頂きSS

「ツグぴーさ、何で手持ちのポケモンになったの?」

霙の質問にツグはゆっくり瞬きをした。質問の意図が伝わらなかったのだろう。霙は茶請けの金平糖を一つ口に放り込み、噛み砕きながら続ける。

「ボールの中狭そうだし、好き勝手コキ使われるし、何より人間なんかの命令聞かなきゃなんないとか―――」

霙が最後まで言い終わる前に、毒々しい紫のオーラを纏った右拳が音もなく左胸に押し当てられる。ツグの得意技の「毒突き」だ。彼がこのまま拳を振り抜けば霙の心臓は容易く破壊されるだろう。つうと冷や汗が頬を伝い、心臓が早鐘のように鳴っている。

「発言撤回、要求。汝、主、侮辱。我、憤怒」

眉一つ動かさず、抑揚のない声で紡がれる音。いつもと同じ薄い反応。しかし、ツグは文字通り憤怒していた。微塵の躊躇いもなく急所に技を放とうとする程に。

「……ごめん。撤回する」

「承諾。次、命中」

ツグは霙の謝罪に頷くと、静かに拳を降ろした。そっと胸を撫で下ろす。乏しい表情と裏腹に感情豊かなのは知っていたが、ここまで起伏が激しいとは、否、これ程自身のトレーナーを慕っているとは思わなかった。霙の知る限り、人間と一緒に暮らしていて幸せなポケモンはいなかったのだ。偽りの愛と宝石で飾られたあの少女のように。

「ツグぴーはトレーナーさんのこと、好き?」

「肯定。我、主、敬愛」

「……そっか」

即答され、流石に軽率だったと反省する。自分だって、もしも目の前で主たる少女が侮辱されたら水手裏剣の一つや二つでは済まさない。

「汝、同様」

「え?」

想定外の台詞に今度は霙が瞬きをした。

「汝、しずり、愛好。主、愛好。我、同様」

霙が言葉に詰まっていると、何の色も映さない金色の瞳が「違うのか」と問うてきて、慌てて「ち、違くない!!」と叫んだ。

瞼の裏で愛しい少女が白い長髪をなびかせて振り返る。小さな蕾のような唇が緩く弧を描き、みぞれ、と動いた。たったそれだけの事で胸が高鳴る程、霙は少女に惚れ込んでいた。

霙よりずっと年も体も小さく、病弱なのにも関わらず、強くて優しくてかわいい、世界で一番大事な女の子。

自分の少女に対する「好き」はツグのトレーナーに対する「好き」とは異なる種類のものだったが、相手が大切なのは同じだと勝手に納得する。

霙はツグの青と赤の指で摘ままれた金平糖を何とは無しに眺めた。白、赤、緑、青、桃色。俺達みたい、と心の内で小さく笑った。
霙の視線など物ともせず、真一文字に結ばれた唇から小さく顔を出したブラックホールが、色とりどりの星たちを吸い込んでいく。

す、と金色がこちらを向く。澄み切ったそれに自分の赤が映っている。

「汝、しずり、守護。我、友、助力」

何気なく告げられた言葉に思わず目を見開く。じわじわと胸が熱くなる。そっか。俺ら、ともだち、なんだ。

「……うん。ありがと、ツグぴー」

くしゃりと笑った霙に頷きで応えたツグは、いつもの無表情のまま紺色と朱色の金平糖を口に放り込んだ。

仲間。友達。好きな人。
孤独だった頃の寂しさが嘘のように、空っぽの心を埋めてくれる存在が幾つも出来た。誰も信じられなかった自分が、彼らを大切だと素直に認められるようになれたのは、なれるように導いてくれたのは、間違いなく。

小ぶりの白い金平糖をそっと摘んで頬張る。純白の星は、普段舐めている飴よりもずっと甘く感じた。


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ふぉるてさんから頂いた小説です。霙やヒメの設定をしっかり盛り込んでくださってて震えました…!加えて、みぞしず風味とか最高すぎませんか??自宅CPのお話書いてもらえるとか夢かよ???という感じなんですけど、夢じゃなかったです…夢だけど、夢じゃなかった……。それから、ふぉるてさん宅のツグくんと霙がお友達になりました!いえ〜い!この度は、素敵なお話をありがとうございました!!

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