リズベット・マルティン ユーリ・ローウェル
「護り人の集い」 「凛々の明星」
03
ユーリ。もし手合せするなら、やっぱり得物がある方がいいかしら?私としてはステゴロがいいんだけど。
(「死ぬなよ」そう彼から貰った一言を胸に別れて以降、ハルルへの護衛の依頼は大きな怪我や事故も無く、ほんの数日で終わった。それからも数日置きに休暇を貰いながらギルドとして働いていた折、今度はデズエール大陸のノードポリカへ向かうことになった。闘技場で使用する魔物の頭数が不足したため、その捕獲作業の手伝いをしてほしいという依頼内容だ。どうも戦士の殿堂も人手不足らしく、己が十数名のギルドメンバーを連れて行く予定なのだが――。柔らかい潮風がそよぐ穏やかな夜だった。星と月、そして結界の輪が煌めく晴れた夜空の下、散歩がてら歩いているとスゥッと刺さるような、それでいて静かな殺気が背中を貫くの感じた。出所を大まかに感じつつも、そちらを振り返ることなく街を出る。人気のない場所に出るなり刃を片手に襲い掛かってきた輩三名を、順番に着実に、かつ身を守りながら片付けること数十分。命を奪わず気絶させたため、力を加減した折に頬に一筋傷を貰ってしまった。最後にKOした敵を見下ろしてため息をつき、手を払ってから彼らの襟首を掴んで結界の中まで引きずって行く。一人ずつ街の入口へ運びこみ、やっと自由になったと伸びをしてから、頬を伝う鮮血を拭った。散々な散歩になってしまったとげんなりとした顔で指先を汚した血を眺めながら再びため息をついて歩き出す。そうして歩いているうちに、目線の先に捉えた人物に「あれ」とほんの少しだけ弾んだ声が極々小さく漏れた。その人物とは暫く前に再会し、それ以来その人の気配を行く先々で探していた人で表情を緩め軽快な足取りで歩み寄れば片手をあげて、)こんばんは。久しぶりね、ユーリ。会えるかなーと思って歩いてたらホントに会えちゃったわ。(さも何もなかったかのようにカラリと笑って見せる。彼に向けた言葉に偽りは無い。なにせ散歩の動機は本当に、会えたらいいな、会える気がするなという思いだったのだから。風が舞い、ふわりと髪をなびかせる。揺れる髪を手で押さえながら「ユーリも散歩?」「ここにいるってことは船でどっか行くの?」など、ありきたりな質問を投げかけ、同様にこちらも次の目的地や目的を話し、他愛のない近況報告をするのだが――ふと、話題が一区切りついたところで小さく溜め息が漏れる。昼間のように明るい月光に照らされ煌めく海へと顔を向けると、数秒の間を開けて口を開き)ユーリとダングレストで会ってからね、よく昔のこと思い出す様になったの。フレンが川に落ちた時、私が不安で泣きべそかきながらハンクスさんのとこに走ったなぁー…とか、二人に混じって一緒に遊んで、たまに喧嘩しては怒られたなぁ、とか。そんな風に思い出してるとね、今更ながら、私ってユーリとフレンのこと大好きだったんだなぁって思ってさ。(表情は穏やかに昔を慈しむような慈愛の微笑みを浮かべている。幼い頃は当たり前にあったもの、それが無くなり無性に寂しかったダングレストでの日々。そしていつの間にか忘れていたその寂しさを、彼らに対する想いを大人になった彼と再会して思い出し、原因を理解した。柔らかい声音で「だからね」と言葉を続け、彼を見て)正直難しいかもしんないけど、いつか一緒に旅がしたいな。隅っこに混ぜてもらえるだけでいい、機会があれば……その時は、ユーリたちがやろうとしてること、良ければ手伝わせてね。(にこりと微笑み、彼と分かれて以降にじわじわと思うようになった願いを口にする。互いに身を置く場所が違うゆえに実現は難しいかもしれないが、言うだけ言っておけば、もしかすれば実現のチャンスが巡ってくるかもしれない。そんな頼りない可能性に縋ってしまう程度には、彼と、もう一人の幼馴染と同じ場所に立ってみたいのだ)
あー、まぁあった方が気分は乗るがどうしてもって訳でもねェよ。合わせる。
