リズベット・マルティン ユーリ・ローウェル
「護り人の集い」 「凛々の明星」
02
ねぇ、ユーリ。貴方の今の仲間は、貴方にとってかけがえのないものと言える?
(懐かしい邂逅からの楽しい食事会はほどほどの時間でお開きとなり、店の前で「じゃあまたね」とお礼共に別れた後。何事もなく帰宅し迎えた早朝の自室で身支度を整え、食卓席に着くと既に目の前に座っていた父が「昨日帰って来たばかりですまないんだがな、」と紙を一枚差し出してきた。近所に住む子どもの母親からの依頼のようで、祖父母が済むハルルまで護衛をしてほしいというものであった。急な依頼で手隙の者がおらず、自分に白羽の矢が立ったと言う訳である。整った顔立ちで赤毛が美しい母親と母親譲りの髪と可愛らしさを持つ娘は近所でも評判の親子だった。その少女は幼いころから「お姉ちゃん」と慕ってくれており、今もよく話をしに来てくれる妹のような存在だ。その関係を見てか母親もよく親切にしてくれる。そんな彼らの依頼を断る気になどなれず、苦笑しながらも快諾の旨を父へ伝えた。出発時刻であると伝えられた昼過ぎまでに支度を整えなければと、慌ただしく追加の買い出しや荷物を準備し――その結果、出立の時間まで暫く余暇が出来てしまった。することもなく、思案したすえに思いついたことは)――おはよ、まだ旅だってなかったみたいで良かったわ、ユーリ。(昨晩の折、宿泊している宿を話の流れで聞いていたことを思い出した。まだ午前中、運が良ければまだいるかもしれないと彼らがいるであろう宿屋へ足を運んでみたのである。受付で部屋を訪ね、ノックと共に「護り人の集いのリズベットです、ユーリさんいらっしゃいますー?」とイマイチ抑揚のない適当な投げかけにドアが開く。ドアの向こうにいる彼に微笑みかけて、)急に訪ねてごめんね。今日休みだったのに急な依頼が入って、もう少ししたら街を出ないといけないからユーリとフレンの顔を見に来たの。次にいつ会えるか分からないし、フレンが驚く顔も見たかったしね。(悪戯っぽくそう言うものの、すぐに眉を緩やかに下げると心配の色を浮かべた瞳で彼を見つめる。微笑は崩さず、「言っても無駄かもしれないけど」と言いたげなニュアンスを含んだ表情で片手を腰へ当てると口を開き、)これから先、なるべく無茶したり1人で抱え込んだりしないでね。1人じゃないから、死ぬようなことはないと思うけど…昨日色々話を聞かせてもらって、なんだか今の貴方は何かあると一人で走って行って無茶しちゃいそうな気がするなーと思っちゃって。…まぁ、私も魔物討伐の時に切り込み隊長やったりするし戦闘好きな方だし?堂々と人のこと言えなかったりするんだけどね?(彼から耳にした旅の話や離れていた間の話を聞いた印象だけではない、話を語る人間そのものが纏う雰囲気を見て、昨晩心配になったのだ。長く会うことがなかったとはいえ幼馴染、特別な思い入れがある故に生きていてほしくて余計なお世話かもしれないと思いながらも、伝えておきたかった。結局、真面目な空気を壊すためにあっけらかんと笑って、己も他人事ではないと言うのだが、)お互い生きて会えたら、また飲みましょ?あぁでも、場合によっては一緒に戦うのも楽しそうね。貴方、だいぶ腕が立つようだもの。共闘の縁があればぜひよろしくね。(ちらりと、部屋の奥に据えられたテーブルの上にある、彼の獲物へ視線を走らせるながらそう言った後、「じゃ、ちょっとフレンに会わせてね」と一言言うと彼の肩越しに目当ての人物へと声を掛けた。昔からあまり変わった印象のない風貌に顔を綻ばせ、対面した真面目な彼との再会をひとしきり楽しんだ後に「それじゃ、これからお仕事いってきまーす!」と茶目っ気を含ませたウィンクを置き土産にその場を後にしようか、)
かけがえのない、ねェ。さあて、どうだろうな。
