とよく似ていて、少し違う。親元を離れた事なんて少女にはない。こんなに成長して彼が帰ってくるとは思わなかった。だから、――悔しいけど、忍術学園っていう場所は、彼の大切なところなんだと認めるしかないのだ。)

もちろん、ぼくだって成長してるんだから!

 

(帰郷した際、ご挨拶を終えることが出来なんだか逞しくなったのでは?なんて言葉をいただけ嬉しさを隠すことが出来そうにはなかったけれど。相も変わらずからかってくる彼女には、むうっと拗ねることはしてもどうしても嫌いになれないのは姉として尊敬しているからか。不機嫌になることも隠さずに居られる彼女は大きくて心の支えと言っても過言ではない大事な存在であるのだから。そんな彼女に剣術を見てもらったり談笑したりして終えたその翌日―。朝餉を終え、今日は剣術と…でも周辺の散歩にも行きたいと予定を組み込んでいたなら、)あ、おはよう!…って、わあああ!!(入ってきた家人に声を掛けたのも束の間。あっという間に取り囲まれ「え?え。ちょ、ちょっと!う、嬉しいけど、ちょっとお!」情けない声と共に、やいのやいのといつの間にやら中庭へと運ばれていたのだから慌てつつも離れていた間これほど自分は強くなったのだと先生を師事し学んだ剣術披露するべく稽古を付けてもらおう。―ある意味予定が達成されたような、嬉しいような、なんとも言えない気持ちに、ぜえはあと肩を上下させながらもあの場から救ってくれた彼女から差し出されたものを受け取り口、体を潤わせよう。)はあ、おいしい。ありがとう麦姉!うーん、やっぱり少し疲れたけど、でもぼくの入ってる体育委員会も同じくらい大変だから。(なんて学園生活の一部分を思い出しては汗を拭いながら楽しげに笑みを浮かべるのだけれど。聞こえた彼女の言葉には今度は苦笑いを浮かべることになってしまうのは許してもらえるだろうか。)うん、麦姉がそう言ってくれるとさ、強くなったんだって思えるよ。……そ、それはさ、だって…麦姉がすぐ意地悪なこと言ったり……(もごもごと、はっきりと言えない言葉は小さなそれで図星だ。視線を逸らしながら泣き虫だと言われていた日々を思い浮かべてなんだか恥ずかしくなって。)そうだといいな。ぼく、泣き虫なんかじゃなくて…もっともっと、強くなりたい。……もう、麦姉…!!絶対、麦姉にも認めてもらえるくらい強くなるから!(待ってて、ぼくのこと見てて。そう真っ直ぐに彼女の目を見て伝えたのなら、真剣な顔から一変、撫でられた頭の感触になんだろう、なんだかちょっとした気恥ずかしさが出て、じわりと頬を色づけていくのだ。拒むことなく、そのまま受け入れながら顔を少し見られないようにと俯かせながら。どうか、彼女が気付きませんように、そんなことを祈りながら。魔法のような彼女の言葉。暖かなそれに、頑張ろうとまた心に決めて。)