(さて、彼女と再会してからというもの、行く街、行く道、仲間内に気付かれないようにとあの面影を探すようになっていた。のだけれど、敏いメンバーには既にバレているようで「今日もお目当ての相手には会えなかったのかしら?」と楽しげに笑みを浮かべ告げられたのだから思わず乾いた笑いが出てしまったのは仕方のない事、だと思いたい。もう一人の幼馴染である騎士様もダングレストでの彼女との再会を驚いたとともにひどく喜んでいて、懐かしいな、次また会えたのならは三人で食事をしよう。そんな話で盛り上がって。それと同時になんですぐに教えてくれなかったのかと、そういうところがある等と文句を言われたけれどそれは半分以上聞き流してやった。――それから幾日とまた目的のために道を進めて、加入しているギルド『凛々の明星』の依頼もそれなりにこなして過ごしたりして。本日は先に進むには遅くなってしまったからと街で体を休める事となったのだ。疲れたからと体を休めている者もいれば色々準備しないとと真面目に取り組んでいる者もいるのだから相も変わらずに自由なパーティだと息を吐いて、宿から自分には合わないほどに眩しくて煌めく夜空を眺めて不意に立ち上がる。―「ちょっくら、空気吸ってくる」そう近くに居たメンバーに声を掛けたのなら心地の良い外へと足を運ぼうか。何を思ってもいない、何故だか急に空気を吸いたくなったのだから不思議だ。宛てもなく潮風を感じながら歩を進めて時折足を止めては星や月を堪能してみたり、そうこうしてどれ程経とうか。そろそろ戻ろうか、そう考えていればふと人の気配を感じて、そちらの方へと顔を向けたのならそこにはあの面影があって―。)ようリズ。久しぶりだな、まさか思ってたより早くに再会できるとはね。…ははっ、そりゃ光栄だ。オレも…、いや、案外何も考えないで外出た方が会えんのかもな。(そう最後は小さく呟くように告げたのなら彼女に届いただろうか。届かなかったのなら安堵したように、何でもないと告げるのだけれど。「ま、そんなところだ。ちょっと空気吸いたくなってね。」「そうそう、そんで船乗ろうとしたけど今日は遅くて明日になって。」そう簡単に回答したのなら、彼女の次の目的等を聞いては関心を抱きながら話を聞くのだ。お互いに話をして、そうして、ほんの少し間。けれど、その間も気まずさなんて感じない。釣られるように海へと顔を向けて、彼女の言葉に耳を澄ませ、)…っ、はは、ンなこともあったな。オレは落ちたフレンの事追ってってさ。オレとフレンの喧嘩にリズが入ってきて大きくなったこともあった。…オレ等だってそうさ。ダングレストで会う前までは、本当にたまにお前を思い出してフレンと話するだけだった。でもこうやってよく昔の事がポンポン浮かんでくるようになった。全部忘れてた訳じゃねェんだ。(思い浮かべてはそんなこともあったな、なんて海を見つめる顔にはきっと今のパーティがみたら驚くだろう、優しい表情が浮かべられているに違いない。「大好きだった」なんて聞いたのなら、一度海と彼女か顔を逸らして、照れたように人差し指で頬を掻いてはあの楽しかった日々が自分にとっても大切なものだったのだと声に出すことはしなくても心の中でそんなことを思って―。続けられた言葉に、そっと彼女の方へと顔を向けたのなら目が合った彼女はやっぱり、綺麗だ。)―隅っこで、切り込み隊長が満足するとは思えないけど。…それにそん時には、全部片がついてるかもしれないが。……まずは、とりあえずその傷どうにかするこった。ウチには、心配症が信じられないほど居るんでね。(言いながら、真新しい頬の傷の横に軽く指を置くのか。彼女の願いが叶うのはいつになるのだろう。自分自身彼女を巻き込むつもりはないけれど、そんな調子で集まった自分のパーティを思い出しては浮かべるのは苦笑いか。この先の未来、パーティの人数がどうなるかは、彼女の行動力と、ウチの首領ともう一人の幼馴染に任せてしまおうか。そんなことをひっそりと思いながら、彼女との夜の逢瀬に別れを告げようか―。)
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