(幼馴染との再会。幼い頃の思い出話からこれまでの話、今している事はざっくりとした感じで話をしながら語っていく。会っていなかった10年は長く、この食事会だけではまだお互いの事を語り知る事はできなかったものの、楽しい食事会の時間はあっという間に過ぎ終わりを告げた。店の前で「ああ、またな。次は何年後に会えるかね。」なんて肩を竦めながら冗談を意地悪い笑みを浮かべながら別れよう。端の方で今もなおじっと待っていた相棒に謝罪をしたのなら共に宿へと戻るのだけれど、「なんだかご機嫌ね。気味悪いくらいに」宿へと到着するなり遭遇した魔導士に怪訝そうな顔でじろじろと見られたあたり、思っている以上に懐かしき邂逅に浮かれていた様子。なんだか気まずくなり「そうか?」なんて咄嗟に誤魔化してもう一人の幼馴染が居るであろう部屋へと入ったなら彼は既に体を休めるためにと床に入っているのだから、思わず肩を落としてしまうことになるのだ。彼女の存在を彼にも早くに知らせようと思っていたそれは深いため息へと変わった。けれど、彼女に会えたちょっとした優越感に言わなくてもいっそこのままでもいいのではなんて考えてしまったのは自分の中だけの秘密だ。―それから翌日を迎え、大きく伸びをして横を見れば既に旅支度を始めている相変わらずの真面目さに呆れでもなくもはや笑いがこみ上げてくる。皆各々に起き始め昼過ぎ頃にでも出るようにしようと計画を立て、宿を出る準備をしたり談笑したりと過ごしている最中、ふと聞こえたノック音に声、「…あ?」まさか、とは思ったが聞こえた尋ね人の名前にベッドに下ろしていた腰を上げ開けたドアから見えた彼女の姿に思わず目を開き、けれど一瞬で驚きを悟られないように軽く手を挙げ挨拶をしようと、)よう、リズ。まさか昨日の今日で会えると思わなかったが。気にすることねェよ、こっちは後他の奴らの準備待ちと昼飯食うだけだし……ああ、急な依頼か。なら仕方ない、気ィつけろよ。お前がこうしてこの町で生きてるってわかっただけでも収穫モン。ここにはまだ世話になると思うし、…ここじゃなくてもいずれ依頼でどっかの町でも顔合わせられるだろ。でも、確かにその偶然がいつになるかはわかんねェし、こうして挨拶来てくれたのは嬉しかった。……、あ、それと昨日戻ったらフレンの奴もう寝てて起きたら忙しなく準備してたからリズのことまだ言ってないからすっげぇ驚くと思うぜ。(彼の驚くさまを想像して楽しげに笑いながら伝えよう。けれど、直ぐに彼女の変化に気づき、「どうした?」と問いかけるのか。自分の口から出た言葉はらしくもなく優しさがにじみ出ているようでどこか気恥ずかしくなりながら、)……、なるほどね。(彼女の言葉を聞いてぽつりと呟いた言葉。自分自身にも届くか届かないかくらいの音量のそれは彼女に届かないようにとひっそりと漏れ出てしまったのだけれど。長らく離れていたとはいえどうやら彼女は己の事をよく理解してくれている様子でなんだかむず痒くあり、そっと彼女から視線を逸らして、)でも、心配しすぎ、気にしすぎ、リズが言ったけど1人じゃない、俺も分かってるよ。(とってつけたようなそれを彼女に告げたなら奥に潜む本音は隠すつもりで、――)そうだな、生きてりゃ会えるし飲める。なんなら手紙でも書くか?…切り込み隊長やるくらいだから、リズもそれなりに強いんだろ?まずは手合わせ願いたいね。(共闘するのも楽しそうだと挑戦的な笑みを浮かべれば、「準備落ち着いたみたいだしいっぱい驚かせてやってくれ」、そう言い彼に声を掛けた彼女の背を見て、先ほどの真面目な空気を思い出してはやっぱり幼い頃とは変わったんだなと、目を細め笑みを深めて―。)じゃ、死ぬなよ。(自慢の幼馴染、生きているとわかっただけでホッとし会えない時間が長くとも自分を理解してくれているリズベット。大切なものが守らなければならないものが増えた。それは、とても心強い。―それから一つ一つの町に寄るとふとあの面影を探すようになったのは、きっと仕方のない事。)
HOME