烏丸小雪 川西左近





怪我体質なくのたま 不運体質な忍たま

01

ねえ、左近。これだけ不運に見舞われて怪我をするんだから、私も保健委員会に入れると思わない?


(実技試験といえば烏丸には怪我が付き物。本日もまた例外では無かったようで、保健室へと足を向ける烏丸の右腕に巻かれた布には鮮やかな赤がじわじわと広がっていた。くのいち教室に入った時から怪我等覚悟の上であったし、そもそも実技授業の度に怪我を負っている烏丸にとって、この程度の怪我等大したことはないのだけれど、その表情は保健室に近づくにつれて強張っていく。)このまま何もせずに帰ったら皆も先生も怒るよね……あああ、でもなあ、(一旦保健室の前で立ち止まったかと思えばその前を通り過ぎ、また折り返して保健室の前で立ち止まる。何度繰り返しただろうかその光景を、廊下ですれ違う忍たま達に訝し気に見られている事等、保健室に意識が向いている彼女はまるで気付いていない様子。血が止まらない事よりも、怪我の少しの痛みよりも、今保健室の襖を開ける方が彼女にとっては重要なのだとばかりに、大きくため息を一つ漏らしたならば、ようやく襖に左手をかけて)願わくば善法寺先輩か三反田先輩。ううん、伏木蔵でも乱太郎でもいいから、(そう、どうか彼以外なら。そんな言葉を小さく付け加え襖を開ける。――その後、数秒固まってしまったのは、襖の先に座っていたのが、先程烏丸が挙げた名前のどの人物でも無かったからだろう。)……あ、えーっと左近、奇遇ね。最近の調子はどう?久作達は元気?(不自然な程ににこやかな笑みを浮かべながら、彼の前に座ったなら、世間話とばかりに会話を始めるようか。恐らく、そんな世間話は烏丸が誤魔化せないと観念するまで続く筈で。)いやあのね、そんなに大袈裟なものじゃないのよ左近。試験は成功したし、大丈夫だったの。でもちょっと色々あったというか、皆が試験終わるまで暇だったというか、それで試験で使ってた戦輪を某先輩みたく回してたら何でか手からすっぽ抜けちゃったというか、それでちょっとした傷が腕にできただけというか……ね?(もう誤魔化し様が無いと腹をくくったのか、あからさまに視線を目の前の彼から外したならば、ずいっと傷を負った右腕を彼の前に差し出そう。口から出る本日の怪我の理由に果てさて目の前に座る彼は呆れるのかそれとも――)でもね、血が結構出てるだけで、全然痛くないの。友達が言うには傷も小さかったみたいだし。(口から出続けるのはそんな言い訳ばかり。しかしそんな言い訳も、先程から外していた視線を彼へと向ければぴたりと止まってしまった。今言わなければならないのは、言いたいのは、そんな言い訳ではない。ぎゅっと唇を噛みしめた後、紡ぐ言葉は)……いつも、ごめんね。(短い謝罪の言葉で。)

小雪のは不運って言っていいのかわからないけどな。そんなんで保健委員会に入れるか!!

 

(天気がいい、そんな日は大抵山へ登り薬草摘みへ先輩を筆頭に行ったりするのだけれどぽつりと己が佇むのは保健室。そう、予定では自分も山へ登っているはずだったのだけれど「今日は左近に番を頼めるかい?」なんて先輩にお願いされたら断る訳にもいかない。別段、山へ登りに行きたかった訳でもなかったのだから承諾したのもあるのだけれど。何分この保健委員会は何をしていても何故か不運に見舞われるのだから何が起こるのか分からない怖さもあるのだ。薬草や必要な道具を取りに行くだけでかすり傷から大きな傷まで負うことがあるのだから。…と言ってもこの保健委員会をやめたいと思ったりしたことは一度もないし寧ろ誇りに感じているほどで。――そんなこんなで、今日はひとり番をしながら保健委員会の仕事をこなしているわけなのだけれど。ふと思い出されたのは同い年のくのたまでそういえば今日は実技試験があるという話だったな…なんて思考が揺れる。実技の時には恒例と言わんばかりに毎度怪我をしては保健室へと足を運ぶくのたま、彼女にはよくからかわれたりしていて川西自身あまり好い気はしていなくて。けれど保健室で会えば委員の仕事だと小さな怪我から出血のある怪我まで手当てをこなしているのだ。時には先輩が、後輩が。―ふう、小さなため息を吐き頼まれていた薬草を潰し終えたのなら立ち上がり取り出したのは包帯と救急箱、それらを傍らに置き作業を続けていたのなら開かれた襖。そちらに目を向けたのなら予想通り、例のくのたまがそこに立っているのだから思わずついてしまった息はとうに空気と混ざり合ってしまう事だろう。右腕に巻かれた布に見えた鮮やかな色に眉間に皺が濃く刻まれることになるのだけれど。)…奇遇、ねぇ。とくに変わりなく、…あー小雪も変わらずみたいだけど…?(前に座った彼女を一度確認したのなら続けられる会話を適当に流しながら息を吐いて。ぶっきらぼうにそっと手を差し出した表情は呆れたものとなっているのだけれど少なからず心配、というものも含まれていることに目の前のくのたまは気が付いただろうか。)いいから、腕診せて。そのままにしとく訳にはいかないし。(腹をくくったように差し出された右腕の布を取り手で支えながらその傷を確認したのなら、救急箱から薬などを取り出して彼女の話を聞きながら治療を施していくのだけれど、思わずがくりとずっこけてしまったのは何とも言えないこの傷の正体のせいだ。けれど安易にその場を想像できてしまう事に彼女らしさを感じて深いため息を一つ。)……あのなぁ、傷は小さくても血が結構出てるってことは深く切ってる可能性だってあるんだからな。それに治療が遅れてその傷口から菌が入ったりして…最悪腕が動かなくなることだってあるかもしれない。それから、(治療をしつつ眉を下げて、その傷口に触れぬように手を添えて目の前に居る彼女に目を向ける。合った視線に戸惑いを感じつつ再び腕に目を向けたのなら最後にと包帯に手を掛け腕に巻いていこうか。聞こえてきた謝罪の言葉にまた彼女の方に目を向けたのなら、)…ぼくに謝りたくないんなら、もう無茶して怪我しないこと。それでも怪我しちゃったなら、例えぼくが居たとしても早く保健室に来ること!(巻き終えた包帯。終えることのできた治療に安堵の表情を浮かべたのならそんなお願いを伝えてみようか。反応はどうあれ、「今日はあんまり腕刺激しないように」と伝えて彼女が退室するまで見届けるつもりだ。―さて、それから彼女の怪我の頻度や保健室へと来る頻度に違いは出ただろうか。どうあれ、きっとくのたまが実習や試験がある日には事前に救急箱と包帯を用意することは忘れずに―。)