ロゼ アントーニョ・F・カリエド
ヨーロッパの小国 太陽の沈まない国
02
せめてお昼は美味しい物にありつきたいものですわ…ねぇ、カリエドさま。
(小柄ながらも凛と伸ばした背筋に、規則正しく響くヒールの音。淡い金のツインテールはそよ風にふわりと浮かんではさらさらと流れ――そしてしんなりと落ちた。ついでに肩も落ちる。重苦しい溜息のおまけ付きで。)……何というかまぁ、踏んだり蹴ったりと申しますか…ここまで来るといっそ笑えてきますわね。(予想通り、やはり会議は延長の運びとなり、昼休憩を挟む予定がずれにずれ、すっかり太陽の位置までもがずれてしまった頃合いに漸く休憩と相成った。会議場の隣接施設で食事を済ませても良かったのだけれど、気分転換代わりにと外へ出て来たのが少し前のこと。しかし丁度昼時を過ぎてしまっているからか、軒並み目ぼしい店はランチとディナーの間の休憩時間のようで。店の前までやって来ては、"close"の札を見ることもう何件目だろうか。国際会議出席のためとやって来た外国の地での土地勘は殆どなく、見た目もいつも以上に令嬢然としているため、ちらほら見かけるファーストフード店に飛び込むのも気が引ける。というか、ここまで苦労したのだから、せめてそこそこ美味しい物を頂きたい。切実に。)……でも、そろそろ諦め時かしら。これ以上会議場から離れると、時間までに戻れる気がいたしませんわ。気が進みませんけれど、ファーストフードで手を打ちましょうか…。(何て呟くものの、諦め悪くきょろりと視線を巡らせてしまう。何処か、まだ開いている店はないか――と、目に留まったのは、“open”の札ではなく、見覚えのある茶色の髪。先程の会議中、はしたない姿を見せてしまった己に気にすることもなく、明るく会話を繋げてくれた彼の人のお蔭で、その後は欠伸を零すことなく会議を乗り切ることが出来たのだ。思わずそのまま見つめてしまい―そうして視線が合ったのなら、笑みを浮かべて其方へ歩み寄り、)ごきげんよう、スペ……じゃありませんわね。失礼いたしました、ええと、…カリエドさま。(いつもの調子で声を掛けようとして思わず言葉を飲み込む。往来で、彼の人そのものの名前で呼びかけるのは流石に可笑しく見えてしまうだろうと、―確か、見た目だけはうるわしい隣人が口にしていた彼の人の名を思い出しては呼びかけて、「先程は楽しいお話しをありがとうございました」と礼を述べた。)ところで、…カリエドさまはもうお昼は済まされてしまいましたか?もしお済みでしたら、どちらのお店が開いていたか、教えて頂けると有難いのですが…。実はわたくし、心当たりが全滅で。(偶然の出会いに、これ幸いとばかり、先ほどから頭を悩ませている案件を混ぜ込んだ。首尾良く未だ開いている店を教えて貰えたのなら、満面の笑みでもって礼を伝えるのだろう。万が一、彼も同じ悩みを抱えているようなら―ひとりよりもふたり、手分けして探すなり知恵を絞るなりの協力を依頼するのだろう。そうすれば美味しい昼食にありつける可能性も増えるだろうから。まぁ、どちらにしろ、彼の人が了承をしてくれるのならば、の話だが――人当たりの良い彼なら、いずれかの申し出は受けて貰えるだろうと、勝手な期待を込めて返答を待とうか。――願わくば、いい加減限界を訴えている己の空きっ腹が、鳴き声を上げてしまわない内に返ってくることを、緩く胸の前で組んだ手に力を込めながら、祈って。)
ふふん!そんなロゼちゃんには親分のとっておき教えたるわ〜!
