過去の話

「ねえ、どうして舞燐は軍学校に入ったの?やっぱり軍人さんになりたいから?」
「……お前には関係ないだろう」
「あのね、私は……」
「、…………」

勝手に話し出す彼女を見ながら、唇を軽く噛んで視線を逸らす。
彼女は、なぜか私にしつこく話しかけてくる。いくら弾いても、必ず笑顔を引っ提げてやってくるのだ。私が彼女に何かしたのか、いいや、何もしていない。私に彼女が惹かれるようなものがあるのか。いいや、あるわけがない。
自問自答になのか、はたまた一人で話している彼女になのか、大きなため息が出た。それでも彼女は話し続ける。

「……ほんとは、こんなところ居たくない」

ぽつり。彼女は言った。頬杖をついていた手から頬が離れ、気づいたら視線を彼女に戻してしまっていた。長く柔らかい髪を揺らして、まっすぐ視線を合わせて。

「今の、内緒ね」

困ったように笑みを浮かべながら、人差し指を鼻先に押し当てて肩をすくめた。初めてみる彼女の表情に内心驚きを隠せないでいたものの、突如、強引に引っ張られた右手に身体が斜めり、駆け出す彼女に私も立ち上がらざるを得なかった。椅子がガタリと音をたて、横を向いたまま放置される。

「っおい!?何処へ行くつもりだ!これから授業だろう!?」

同じ制服を着た生徒たちの間をサッサと抜けて、ついには教室の扉まで抜けてしまった。そのまま長い廊下も抜けて、外へ出た瞬間。
授業開始の、鐘が鳴る。

「……授業、始まっちゃったね」
「始まっちゃったね、っじゃないだろう!?わ、私まで教官に怒られてしまうじゃないか……!どうしてくれる!?」

彼女に捕まれていた腕を振り払い、拳を握って声を荒げる。たった今始まった授業の教官は、厳しく怖いと有名だ。そんな教官の授業を受けずにこうして勝手に外に抜け出したとなれば、大目玉を食らうこと間違いない。目をぱちぱちをさせている彼女の視線は私……の後ろ髪にある。ええい、今は髪にだって構っていられない!

「聞いているのか、アリシアッ!?」
「えっ、私の名前知っていたの!?」
「当たり前だ!毎日しつこく話しかけてくるやつの名前ぐらい、嫌でも覚えてしまうだろう!」
「きゃー!嬉しいー!」
「だーかーらーっ!」

地団太を踏む手前。またもや手首を掴まれて、今度はすぐ傍の垣根まで引っ張られた。そこへ隠れるように私まで押し込むと、人差し指を鼻先にあてながら楽し気に「しーっ」と言う。さっき見たときと同じポーズだけれど、こちらの方がアリシアには似合うと思った。
垣根の前、誰かが通り過ぎた。辺りを伺うように何度か行き来し、しばらくしてから去っていく。……まさかとは思うが、巡回していた教官だったのか。それから隠れ通して……って、さらに怒られてしまうのでは!?

「舞燐って優しいね」
「は、はあ?突然なんだ……」
「だってほら、今も私のわがままに付き合ってくれているでしょう?とっても優しいわ」
「こっ、……これは、お前が引っ張るから……、」

アリシアがくすりと笑う。それにまた唇を噛んで視線を外すと、頬にすっと手が伸びてきた。両頬にそっと触れた指が、次には細かく動きだす。むにむに。なんなんだ!

「ねえ、せっかくだし、二人でお買い物行こう」
「はっはあ!?お前、本当に何考えているんだ!?」
「きっとこの時期だもの、可愛いお洋服沢山あるわね。普段着れないけれど、試しに着てみるぐらいいいと思わない?」
「……ぐっ、」
「まりりん、美人さんだからきっとなんでも似合うと思うの!」
「…………っ、」

アリシアには、怖いものはないのだろうか。そんなことを思いながら、垣根から顔をだして辺りを見回し、また私の手を引いて校門目がけて一直線に走り出す後姿を見た。

「というか、"まりりん"って何!?」
「可愛いあだ名。可愛いまりりんにぴったり!」
「か、かわいくない!」
「可愛いよ?」
「……っもう!!」

走る、走る。気付いたときには、校門なんて小さく見えるぐらいまで来ていた。

きっと今、いけないことをしている。ぼんやりと背徳感があるけれど、そんなことなんて欠片も思っていないようなアリシアがいるからなのか、だんだんと背徳感すら消えていく。学校という檻から抜け出した解放感。そちらが上回るのは、すぐだった。





目を開ける。まだ辺りは暗く、街も静かに眠りについていた。抱えていた刀を身体から少しだけ離し、柄の部分を見つめる。

「懐かしい、夢だった」

ただ、今だけは見たくない夢でもあった。
懐から、首領から渡された写真を出す。上の部分は綺麗に穴があいている。たぶん、この写真は壁にナイフで差し留められていたのだろう。少しだけ色あせている写真に写る彼女の横顔は、もはや軍人のそれだった。

「―……アリシア、」

写真に額を寄せて、目を閉じる。
軍学校を卒業し、どれほど経っただろうか。結局、彼女はなりたくないと言っていた軍人になっていたらしい。そして私は、。

「いつかは、こんな日が来てしまうだろうと思っていた。迷いはない。―……迷うな」

自己暗示をかける。もう後戻りはできない。いや、とっくの昔から、もう元には戻れなくなっていた。
―……私は、殺し屋だ。相手がだれであろうが、殺すことが仕事なのだ。

そう、たとえ相手が友であろうとも。


闇の中、彼女は一人走り出す。友の元へ。殺すべき、相手の元へ。


______

りうちゃから頂いた小説です。りうちゃ宅、アリシアちゃんと自宅の舞燐が同じ軍学校に通って仲良くなってたら可愛いね〜!という話をしてましたら、なんと小説を書いていただきまして…!!時が過ぎて、殺し屋である舞燐の標的がアリシアちゃんになってしまう…という何とも最高で胸がギュッとなるお話でした。友達が対立するのサイコ〜〜!(不謹慎)この度は、素敵なお話をありがとうございました!!

[back]
ALICE+