山瀬結季 谷地仁花





村人C? 村人B?

01

仁花はさー、私に好きな人いたらどうする?……なんて、ね。冗談だから忘れていいよ。


(談笑とお弁当の匂いに包まれた昼休みの教室。この時間は決まって最早慣習じみた、谷地仁花との女子トークタイムが繰り広げられる――筈だったが、彼女が部活に入ってからというものの、そうもいかない日も多くなってきた。近頃は特に忙しいらしく、ゆっくり話す時間もなく部活の会合に行ってしまっていて。今日は、ようやく久しぶりに一緒に昼休みを過ごせたというのに。)おーおー。今日も絶好調じゃん、百面相。(開けたばかりの紙パックの紅茶にストローを差し込む。先ほどバレー部の人が教室前の廊下を通りがかりに谷地に手を振り去ってから、突如始まったワンマン表情ショーを視界の端に収めつつ。彼女の反応が好きで、いつも揶揄ってしまいがちである。「ごめんごめん、可愛いからつい。」謝罪の言葉が出てきたのは、彼女の反応を楽しんだ後だった。それも、ふはり、と開口前に抑えきれず漏れた笑い声のせいで何処まで伝わっているかはわからないけれど。)そういえば、今日の放課後備品買いに行くんでしょ。あの人とさ。前だったら、即断りそうだったのにね。(あの人、とは先ほど通りかかったバレー部員のことである。バレー部に入り、少しずつ変わっていく彼女に気が付くのは、ずっと彼女を見ていたから。だからこそ、彼女があの部員を好きでいることも嫌でもわかってしまっていて。煌めく彼女はもう村人Bなんかじゃ収まらない、青春の舞台で輝くスターの1人に違いないだろうことも。村人Cのまま変わっていない自分とは大違いだ。ふと彼女を見遣れば。)そしたら、それまでにそれ曲がってるの直しておいた方がいいんじゃない?(視線で示したのは彼女のヘアゴム。――本当は、曲がってなんかいなかった。確認すれば、安易に暴かれてしまってもおかしくない。襲う寂寥に耐え切れなくて、嘘を吐いた。輝く彼女を止める権利はない。けれど、何光年先へと彼女が離れてしまう前に。手が届くこと距離にまだいてくれる、この時だけは。「結びなおしたげる。」寄り添う2つの星を外さんと手を伸ばそう、優しさを騙って。温もりを求めた手を彼女は受けて入れてくれるだろうか。1人で在るには、宇宙は冷たすぎた。)

へ、え、どえええ!?い、いるの?え、じょ、冗談?!ええ…?

 

(朝の部活を終え、授業も終えやっとの事で昼休み。お腹すいた〜なんてお腹をこすり弁当の入ったトートバッグを手にし小学校からの一番の仲良しだと自分は思っている大好きな友達の元へと足を向ける。「結季ちゃん一緒に食べよう!」そんな声掛けもいつの間にやら自然になっていった。高校になって新しい友達と食べるかもしれない、最初の内はそんな不安を感じながら声を掛けたのも記憶に新しい。バレー部のみんなと食べるのもにぎやかで楽しいものだがやはり気の安らげる彼女とともに食事をするのが何よりも好きなのだ。いただきます、と手を合わせたならいざ食事へ。お腹の減った今より美味しく感じられてしまう。きっと顔にもわかりやすく出てしまっている事だろう。食事をしばらく堪能していれば、ふと廊下からよく耳に入る声が聞こえちらりとそちらに目を向ける、と、そこにはやはり思っていた人物がいて、自分の名前を呼んで手を振るものだから顔が熱くなるのを感じながら慌てて手を振り返したのだけれど。―食事を食べ終えふと、どうしよう、変な顔見られたかな?わざわざ挨拶してくれて嬉しい、無意識な色んな思いが表情を変えさせていく。と、ともに過ごしていた彼女からの言葉に顔を赤らめながらわたわたとして、)ちょ、ちょっと結季ちゃん!からかってるでしょう〜!その、あんな風に男の人に手を振ってもらったりとかなかったし、…なんか、緊張しちゃったの。(もう〜と唇を尖らせるも、自分の小さな思いにそういうことかと納得させるように告げたなら、後には自分も小さく笑って見せて、)あ、えっと…うん、本当は、その…断ろうと思ったんだけど清水先輩が、行けないらしくて…そのかわりに。(照れたように、そう理由を告げれば弁当箱をトートバッグの中へとしまおうか。彼との放課後の時間を想像してぽかぽかとする温かな心には気付かないまま。―指摘されたヘアゴムに「えええ?!」なんて驚いては顔を赤らめて、伸ばされた手に甘えるように笑顔を向ければ、お願いします。とほんの少し頭を下げて彼女へと近づこう。これで結べやすくなるかな?なんだかくすぐったい気持ちに嬉しくなってふふふーと声を出して笑ってしまう。気持ち悪い、なんて言われてしまえば「だって嬉しくてー」なんて素直な気持ちを伝えるつもりで、何も言われないのであればそのまま嬉しそうに笑みを深めるばかりだ。彼女が結び直してくれたのなら「ありがとう!」と元気いっぱいに伝える他ない。やっぱり結季ちゃんとの空間は近くてあたたかい。大切な空間だ。)