んー、ほんっまに!あいつ等勝手やねんて。休憩時間なんてとっくに過ぎとるし、腹ぺっこぺこやー!(思い浮かべるは、あれから延長された国際会議の事だ。踊りに踊ったそれは修正するにも時間がかかり結局踊ったまますっかり昼時が終わったころに昼休憩となり、きゅうううと可愛らしくない音で腹の虫が鳴る。隣の席の国である彼女と話しているときも時折腹の音が鳴ったことに果たして彼女は気が付いていただろうか。彼女が話を聞いてくれたおかげで自分は腹ペコ以外の問題はなくむしろ楽しく休憩前の会議を終えることができたのだけれど。そう、小柄な彼女もそう思ってくれていたらいいなーなんて…一人思って恥ずかしいわーなんて苦笑いを浮かべるのか。そういえば、彼女はどこで食事を摂るのだろうか誘ってしまえば良かっただろうか?と我先にと会議室から出てきてしまったことに後悔しつつ再度鳴り出すお腹を押さえ空腹を思い出したのなら会議を躍らせた国達に文句を言いつつ向かうのは会議場の外。道を思い浮かべながら向かう先は外国の地に関わらず軽やかなもので、――というのも、国際会議が始まる前、少し早めに到着してしまった為に暇つぶしがてら迷わない程度にこの地を歩くことにしたのだ。宛てもなく道を歩き、店舗やビルを眺めたり時折道端に生えている草に目を遣ったりとしていたのなら、ふっと鼻先を掠めたのは大好きな嗅ぎ慣れたあの―たどり着いた店の前にはその数刻前と同じ香りが漂っていてごくりと唾を飲み込むのか。確か中休みがなかったことと閉店時間までも時間があることを確認しておいてよかったと安堵しつつその店舗へと足を踏み入れよう。思った通り、入れば強くなる”トマト“の香りに胸を躍らせてトマト料理を元気よく注文してやるのだ。それから美味しい料理を堪能したのなら会計を済ませ「すっごく美味しかったわーまた来るなー」なんて次はいつになるかわからないけれど、それほど美味しかったのだからまた本当にこれたらいいな、そんな気持ちで。―さて、まだ時間があるけれどどうするか、考えながら迷わないようにしばらく歩いていればふと見覚えのある小柄な女の子が此方を見ているではないか。思わずきょとりと目を丸くしていれば掛けられた声に、へらりと笑みを浮かべて手を軽くあげ、)やっぱりロゼちゃんやん、上品な女の子がおるなーっと思ってたら…はは、えー俺の名前覚えててくれたん?めっちゃ嬉しいわあ!ありがとう。(いい子いい子ーなんて優しく頭を撫でたなら、ご丁寧に先ほどの礼を言われたのだから再びきょとり。そして照れたように頭をガシガシと掻いたのなら「楽しんでくれてたなら良かった」とはにかんだ。そして、彼女のお悩みを耳にして思い出されるのは先ほどの後悔だ。)あー…ロゼちゃんご飯まだなんか。やっぱ出る時声掛けたったら良かったかなーごめんな?俺は少し前に食べたんやけど……、あ!…あー、でも服汚れてまうかな…いや、でも掛けるの配ってくれるし……、…(ぶつぶつ、呟いて悩んだ末自分の中で答えは出てきて満面の笑みを彼女へと向けたのなら、)なあ、ロゼちゃん。トマト食べられる?美味しいトマト料理専門店あったんやけど、そこで良かったら案内するわ〜(もしもトマトが食べられないのなら、しょんぼりしつつも「親分も一緒に探したるよ!あっちの方はまだ空いてる店あったし!」と声を掛けるつもりで、トマトが食べられるというのであれば嬉し気に元気よく頷いて見せるはず。どちらにせよ、彼女の周りの国と比べたら紳士的な仕草とは言えないけれどそっと手を取りゆるりと笑みを浮かべたなら、出来る限り優しく手を引き歩を合わせるようにしながらまた談笑を交えつつエスコートするのだろう。―どうか、彼女が喜んでくれる店がありますように。そう願って。―そうしてたどり着いた店には一緒に入っていくつもりなのだけれど、入る前に「親分も喉乾いたからご一緒してええ?…そんで一緒に帰れたらなって。」そう告げるつもりでまるでナンパしているようだと苦笑い。拒否されてしまえばそれまでだ、己の帰りが一人になるか、二人になるかは彼女の答え次第。)
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